第68話 鬼畜眼鏡の本体は眼鏡の方です

彼の名前はイブリース、鬼畜眼鏡スキルを持つドSだ。

このスキルのおかげで冷静に仕事をこなし、魔王様の秘書としての役目をまっとうできているが、スキルを使うほど、Sな鬼畜レベルが上がってしまいモテない。

今年も彼女いない歴を更新してしまった。


「おお、今日も就業時間じゃな!」

魔王様が嬉しそうだ。

このリア充な魔王様は、愛する妻と孫カップルと同居しており、そのリア充ぶりが鼻につくことがあり、つい厳しく虐めてしまうことがある。今日もウキウキで帰り支度をしている。


「魔王様、お疲れさまでした。では我々もお迎えに行きましょう。」

モレクに促され、アルコンと共に立ち上がる。

宮殿内の保育所に預けている愛犬・・愛ケルベロスのベルを迎えに行くのだ。


宮殿と自宅の間がお散歩代わりだが、保育所で自由に駆け回っているので運動は充分だ。

引き取った頃は、生態不明で手探りの育児だったが、今では好んで食べるものや嫌うものも判明し順調な毎日だ。


「はい、ただいま。」

自宅に到着し、リードを外してやると嬉しそうにまとわりついてくる。

「・・・・・かわいいな。」

ポロリと言葉が漏れると、余計にはしゃぐ。

「ベルは私の言葉が分かるのか?いい子だな。」

良い子と褒められ、ベルがイブリースの手をペロペロと舐める。


ひとしきり撫でて夕食の支度だ。

ベルと一緒に夕食を取る。


「・・・ベル。」

イブリースの温度低めの呼びかけにベルがビクンと反応する。


ベルがピーマンを残していた。

3姉妹のケリーとローズは問題なく食べるピーマンを、何故かベルは嫌がって食べない。今日も残していた。

「お残しはいけないといつも言っているだろう。」

氷点下の響きだ。

『だって!ピーマン率、高いんでちゅもの!ケリーのお家でもローズのお家でも、こんなにピーマンでないっていってたもの!』

子ケルの言葉は通じない。

『・・・・・・。』

イブリースが無言で見下ろす。

『苦いの!青臭いし!代わりにお肉ちょうだい!』

しかし子ケルの言葉は通じない。

『ベルは悪い子だな。悪い子はデザートのアイスは無しだ。』

冷たく言い渡される。

ガーン!

アイスはベルの大好物なのに!

鳴いて抗議するがイブリースは反応無しだ。

抗議しても手ごたえのないイブリースに疲れ、犬用クッションでふて寝した。

ベルが不貞腐れている間にお風呂を済ませ、ほかほかのイブリースが近づいてくる。

ふて寝のベルはイブリースを無視だ。

『なによ!いじわるなんだから!絶対にしっぽなんて振ってあげないんだから!!』

クッションに顔を押し付け、ギュッと目をつぶるベル。


『ベルたん。』

ぴくん。


目線だけ動かすと眼鏡なしのイブリースが見えた。

眼鏡がない時のイブリースはドS要素なしの甘々なのだ。

甘々イブリースがベルを抱き上げる。

『ベルたんは好き嫌いばかり言って悪い子だな。』

額と額をコツンと当ててくる。

『好き嫌いなく食べないと大きくなれないぞ。』

「くうん。」

思わず甘えた鳴き声が漏れてしまう。

しまったと慌てるが、ベルの甘え声を聞いたイブリースが嬉しそうに笑った。

「きゅうん!」

思わず尻尾をふってしまう。

『アイス、食べるか?』

「わふっ!」

思わずイブリースの顎を舐めてしまう。

「ははは、わかったわかった。次からは好き嫌いしないで、ちゃんと食べろよ。」

ベルを抱いて、スプーンでアイスを食べさせるイブリース。

自分だけに甘々な姿を見せるイブリースに萌える。


『やっぱり眼鏡が鬼畜眼鏡の本体なのかもちれないわ・・・。いつか、あの眼鏡をこわすんだから。』

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