第73話 イフリート、愛娘に土下座する

「そう、ご家族と喧嘩して家出してきたのね。」

なんだか身に覚えのあるエマがそわそわと落ち着きない。


あの後、なんとか宥めて泣き止ませ、事情を聞いたところ・・・母を溺愛する父が母に夢中で自分の話を聞いてくれないことに腹を立て飛び出してきたということだった。

「お名前はミミちゃん、お父さんが魔人族でお母さんがリス獣人だそうです。」


「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

カールとダイアナが無言で顔を引きつらせる。

「ダイちゃん・・・儂、なんだかこの設定に覚えがある。」

「偶然ね、カール。私もよ。」


性格は獰猛かつ短気と評判の魔人族、イフリートがリス獣人のミナに一目惚れして妻に迎え、溺愛しているという話は有名だった。

性格は獰猛かつ短気と評判・・・

「儂、連絡してくる。」

「そうね、それがいいわね。」


「じいじ、ダイちゃん、ミミちゃんを守ってあげてください!」

「エマちゃん・・・。」

「もしも無理に返したら、きっとまた家出してしまいます・・・。」

お目目ウルウルで訴える。

「それも含めて話してみよう、モレクが上手く話してくれるはずじゃ。」

すでに丸投げする気満々である。


浮かれスキップのカールと重々しい表情のモレクが戻った。

「結論から言うと、今日のところはお泊りしていただくことになりました。ですが、明日、イフリート殿はこちらに来られるそうです。」

「なんでもミミちゃんに直接会って謝罪したいそうじゃあ。今日はエマちゃんと一緒に過ごすとよい。」

モレクに丸投げし、エマの希望も叶えたカールはご機嫌だ。

妹キャラな二人に良いところを見せ、モレクもご機嫌であった。



「よいしょっと。」

ミミが自分の大きな尻尾を抱える。

「むぎゅー。」

エマはテディベアのトッフィーを抱きしめる。

今日はエマのベッドで一緒に眠るのだ。もちろんジジとマリーも一緒だ。


『ふふふ、自分の尻尾を抱いて眠るだなんて、ミミちゃんは可愛いですねえ。』

『うふふ、縫いぐるみを抱いて眠るだなんて、エマちゃんたら可愛いのね。』

お互いにお互いを可愛らしいと思っているようだ。

仲良くお喋りする中で、お互いに同じ年頃の友達がいなかったことが分かり、すっかり打ち解けたミミは、ジジとマリーの人懐こさにも撃沈した。



「ミミちゃん!」

すっかり仲良くなり、翌日もご機嫌なミミの前に、憔悴した様子のイフリートが現れた。


「あんなにやつれたイフリート、誰もみたことがないはずじゃあ・・・・。」

一目を憚らず泣き崩れ、愛娘にすがるイフリート。

「お願い!ミミちゃん帰ってきて!!」

プイッ。

「ママに夢中でミミのこと忘れてたくせに!」

激おこだ。


「それは悪かった・・・もう二度とミミをないがしろにはしないと約束する!」

プイッ。

「ミミちゃん!」


イフリートの捨て身の懇願にほだされたミミがイフリートと一緒に帰ることに合意したのは2時間後だった。



「う・・ひぐっ・・・ミミちゃん、またきてください・・・えぐえぐ。」

初めての同じ年頃の女の子の友達との別れに、デイモンに抱っこされたエマが泣きじゃくっていた。

「エマちゃん・・・。」

イフリートに抱きかかえられたミミも淋しそうだ。


「世話になった。ミミが望むなら、また連れてこよう。」

早く帰りたくて仕方ないイフリートがミミを連れて、さっさと帰宅した。


「すんっ。」

「エンマ、今度こそ“またたび”を取りに行きましょう。ジジ君とマリーちゃんも一緒ですよ。」

つん!

デイモンがエマを鼻先で優しくつつく。

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