第84話 ルーシーの悪夢

「ジジ君、マリーちゃん!明日は学校のみんなが二人に会いに来ますからね!」

ジジとマリーのブラッシングを終え、二匹を撫でながらエマが言う。

「にゃあー!」

「にー!」

「二人の可愛さに、みんなびっくりですよ!」

ぎゅっと二匹を抱きしめた。


「エマ」

「なんですか?さ・・パパ。」

サタンのパパ呼びはまだ慣れない。

「明日のおやつはトライフルで良いのか?」

「はい!パパのトライフル大好きです!」

フルーツにクリーム、スポンジ、カスタードなどを何層にも重ねたデザートはエマの大好物だ。

料理上手なサタンの手作りは特に美味しいので、学校のみんなと一緒に食べたいと思っていた。



「おはよう、エマ。」

「おはようございます、マギーちゃん。」

「いよいよ今日ね、楽しみにしているの。」

「エンマもです!」

「よよよよよよお!」

「おはようございますジェフ君、ジェフ君とテッド君も、来ますよね?」

「ななななななんの話だ!?」

「もう!いつも話の途中で、どこかに行っちゃうから!みんなでエマちゃんの家に遊びに行く話よ!」

「子猫が二匹いるんだよね?」

「はい、ジジ君とマリーちゃんです!とっても可愛いのです!」

「おおおおお俺たちもいいいいいい良いのか?」

「だから誘っているじゃないですか!」

微妙にかみ合わない会話に、「もう!」と、エマが苛立つ。

「いいい行く!おおおおお俺も行く!」

「はい。学校の帰りにみんなで寄ってくださいね。」

当然、その日ジェフは、いつも以上にソワソワと落ち着きがなかった。


放課後、ベスと手を繋いで歩くエマは、今日も得意顔だ。

「ベスちゃん、ジジ君とマリーちゃんは、とっても仲良しなんですよ!」

今日もベスにお姉さん風をビュンビュン吹かせていた。


「着きました!どうぞ入ってください!パパ!ただいま帰りました!」

サタンのパパ呼びは、昨夜特訓したので滑らかだ。

エマの呼びかけに応えてサタンが現れる。

「おかえり、エマ。エマのお友達もようこそ。」

サタンはエプロン姿だった。

「こ、こんにちは・・。」

「お、おじゃまします・・。」

この時代に男性のエプロン姿はパンチがありすぎた。

テッドやジェフ兄弟でさえ、どもってしまった。


しかしエマとサタンは全く気付いていない。

いつものようにジャンピング抱っこで頬ずりしている。

「パパ、ジジ君とマリーちゃんはどこにいますか?」

「サンルームで日向ぼっこさせているよ、お茶もそこに運ぼう。エマのリクエスト通りトライフルができているぞ。」

「わあ!ありがとう。」


「みんな!こっちです。」。

びっくり顔の学友たちをサンルームに案内すると、ソファの上で二匹が寄り添っていた。

「ジジ君!マリーちゃん!」

「にゃあ!」

「にー!」

駆け寄る二匹をエマが抱き留める。

「ただいまです。」

むぎゅ。


「黒い子がジジ君で、白い子がマリ―ちゃんです。」

「わあ!かわいい!」

「小さいなあ、かわいいね。」

アンディーとベスの兄妹が頬を緩める。

「私も抱っこしてみたいわ。」

しっかり者のお姉さん、マギーも嬉しそうだ。

「小さいな・・・。」

「うん小さい・・・。」

テッドとジェフの兄弟は少し遠巻きだ。男兄弟で乱暴な遊びに慣れているので、いつも通りでは不味い小ささだと一目で理解したようだ。


コンコン

「いいかな?」

ひとしきり戯れ、満足したタイミングでサタンが現れた。

「エマのリクエストでトライフルを作ったんだ、ぜひ食べていってくれ。」

迫力系イケメンなサタンがエプロン姿で手作りケーキとお茶を運んできた。

違和感に緊張が走るがエマとサタンは気づかない。


「わあ!ありがとうございます!エンマ、パパの作るトライフル大好きです!」

