第91話 カール、拗ねる

「エンマ、あててみてください。」

「うん!」

編み始めて数日、エマのセーターの形が見えてきた。

「うん、良さそうですね。」

「エマちゃん、かわいい~」

「似合うぜ、エマ!」

編み途中でエマに合わせてみるが順調だ。


「おやつよ~。」


「ダイちゃんが呼んでいます!」

「ちょうどお腹が空いてきたところです。」

今日は土曜日なので唄子さんはお休みで、ダイアナがおやつを用意してくれた。

二人と二匹でバタバタと集まると、揚げたてのプィシカと焼きたてのピロシキが山盛りだった。

ダイアナの家庭ではピロシキは揚げずにオーブンで焼くレシピのようだ。

「わあ!」

「僕、おばあさまのプィシカとピロシキ大好きです!」

「プーシってなあに?」

「プィシカはふわふわのドーナツですよ、粉砂糖がたっぷりまぶされていて美味しいですよ。」

マリーの疑問にデイモンが答える。

ダイアナの故郷であるストロガノフの里はロシアのサンクトペテルブルクの文化に似ている。

「涼しくなってきたきたから美味しいかと思って。熱い紅茶やミルクコーヒーと一緒にいただくのよ。」

エマやジジ&マリーのために小さめのサイズが用意されているのが嬉しい。

「いただきまーす!」

ばふっ!

「プーシ、美味しい!」

「俺、ピロシキ好き!」

マリーが顔を粉砂糖まみれにして喜んでいるのが可愛い。ジジもピロシキが気に入ったようだ。


エマも、ばふっ!とプィシカに噛り付いて、もぐもぐもぐもぐ・・・熱い紅茶を飲む。

「美味しいです!紅茶に合います。」

「エンマ、こっちを向いて。」

エマの顔に付いた粉砂糖をデイモンが拭う。

「ありがと。」


デイモンの横の白い塊が動かない。

「じいじ?」

白い塊は食卓の隅で思いつめた表情のカールフェンリルだった。

「どうしましたか?ダイちゃんのおやつ美味しいですよ?」


じゅわ~

カールフェンリルの目に涙が溢れる。

「じいじ!」

「もう!カールは大袈裟なのよ!」

焦るエマと、何でもない様子のダイアナ。

「きゅう~!」

そっけないダイアナに抗議するように涙目で鼻を鳴らすカールフェンリル。

「来週、里帰りするから拗ねているの。」

「じいじは一緒に行かないのですか?」

「カールは仕事があるでしょう?」

「きゅう~!」

「鳴いてもだめ!私だって遊びに行くんじゃないのよ、冬支度の手伝いなんだから。」


「ぶきゅう!」

がたん。

ダッシュ!


拗ねたカールフェンリルが抗議の鳴き声をあげ、泣きながら走り去った。

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