第31話 人間界でアイスデート
「エンマ、お耳がアンズのクマちゃんアイスが楽しみで、昨日はなかなか眠れませんでした。」
小花柄のワンピースに手編みのカーディガンを羽織ったエマがデイモンを見上げながら嬉しそうに語り掛ける。
デイモンの頬が緩む、繋いだ手が暖かい。
真っ白い練乳のかき氷にアンズの耳、ミルクアイスのマズル、鼻と目はチョコレートで熊の顔をかたどっている。練乳のかき氷はフワフワで見た目の大きさに比べて軽くてペロリといけてしまう。熊の顔を崩した後もかき氷の中にパインや桃などのフルーツが隠れており、最後まで楽しくて美味しいのだ。
「美味しかったですー。」
ふう・・・と幸せなため息を吐きながらほうじ茶を飲む。
がっし!がっし!と遠慮なく熊の顔を崩してアイスを平らげたエマ。
「このほうじ茶も香ばしい香りで美味しいですね。」
お冷ではなくほうじ茶が無料でサービスされるのも嬉しい。
「エンマ、腹ごなしがてらお寺に参拝しましょう。エンマの後見人の閻魔大王を祀ったお寺が近くにあるのですよ。」
・・・すっかり忘れていました。エンマが眠っている間に後見人を決めたとじいじが話していましたね。
「エンマには特に義務はないのですよ、エンマの親代わりのようなものですね。同じ名前の偉い人で、いざという時に頼れる親のような存在です。」
手を繋いで大宗寺に向かいながら説明される。
「閻魔大王は男気のある兄貴として人望があって、身長も高くてがっちりマッチョなのです。あちらのお堂に像がありますよ。」
お堂の前にいたグループがガイドから説明を受けているのが聞こえてくる。
「大宗寺の閻魔大王は、つけひも閻魔とも呼ばれ、悪い子を食べたというエピソードがあり・・・。」「閻魔こえー!」「食うのかよ!」という声と共に目の前のグループが去ってゆく。
なんとタイミングの悪い・・・説明も最悪です。
デイモンが冷や汗をかきながらチラリとエンマを見ると、眉間にシワを寄せていた。
「え、エンマ!参拝しましょうね!」
お堂の前に進むと閻魔像が見えた。
「ひいっ!」
エマの身体がビクンと跳ねる。
暗いお堂の中で下からライティングされた閻魔像は怖さ500倍だった。
赤い顔にモッサモサの眉毛。真っ黒でモジャモジャの髭。王と書かれたコミカルな冠をかぶっているが表情にコミカルさはない。
というか怖い。こりゃ食うわ、この顔なら子供食うわ。下から照らすとかないわ。明るいお日様の下で見てもちびる怖さだ。
「え、エンマ・・・・」
だらだらと汗を流しながら、恐る恐る呼びかけると、涙目でガクブルするエマがいた。
魔女たちの伝統として、ジャンヌやイザポーなど過去の偉大な魔女の名前を受け継ぐ習慣がある。
なのに・・・なのに・・・・エンマは怖い顔の髭のおじさん・・・・
エマの身体の周りでマグマのように神力が渦を巻いている。
エンマは・・・エンマは・・・・子供食べないし・・・・・
「え、エンマ?・・・エンマ!?」
身体の周りでバチバチと神力が弾けて近寄ることができない。
憤怒に燃える表情でぎろりとデイモンを一睨みすると、しゅんっ!という音を残して転移で消えた。
「エンマ!?エンマー!!!」
全身の毛を逆立てながら叫んだがエマは戻らない。
どっすん!!!!!!
宮殿が揺れた。
「何事じゃ!?」
「何か大きな力が加わったみたい。そのまま安全な場所にいて!」
カールの問いに宮殿の精霊パレスが答える。
「・・・・・分かったわ。エマちゃんが一人で帰ってお部屋で暴れているみたい。」
「エマちゃんならモンたんとデートじゃ。二人で楽しそうに出かけて行ったぞ。」
おやあ?と顔を見合わせ、首を傾げているところにデイモンが戻った。
「エンマーーーー!!!」
「モンたん、いったい何があったのじゃ?」
動揺し、フェンリル化したカールとデイモンがオロオロうろうろと歩き回る。
「そ、それが・・・閻魔大王を祀っているお寺に参拝したら怒りだして・・・。」
全員の脳裏に、下から赤いライトで照らされる、憤怒顔の閻魔大王像が浮かんだ。
察した。
全員が事情を察した。
「と、とにかくエマちゃんの様子を確かめねば!」
「パレスさん!エンマはどこにいますか!?」
涙目のフェンリル2頭がぎゃんぎゃん吠える。
「ちょっと待ってね、プライバシー保護の観点から、あたしが検閲を・・・うん、大丈夫そうだから水鏡に映すわよ。」
エマは自室で怒り、暴れていた。
デイモンがお座りしている姿を模したハードタイプのぬいぐるみを蹴り上げると、ダモぐるみは壁に当たってぼよんぼよんと跳ね返った。
そのままベッドにダイブすると、デイモン型抱き枕がエマの目に映った。
ダモまくらの尻尾を両手で掴んで、ばすん!ばすん!と何度もベッドに叩きつける。
カールとデイモンの尻尾がだらりと垂れさがる。
「ああっ!エンマ!尻尾はダメです!」
「エマちゃん!ダメじゃ!尻尾はやめて!」
急所である尻尾を掴んで振り回す様子に腰が抜けた。
ぺったりと耳を倒したフェンリル2頭が涙目で水鏡に訴えるが、当然こちらの声はエマに届いていない。
「おじいさま・・・僕、下半身がひゅんってします。」
「偶然じゃな。儂もじゃよ、モンたん・・・・。」
エマがフェンリルの急所である尻尾を持ってぶん回す映像を観て、2頭のフェンリルが抱き合って震えた。
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