「うむ。」

サタンが嬉しそうだ。

「エマ、みんなと一緒に手を洗ってきなさい。」

「はい!みんな、こっちです。」

水魔法も浄化の魔法も使えず不便だが、エマは井戸の使用を楽しんでいた。


エプロン姿のサタンがトライフルを取り分けて紅茶を入れてくれた。

「どうぞ。」

「ベリーのトライフル、エンマ大好きです!いただきます!」

ぱくっ!もぐもぐもぐもぐ・・・。

「美味しいです~!」

エマの顔がとろける。


「い、いただきます。」

「いただきます。」

エマにつられて子供たちがトライフルを口にする。

「!」

「美味しい・・・。」

エマとサタンがドヤ顔だ。

「パパはお料理も得意なのです!エンマ、パパのシェパーズパイが一番好きです。」

期待するような目でサタンを見る。

「それは今度な、今日の夕飯はスコッチエッグだ。」

ジジとマリーに湯がいた”ささみ”を与えながらサタンが答える。


「エマちゃんのパパはお料理するの?」

小さなベスが疑問を口にする。

「ああ、料理はいいぞ。作るだけで達成感を味わえるし、美味しいと喜んでもらえたら天にも昇る気持ちになれる。メイドたちに任せることもあるが、出来るだけ自分で作りたいものだな。」

子供達が、すげー!という目で見ている。


その時、玄関の方からバタバタとした気配がした。

「ルーシーが帰ってきたようだな。」

エプロンをしていても渋いサタンが立ち上がる。


コンコン

「エマちゃん?」

ノックの後、ルーシーが入ってきた。

「ママ!」

「おかえりなさい、エマちゃん。エマちゃんのお友達もようこそ。」

サタンに度肝を抜かれた子供達だったが、おやつですっかりリラックスしていた。


「こんにちは、おばちゃん!」

「おばちゃん、お邪魔してます!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お ば ち ゃ ん ?


ルーシーがフリーズした。

美貌自慢の元大天使が、おばちゃん?

そんな呼ばれ方、されたことない。

そんな呼ばれ方をされる日が来るなんて想像したこともない。


「ルー!そういえば話があるのだ。皆はゆっくりしていってくれ。」

サタンが自然な動作でルーシーを別の部屋へ誘導した。


「エマのおばちゃん、キレーだなー!」

「な!エマの父ちゃんもかっけーよな!」

テッドとジェフの兄弟が容赦ない。


お迎えする側として最後までしっかりともてなし、子供達を見送ったエマがジジとマリーを引き連れてルーシーの部屋を訪れた。

扉から顔をのぞかせ、そっと声をかける。

「ルーちゃん?」

「しー。」

青い顔をして寝込むルーシーにサタンが付き添っていた。

そこで待て、というジェスチャーに頷くと、サタンが部屋を出る。


エマの前でひざまずき、エマと目線を合わせる。

「エマ、家族という設定なのだから予想できたはずなのだが、これは我々の誰も想定していなかった・・・。」

こくんとエマが頷く。

「エマにはすまないが、急ぎ撤収したい。そして、すべては夢だった、幻だったということにしたい・・・。もちろん、エマには別な留学の機会を用意する。当初の計画を全うできず、すまない。」

サタンがすまなそうに頭を下げる。

「サアたん!謝らないでください。エンマもルーちゃんが心配ですから!」

「ありがとう。・・・・それに、最後までちゃんとお友達をもてなして、一人でお見送りして・・・偉いぞ!この短い期間でのエマの成長が・・・俺は・・嬉しい・・・。」

サタンが上を向いて感動の涙をこらえている。

「にゃあ!」

「にー!にー!」

ジジとマリーも、エマにエールを送っていた。

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