第86話 サタンの同僚アッシュ

「それでルシファーは大丈夫なのか?」

魔界軍でサタンの同僚のアシュタロトがサタンにたずねた。

「ああ、ロンドンの空気が合わなかったようだが、こちらに戻って落ち着いた。」

ルーシーの不調の原因は、産業革命による大気汚染が合わなかった…ということになっている。

「そうか、回復しているならよかった。あの可愛いチビエマも一回り成長したと聞くぞ。同じ年頃のお友達と過ごすことができて良かったな。」

アシュタロトは身体が大きく顔も怖いが、心優しく可愛いものが大好きだった。

「ああ、ありがとう。それよりアッシュ、お前こそ最近元気がなさそうだが・・・。」

「俺のはただの恋煩いだ。」

げっそりとやつれ、凄みを増した顔のアシュタロトが真顔で言う。

「そ、そうか。」

思わずサタンも目を反らす迫力だ。


アシュタロトの恋の相手は妖狐のブリーダーだった。


“もっふもふ“で”ふっかふか“な”ぬいぐるみ“のようなルックスの妖狐は魔界ランドで人気のペットだ。

顔に似合わず可愛いものが大好きなアシュタロトは、野生動物のレスキュー団体でのボランティア活動も熱心に行っており、同じレスキュー団体で活動するブリーダーの青年、たちばなに恋していた。


「ふう・・・。」

アシュタロトが怖い顔でため息を吐く。

家族で妖狐のブリーダーをしている橘は、妖狐の出産シーズンで忙しく、レスキュー団体での活動に顔を見せていなかった。

「会いたい・・・。」

アシュタロトが怖い顔で切なそうにつぶやく。


「アッシュ!」

アシュタロトの姿を認め、声をかけたのは魔女の館のリーダー、サマンサだ。

彼女もまたレスキュー団体で熱心に活動していた。


「サマンサか。」

「元気がないわね。」

たちばなが、ここで活動を再開するまで、まだしばらくかかるぞ。」

「会いに行ってはどうだ?」

サマンサとフギンとムニンが心配そうに声を掛ける。

アシュタロトの恋はサマンサたちにバレバレだった。

「いや、妖狐たちにとって大切な時期だ、邪魔することはできん。」


――― アッシュったら怖い顔して優しいんだから。

サマンサは心の中でつぶやいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る