第34話 閻魔大王、父性に目覚める

「みてよ閻魔!素敵じゃない、お土産に買って帰りましょうよ。」

「うむ、ガネーシャの望み通りにしよう。しかし公務が先だ、後にしよう。」

「もう!閻魔は堅物なんだから、もう少し融通を効かせても良いじゃない!閻魔の石頭!固太り!」

ガチムチな髭の大男と長身の美女がイチャイチャと言い争っていた。


「エンマ、デブじゃないもん!」

フギンとカヴァディールの間の隙間からエマが飛び出した。

「あ!こら」

「儂らが先行した意味がないだろう!」

慌ててエマの前にでるフギンとカヴァディール。


「あら!かわいい!!」

「チビだな」

「エンマちびじゃないもん!」

むっとして思わず言い返すが、フギンの翼に阻まれて前に出ることは叶わない。

「まあ!まあまあまあ!あなたが“ちびエンマ”ちゃん?」

「閻魔大王とガネーシャさんでしょうか?我々は魔女の館の使い魔で、エマの護衛です。」

「そうよ!うちの閻魔の仕事で魔界ランドに来たところなの。約束には少し早いので街を見て回っていたのだけれど、この堅物が後にしろってうるさくて!」

「むう・・・。」

人間界で見た像のように赤い顔をしていないし、「王」と書かれたコミカルな冠もかぶっていないが、あの閻魔に違いない。髭と眉毛がすごい。


「ねえ、それよりも紹介してちょうだい!」

「これは失礼いたしました。」

「エマ、こちらは閻魔大王とその伴侶のガネーシャさんだ、閻魔大王はエマのゴッドファーザーのようなものだな。」

「エマは良い子だからご挨拶できるな。」

こんな言い方をされては拗ねることはできない。


「エンマです。」

フギンとカヴァディールに挟まれ、ペコリとお辞儀をする。

「えらいぞエマ!」

「うむ、上手にご挨拶できたな!」

「さすが儂らのエマだ。」

フギンとムニンとカヴァディールに褒められ、まんざらでもない。

サラはエマの肩でうむうむと頷いている。


「ねえ、私たちこれから宮殿へ行くところなの。ちびエンマちゃんも同じ場所へ向かっているのかしら?」

「えっとだいたい同じ場所です。」

魔女の館は宮殿の敷地内にあるのだ。

「じゃあ一緒に行きましょう!道すがらちびエンマちゃんのお話を聞かせてほしいわ。」

「うむ、そうさせてもらうと良い。」

「儂らはすぐ後ろにいるからな。」

フギンとムニンとカヴァディールが一歩下がる。


終始ガネーシャのペースで閻魔大王は空気だったが同行することに異議はない。

きゅっ。

閻魔大王の左手の小指に何かが触れた。


きゅっ?

見下ろすと閻魔の指を握っているエマと目が合った。閻魔大王の手は大きすぎるので指を繋いだようだ。

「こっちです!いきましょう。」

にっこりとエマが笑った。


きゅん!

閻魔大王が父性に目覚めた瞬間だった。


魔女の館に戻り、初めてのお使いを無事に済ませたエマが宮殿の厨房に向かった。おやつの時間なのだ。


「ただいまです。」

「おかえりエマちゃん。」

「甘い香りがします。」

唄子さんの前にフルーツが積み上げられている。

「果樹園で見たことないものばかりです。」

頬を染め、目を細めてフルーツの香りを吸い込む。

「これは閻魔大王とガネーシャさんからのお土産だよ。どれも地獄地方の特産だね、特にこの水蜜桃は甘くてジューシーなんだよ。」

唄子さんもホクホク顔である。

「唄子ちゃん、エンマお腹空きました!今日のおやつはフルーツの何かがいいです!」

「フルーツパフェにしようかねえ。」

「わあっ!」

エマの顔が喜びに染まる。

唄子さんがカットしたフルーツや手作りジェラートを揃える。

「パフェグラスの底に甘さ控えめなヨーグルトを敷いて、カットした水蜜桃をたっぷり入れて、ミルクジェラートにマンゴー、ココナッツクリームを重ねて、メロンとイチゴとベリーとキウイ、パイン、オレンジで飾って出来上がり!」

一部のフルーツはヒースの栽培したものだが贅沢なパフェが出来た。

「エンマすぐに食べたいです、ダモを呼んできますね!」

いつもなら厨房にいるはずのデイモンがいないが、待ちきれずに飛び出した。

カールたちの執務室をそっと覗くと誰もいなかったが、応接室から話声が聞こえる。入口からそっと中をうかがうと閻魔大王たちが談笑していた。

雑談のようだが邪魔をするのは憚られる。しかしグズグズしていたらパフェのアイスが溶けてしまう。

ドアからちょこんと顔を出してもじもじしているエマに閻魔大王が気づいた。


ピカッ!

・・・・ガラガラガッシャーン!!!

閻魔大王の父性に雷が走る。

くっそ可愛いではないか!!


素早く側に寄り、しゃがみ込んでエマの頭を撫でる。

「どうした?」

「あのね、おやつの時間だからダモを呼びに来たの。いい?」

「ああ気づかなくて悪かったな、デイモン!」

モテないトリオを振り切ったデイモンが、一瞬でフェンリル化してエマに頬毛を擦り寄せる。

「あのね、おやつだから呼びに来たの。デカエンマのお土産のフルーツを唄子ちゃんがパフェにしてくれたの。一緒に食べよ?」

猛烈に尻尾を振るデイモンがエマを抱いて駆け出した。


「いただきまーす!あーん。」

もぐもぐもぐ・・・・ジューシーで美味しいです。

エマの小さな羽やデイモンのポフポフな尻尾が忙しなく動いている。どうみても美味しい動きだ。

「ふふっ、二人とも美味しそうに食べてくれて嬉しいわ、ね、閻魔?」

「うむ。」

「エンマ、こんなに美味しい桃初めて食べました。ありがとうデカエンマ!ガネーシャちゃん!」


・・・きゅん!

美味しそうに食べるエマに閻魔大王の父性がときめいた。


夕食後、閻魔大王とガネーシャを交えて寛いでいると翌日、エンマと一緒に庭園を散策することになった。

「ヒース君のお庭は、とっても素敵なのです!」

「エルフの庭園だなんて素敵よねえ。ね、閻魔?」

「うむ。」


「エマちゃーん、お風呂の時間ですよー!」

女官の胡蝶がエマを迎えに来た。


ぎゅ!

閻魔大王の腕に何かが触れた。

「明日はエンマと一緒ですよ。エンマが眠っている間に帰らないでね!」

エンマの小さな手がエンマ大王の腕をぎゅっと掴んでいた。


ピカッ・・・・ガラガラガッシャーン!!!

閻魔大王の父性に雷が走る。

くっそ可愛いではないかーーーーー!!

「うむ。明日は儂と一緒だぞ。」


ブンブンと閻魔大王に手を振りながらエマが退出していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る