第67話 魔界ランドに帰ります

エラワンの頭に蝶が止まった。

ぎゅっと握った閻魔大王の手をぐいぐいと引っ張るエマ。

「わあ、かわいいです!ね、見てください、ダモ!」

呼びかけても返事がないので振り返ると困り顔の閻魔大王がいた。

「あ・・・、あの、ちょっと呼び間違えちゃいました。」

てへへと苦笑いでごまかす。


エマが心待ちにしていた牡丹の花が咲き始めた。

「ダモ!咲きましたよ!」

みて!と振り返ると困り顔の閻魔大王がいた。

「間違えちゃっただけですから!」

プルプルと顔を振り、焦った様子でホームシックを否定するエマ。

「チビ・・・。」

閻魔大王の髭がへにょりと下を向く。

ジジとマリーも心配顔だ。


「おはようございます!」

「おはよう、チビ、ジジ、マリー。」

いつも通り朝食を終え、楽しい団らんの一時を過ごすと、閻魔大王がエマとジジとマリーを抱き上げた。

「どうしましたか?」

こてんと首を傾げるエマが愛らしい。

閻魔大王の胸がぎゅっと痛む。


「ちょっと魔界ランドに用があってな、チビも共にゆくぞ。」



嫌だと訴える間もなく、一瞬で魔界ランドにいた。

気まずくて顔を上げられないエマは閻魔大王にしがみ付いていた。


「エマちゃん!」

唄子さんとヒースの声がする。

「チビ、顔を上げてみろ。」

「・・・・・・・」

もぞり・・・と、しょぼくれた顔を上げると、心配顔の唄子とヒースと目が合った。

「心配したんだよ。」

「陛下とデイモンが悪かったね。」

気まずくて声がでない。

いつも元気に跳ねているエマの巻き毛がぺったりとしている。

しょぼん顔で閻魔大王にしがみ付いていると、唄子とヒースの後ろで何かが動いた。


耳を倒して涙目のダモフェンリルが、ちょこんと座っていた。


「だもっ!だも!だもーっ!!!!」


ダモフェンリルに向かって必死で両手を伸ばし、叫んでいた。


その瞬間、二足歩行フェンリルのデイモンに抱き留められていた。

「ピスピスピス・・・。」

二足歩行フェンリルが鼻を鳴らしながらエマに頬ずりする。

「う、ひっく。うええええええん。」

エマも二足歩行フェンリルにしがみ付く。


「エ、ぐふっ!」

赤鬼からエマの帰還について連絡を受けていたテオが、エマを迎える気満々でいたが、ニナに口を塞がれた。

『ニナ!』

『テオったら野暮な真似はやめて!エマちゃんはデイモン君のところに戻りたくて泣いているのよ!』


・・・・・ニナが怖い。

ニナがこんな怒り方をするのは初めてだ。

『エマちゃんが無事にデイモン君のところに帰るのを見届けたら帰るわよ。』

納得したくはないがニナが正しい。でも嫌だ、物分かりの良い兄になどなりたくない。

『・・・テオ?』

今日のところはニナに従おう。でも結婚はだめだ。断固反対する。



「もふもふ~。」

閻魔大王とガネーシャを交えたティータイム。

エマはデイモンの上に座っている。

二足歩行フェンリルなデイモンが座椅子代わりだ。

「ぷにぷに~。」

デイモンの毛皮をフサフサしては「もふもふ~。」、デイモンの左手を両手で握って肉球の感触を楽しんでは「ぷにぷに~。」とご満悦だ。


「よかったんだぜ~。」

「やっぱり番は一緒でなくちゃね!」

ジジとマリーも嬉しそうだ。


『くう・・・デイモンめ・・・あの姿には滅多にならぬのに・・・・あざとい・・・実にあざといぞ・・・・!』

二足歩行フェンリル姿のデイモンに閻魔大王が悔しそうだ。


「では私たちは、そろそろ帰りましょう。」

ガネーシャに促され、閻魔大王も立ち上がる。


「・・・ではな。またいつでも来るのだぞ。」

閻魔大王がエマの頭を撫でる。

「デカエンマ!エンマを連れて帰ってくれてありがとう!」

前日までのやせ我慢と違って、心からの笑顔だ。

こんな風にほほ笑まれては無理に連れ帰ることもできない。ショボンだ。


デイモンに抱っこされたエマがブンブンと手を振って閻魔大王とガネーシャを見送る。


「よく決心したわね、ちゃんと返せて偉かったわね。」

無言で抱き着く閻魔大王の背をガネーシャが優しく撫ぜる。

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