第85話 久久能智、ちょっと良いとこみせてみたい

ルーシーと人間界の人々の記憶を夢とすり替えて、一同が魔界ランドに帰還した。

トラブルはあったが、エマの成長という目的は少し果たした。


帰還後、デイモンがエマにべったりかと思ったら、エマがデイモンにべったりだった。

「それでね、マギーちゃんは一番のお姉さんで、いつもみんなの心配をしていたんですよ。アンディー君はテオ君みたいでした。」

ダモフェンリルを枕代わりにごろ寝しながら、お喋りするエマ。

ニコニコと頷きながら聞くダモフェンリル。


「ねえ、エマちゃん、デイモンさん、果樹園の様子をみたいわ。」

ダモフェンリルの毛皮に埋もれ、フカフカを堪能していたマリーが言う。

「そうでした!エンマ、柿と林檎を楽しみにしていたのです!」

「では、みんなで見に行きましょうか。」

よっこらせ、とダモフェンリルが起き上がる。


お喋りしながら歩いて行くと、段々と甘い香りが強くなる。

「熟しているようですね~。」

エマが嬉しそうだ。

「なんだか騒がしいんだぜ。」

「言い争っているみたいですね。ダモ、いってみましょう。」

二人と二匹で騒ぎのもとにやってきた。


騒ぎのもとはサタンのドラゴン、黒王号たちだった。

「コクオウ!どうしたのですか?」

「ぐるるるるるるる!」


――― どうしよう、何を言っているのか、ぜんぜん分かりません・・・・・。


「エマちゃん、ドラゴンさんたち、お腹が空いているみたい。」

「フルーツが好きでお腹いっぱい食べてみたいけど腹の足しにならないって嘆いているんだぜ。」

「ジジ君とマリーちゃんは、コクオウの言っていること分かるのですか!?」

「使い魔だからな!」

「通訳するわね。」

黒王号たちが三つ指ついてお行儀よくお座りしながら事情を説明する。

旬のフルーツは好物だが滅多に食べさせてもらえないこと。

食べられる時も、小さすぎて“ひとくち”にもならないこと。

それなのに、毎年、毎シーズン、甘い香りだけをかがされてお預けを食らっている。

とても悲しそうだ。


ほろり。

「みんな可哀そうです・・・ダモ、なんとかなりませんか?」

「フェンリルの力ではなんとも・・・・。」

申し訳なさそうに下を向く。


エマ。


聞き覚えのある声に振り返ると、久久能智ククノチが立っていた。

久久能智ククノチさま!」

エマが駆け寄ると、久久能智ククノチがエマを抱き上げる。

「ふふふ、僕の力が必要なんじゃないかな?」

久久能智ククノチはエマに加護を与えた木の神だ。

「もしかして・・・!」

エマの顔が期待に輝く。

「ここら辺の果樹に実る果実が特大サイズになる加護を与えよう。大きくなっても大味ではなく、甘くて美味しいよ。」

「ぐるるるるる!」

「ぐおおおおお!」

ドラゴンたちが喜びの声をあげる。

「エマちゃん、みんな嬉しいって!」

マリーが興奮気味に通訳する。


ぱくん。もぐもぐもぐ。

黒王号が巨大化したリンゴを食べる。


じゅわ~。

黒王号の目に涙が溢れる。


「ぐるう・・・」

「美味しいって言ってるんだぜ!」

ドラゴンたちが嬉しそうにリンゴを食べる姿は感動的だった。

久久能智ククノチさま!ありがとう!」

エマからの感謝のハグに久久能智ククノチも嬉しそうだ。


「こら!」

エマとデイモンが飛び上がる。

振り返ると、怖い顔のヒゲのおっさんとヒースが立っていた。

「あ・・・やべ。・・・じゃあ僕はこれで。」

「待てや、こら。」

怖い顔ののヒゲのおっさんが久久能智ククノチの襟を掴む。

久久能智ククノチが猫の子のようだ。


「彼はクロノス、大地と農耕の神で僕の茶飲み友達。」

誰もが恐れるクロノス(怖いので友達が少ない)に、ズケズケと物怖じしないヒースの性格がドはまりして以来の茶飲み友達だった。


「たまたまヒースのところに茶を飲みにきていたのだが、神力が働いた気配がするので来てみたら、お前か寝坊助。」

久久能智ククノチが寝てばかりの神であることもバレバレだった。

「加護を与えるのは良いが、生態系を破壊するような操作はご法度じゃろうが、この阿呆め!」

「えっと・・・。」

襟を掴まれながら目を泳がせる久久能智ククノチ


「ごべんなしゃい・・・エンマが、お願いじだから・・・えぐえぐ。」

「チビは悪くないぞ。そなたがお願いする前に、こ奴が進んでしたことだ。それにたとえ願い、請われたとしてもだ。

神ならば良いことと悪いことを正しく判断しなければならんのだ。悪いのはこの駄神だ。

無関係なチビがそなたのために必死に謝罪しているというに、お前ときたら目を反らしてすっ呆けようとして・・・神として情けなくはないのか?」

クロノスの怒りが2段階進んだ。

「ごめんクロノス、エマにちょっと良いとこ見せたかったんだ、テヘペロ。」

久久能智ククノチの軽さにクロノスの血管が破裂しそうだ。

「すうー、はあー。すうー、はあー。」

クロノスが深呼吸で心を整えた。


「・・・まずは、この植物たちだ。」

この流れは加護を取り上げられると覚悟したドラゴンたちがしょんぼりと項垂れていた。

「これからも巨大な果実が実り続ける。しかしこれ以上は増えぬ。実る果実はすべて種無しだ。もし接ぎ木をしてもここ以外の土地では普通サイズの種ありの果実が実る。この果樹園の中でも、このエリア限定の加護に作り替えた。」

「じゃ、じゃあこれからもコクオウたちはフルーツを食べられますか!?」

「ああ、毎年美味しい果実が実るだろう。」

わあ!

ドラゴンたちが嬉しそうだ。


「ずるい!ずるいよクロノス!僕の加護を横取りするなんて!」

久久能智ククノチが不満を訴える。

「生態系を破壊するようなことをしておいて何を言う!イザナギやイザナミたちを交えて話し合いだ!」

クロノスが久久能智ククノチの襟をがっちりと掴んだまま睨む。

「ちょ!やめて!それはだめ!僕、今回はお忍びだから!」

今回は・・ではなく、今回も・・なのだがエマは黙っておくことにした。

「そなた、もしかして降臨許可を取らずに、ここに来たのか?」

すいー、と久久能智ククノチが視線を逸らす。

クロノスの血管が破裂しそうだ。

「すうー、はあー。すうー、はあー。」

クロノスが深呼吸で心を整えた。


「チビ、久久能智ククノチは当分、ここには来られぬ。何かあれば儂に連絡するが良い。連絡方法はヒースが知っておるからな。」


駄々をこねて暴れる久久能智ククノチの襟首をしっかりと掴み、クロノスが天に帰った。

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