第45話 エマ、ウサギになる

「お昼のちらし寿司、美味しかったですね!」

「うん、おばあちゃんの料理はやっぱり美味しいなあ。」

「錦糸卵の黄色とイクラの赤、きぬさやの緑を見ると、エンマいくらでも食べられるって思います!」

「唄ちゃんのごはん、美味しいよねえ。唄ちゃんのちらし寿司はレンコンのシャキシャキとか食感もいろいろで美味しいよねえ。お吸い物も柚子がほんのり香って美味しかったなあ。」


ランチの後、仕事に戻る皆を見送って、エマとキースとヒースは庭園の広場にやってきた。ここで魔法を練習するのだ。

「エンマ、変化の魔法出来るようになりました。」

みてて!と言ってポメラニアンのような子犬に変化する。

「うわあ!かわいい!!」

キースがポメエマを優しく抱き上げる。

「エマちゃんは本当に可愛いなあ、とってもふわふわだね。」

にっこりと笑うキースにエマも大喜びだ。


「僕、変化が苦手でね、出来そうで出来ないんだ・・・。」

「キース君は何に変化したいのですか?」

「うーん、特にこれってものはないんだよね・・・。」

「それが原因じゃありませんか?」

眉毛をハの字にしたエマが言う。

「エンマ、変化の魔法を練習した時、イメージが大切って教えられました。足の先から付け根へ、指先から手全体、腕・・っていう風に全体を細かいところまでイメージするのが大切だって。」


「そうか、じゃあやってみるよ。」

「キース君!熊さんになってみてください。一番身近でしょう?」

「うん、それはいいね!」

熊耳・・・熊尻尾・・・熊・・・・・・ポン!

熊耳と尻尾付きのキースが現れた。


「キース君!変化できています!」

「キース君がちよ子ちゃんみたいだよ!」

両手で耳と尻尾を確かめるキース。

「本当だ!エマちゃんのおかげだよ!」

「キース君、何度か変化して戻ってみて!」

ポン!

戻って。

ポン!

変化して。

ポン!

戻った。

「できるじゃないですかー!」

「うん、ありがとうエマちゃん。他のものにも変化してみるね。」

キースは犬にも猫にもドラゴンにもなれた。

正しい手順を踏めば、むしろ簡単だった。


「ねえ、キース君。エンマに魔法をかけてみて!」

「ええ!そんなことできないよ、もしもエマちゃんに何かあったら僕は・・・。」

キラキラなキースが悲しそうに顔を伏せる。

「大丈夫です!変化の魔法は解くのを忘れても効果が切れたら自然と元に戻りますし。」

エマが期待に満ちた顔でお願い!と訴える。


ツインテールのエマがお願い!と訴える・・・・ツインテール・・・・・ウサギにしよう。

「じゃ、エマちゃんをウサギさんにしちゃいまーす。」

ポン!

赤茶色のもこもこなウサギが現れた。

「うわあ、やっぱり可愛い、エマちゃん~!」

キースが抱くエマウサギをヒースが抱き上げる。


「エンマ、鏡を見たいです!」

エマウサギのお願いに応えてヒースが鏡を出す。

「ウサギさんです!」

うさ耳獣人ではなくウサギだった。ただしぬいぐるみのように可愛らしかった。

「はあ、名残惜しいけどエマちゃんの魔法を解こうか?」

「待って!ダモやじいじにも見せたいです!」


エマの願いにより、ウサギのまま宮殿に戻ると、ちょうどデイモンやカールたちが帰宅したところだった。


「へいかー!へーかー!キース君がエマちゃんに可愛い魔法を掛けちゃいましたよー!陛下とデイモン君にみてほしいそうですよ。」

ヒースの呼びかけにカールとデイモンが駆け寄る。

「もしかして、その腕の中のチビちゃんがエマちゃんかの?」

「エンマ、こちらにどうぞ!」

デイモンがエマに向かって両手を差し出す。


「みぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

悲鳴をあげ、キースの腕の中から飛び出したエマウサギが駆け出す。

「エマちゃん?」

「エンマ!」

慌てて追いかけると、エマウサギは自分の部屋のベッドの下にもぐりこんでブルブル震えていた。

「エマちゃん?どうしたの?」

エマを追いかけてきたキースが呼びかける。

「エンマ・・・エンマ・・・・」

ぶるぶるぶる・・・・・・・・・・・・・

「エマちゃん?」

「ふぇんりる、こわいーーーーーーーーーーーー!」


ショックで顎が外れそうなほど口を開け、カっと目を見開いたまま、二頭のフェンリルが固まっていた。

「きっと魔法で心までリアルなウサギのようになってしまったのね。」

「ダイアナさんの言う通りだとと思います。」

「キース君、魔法を解こうか。」

「はい、おじいちゃん・・・・・・・・・

あれ?」


あれ?

「あの・・・・・魔力切れみたいです。」


二頭のフェンリルを部屋から追い出すと、やっとエマがベッドの下からでてきた。

「すんっ。エンマ、ダモとじいじにも見せたかったのに・・・。」

「ごめんね、エマちゃん・・・。」

「キース君は悪くないです、エンマに魔法をかけたくないって言ってたのにエンマが無理に頼んだから・・・。」

悲しそうに顔を伏せるキースの腕に慌てて飛び乗る。


コンコン

「おまたせー。」

ノックの後、トレーを持った唄子が入ってきた。

「みぎゃーーーーーーーーーーーー!」


エマがベッドの下から出てこない。

「エマちゃん、もしかして・・・熊さんも怖いの?」

こくん。

エマウサギが頷いた。


唄子がショックでカチンコチンに固まった。

「う、唄ちゃん・・?」

反応がない。

キースが唄子を連れて退場した。


エマウサギを抱いたダイアナが唄子の運んできた野菜スティックをエマに差し出す。

ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリ。

「美味しいです。いつもはドレッシングなしでは食べられないお野菜も、そのままで美味しいです。草まで美味しいです。」


「ウサエマちゃんも可愛いわねえ。」

いつもデイモンがべったりなエマも今日は抱っこし放題だ。


ポリポリポリポリ・・・・ポロリ。

食べながら涙がこぼれた。

「ダモに会いたいれしゅぅ・・・・・。」

ポロポロと涙を流すエマウサギ。


一晩眠ってキースの魔力が回復する頃には自然と戻っていた。

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