第82話 エマ、社会生活を学ぶ
――――― 昨日は失敗でした。
帰宅するなり泣きじゃくった。
人間界にいる間は治癒魔法も使えないので、本当は治っているが、見た目だけゆっくり回復する…という複雑な魔法を掛けてもらった。
心配したジジとマリーがエマに寄り添い、夜も一緒に眠った。
少し子供っぽいが、エマは素直な性格が幸いしたのか、教えられたことを素直に受け入れるタイプなので勉強は出来るほうだ。10歳のマギーやアンディー以上に読み書きも計算もできる。
なので今日は5歳のジェフや6歳のベスに教える立場だ。
「そうです!ベスちゃん、よくできました!」
「エマちゃんの教え方、とっても分かりやすい。」
幼いベスからの賞賛が誇らしい。
・・・・それに比べて、あの生意気なジェフはお勉強が苦手なようですね。
チラリと横眼でジェフを見ると、計算問題に苦戦しているようだった。
「どこが難しいですか?」
ご機嫌でお姉さんぶる。
生意気なジェフ(5歳)に勉強を教えることで傷ついた自尊心が修復された。
鼻歌でも歌いたくなる、気持ちの良い休み時間にガラスの割れる音がした。
「何の音ですか?」
「行ってみよう!」
年上のアンディとマギーを先頭に大きな音が発生した方に向かう。
そこには、痛そうに左腕を押さえるジェフ(5歳)がいた。
「ジェフ!」
皆で駆け寄ると、ジェフが左腕から血を流していた。
「大丈夫、大した怪我じゃないから・・。」
どう見ても大層な怪我だが泣きもせず、じっと耐えている。
「ジェフ!しっかりしろ!」
ジェフの兄のテッドの方が取り乱している。
「ベス、院長先生を呼んできて、でも走っちゃだめだよ。」
アンディがベスに指示を出している間に、エマがジェフの側にたどり着く。
もちろん治癒魔法で治す気だったが、人間界では魔法を使うことができないことに気づき動揺する。
「ジェフ君・・・。」
痛そうに抱える腕に目をやると血がダラダラと流れていたが、エマはこんなに血を見たことがなかった。
「ふう・・・。」
こてん。
エマが倒れた。
――――― 昨日は失敗でした。
学校で一番のチビであるジェフ(5歳)が怪我をし、ジェフの流す血を見て倒れてしまったのだ。
悔しいことに、怪我をしたジェフはケロリとしていた。
「エマ、怖い思いをさせて悪かったな。」
倒れたことをからかわれると思ったら、気遣われ、謝罪までされてしまったのだ。
「エンマはちょっと気が遠くなっただけですから!エンマのことは忘れてください!」
忘却の魔法を掛けたいが人間界で魔法は封じられている。
「それよりジェフ君の怪我は大丈夫ですか?」
「大した怪我じゃないんだ、ちょっと血が出ただけなんだぜ。」
後遺症の心配のない怪我だったが、最初から最後まで泣きもしなかったジェフ。生意気だが認めざるを得ない。
上手いこと短く編集された映像を水鏡で見たフギンとムニンが複雑な表情をしていた。
「あの小さな人間は、小さい割に強くないか。」
「儂もそう思う。」
エマに社会性を身に着けさせ、実年齢より幼いエマをしっかりさせることが目的だったが・・・このままジェフと過ごしたら、エマが強くなりすぎるのでは・・と心配でならなかった。
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