第32話 小児インフルエンザ
「くしゅん!」
「モンたん、風邪かしら?」
ダイアナが心配そうにデイモンを覗き込む。
「特に悪寒もしませんし喉も痛くありませんから大丈夫ですよ。」
大丈夫ではなかった。
ランチに集まった時、デイモンの顔は赤かった。
「ダモッ!」
エマが心配そうに駆け寄るが薫に止められる。
「義姉さんにうつしたら兄さんが心配し過ぎて休んでくれないからね。」
「薫くん・・・。」
薫に抱っこされながら介抱されるデイモンを見守っていると、みるみるデイモンが小さくなっていく。
「ダモッ!」
薫の腕の中でもがくが、しっかりと抱き留められており抜け出すことができない。薫は華奢に見えるが細マッチョだ。
デイモンが初めてあった時と同じくらい小さくなった。3歳児にしかみえない。
「間違いなく小児インフルエンザね。」
「しょうにインフルエンザって何ですか?」
「大人しか罹らない病気だから義姉さんは大丈夫。小児インフルエンザは大人が罹ると子供になってしまうんだ。治れば大人に戻るよ。」
子供にはうつらないからと許されて、子フェンリル化したデイモンを抱きあげるエマ。
小さくてかわいいです。
「お熱が上がってますね、苦しそうです。」
おでこをくっつけて熱を測る。
情けない・・・せっかく大きくなってエンマを乗せて走れるようになったのに、こんな小さな姿を晒してしまうとはトホホです・・・。
「ふわふわですね。」
見上げるとエマが嬉しそうに自分を見つめていた。
・・・そういえば子供の僕は女性に人気でしたね。おばあ様にもチュッチュされたものです。
・・・・・・・エンマ、さあ遠慮なくどうぞ。ささ、ちゅっと。
ちょん。
ちょん?
目を開けるとエマが自分の鼻をデイモンの鼻にくっつけていた。
・・・・不満です。そこはチューじゃないですか、なぜちょんなのですか。
不満げに唸ると具合が悪いと誤解されベッドに運ばれてしまいました。
「エマ、薬を持ってきたぞ。」
「サマンサの薬はよく効くからな。」
「ありがとう、フギンくん、ムニンくん。」
サマンサの使い魔の大鴉たちが薬を届けてくれた。
飲みやすく加工された丸薬を飲んで横になるとエマの癒しの魔法で眠ってしまったが目が覚めると、いつも側にエマがいた。
「苦しくないですか?お水飲みますか。寒くありませんか。」
着替えなどの世話が必要になる度、ダイアナやカールが呼ばれるが、それ以外の時はいつもエマが側にいた。
「エンマが眠っている間、ダモもずっと側にいてくれましたから。」
眠るデイモンをエマの手が撫でる。
ぼくはもうずっと病気でいいです。病気最高。
翌日の夜には回復した。
番の思いやりは何よりの薬なのだ。
くちゅん!
夕食の後、居間でくつろいでいるとチビフェンリル姿のデイモンがくしゃみをした。
「ダモッ!」
慌てたエマがブランケットでデイモンを包む。
そのまま抱きしめていたが、次第にデイモンが大きくなり、いつものサイズの少年フェンリルにエマが抱き込まれている状態になった。
「すっかり良くなったようね、モンたん。」
「良かったな!モンたん、心配したのだぞ。」
「エンマが看病してくれたおかげです。エンマ、ありがとうございます。」
「・・・・・・・・。」
「エンマ?」
「義姉さん?」
「・・・・エンマ、ダモと一緒に大ぎぐなりたかったれしゅ。・・・・エンマ、どうじてあんなに眠っじゃったのでじょう。」
デイモンにコアラ抱っこでしがみ付きながらすすり泣く。
「義姉さん・・・・。」
「エマちゃん・・・。」
薫とカールがしんみりとうつむく。
「やーねー!エマちゃんったら何言ってるの!もしもエマちゃんが眠っていなかったらエマちゃんが先に大人になって、チビのモンたんに纏わりつかれて閉口していたはずよ。チビなエマちゃんにモンたんが振り回されているくらいで丁度良いのよ!」
しんみりとした雰囲気の中ダイアナが豪快に笑い、エマの涙が引っ込んだ。
「・・・・すんっ。」
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