第20話 カールの日帰り公務

「おはようエマちゃん。」

「おぁよぅごじゃましゅ・・・」

平日のエマは、あまり寝起きが良くないが、ぐずることなく目覚める。

「ぉぁよぅ。」

身支度しながらしゃっきりと目覚めてきた。

「今日は頭のてっぺんでお団子にしましょうね。」

「ありがとうポリーちゃん。」

ポリーと手をつないで食堂に行くとデイモンが待っていた。

「おはようエンマ、今日も可愛いですね。ありがとうポリー。」

「おはようダモ」

今日の朝食はマフィンですね!美味しそうです。

「いただきます!」

イングリッシュマフィンに厚く切って焼いたソーセージとチェダーチーズ、半熟の目玉焼きを挟んだ朝食はエマのお気に入りだ。チェダーチーズがトロトロでうまうまだ。

「このスモモはエンマが昨日収穫したものですね、甘い香りで美味しそうですね。」

「えへへ、少しお手伝いしました。」

寝起きで忘れていたが、昨夜はスモモが楽しみでなかなか眠れなかったのだ。

唄子さんの言う通り、ガブリとかじりつくと瑞々しい果汁があふれる。お口いっぱいに頬張っているため話すことができず、目を見開いてデイモンと見つめ合う。デイモンも目を見開いている。

「美味しいですよ、エンマ!」

「唄子さんが言った通りです!ジューシーで美味しいです!」

2人とも、ゆっくりと時間をかけて果汁たっぷりなスモモを味わった。

「そうだエンマ、おじい様は出張ですよ。昼過ぎには戻れる見込みだそうです。イブリースとモレクとアルコンの3人の出勤に合わせて出発して、夕方には戻る見込みだそうです。」

「エンマ、お見送りします!」


お見送りに行くとドラゴンがいた。

「おお、エマちゃん、モンたん、じいじを見送ってくれるのか!嬉しいのう。じいじ、お仕事頑張るぞ!」

エマはじいじをスルーしてドラゴンをガン見だ。

「ドラゴンさんです!ドラゴンさんがいます!会いたかったです!」

バビューンと駆け寄ろうとするエマをデイモンが止めた。手を繋いでいて良かった。

「ダモ!離してください!ドラゴンさんにご挨拶します!」

「落ち着いて!紹介なしに駆けよったら攻撃されますから!そしておじい様をスルーしないで!」

エマは考えるより先に身体が動くタイプだった。


「えへへ、ごめんなさい。じいじ。ドラゴンさんしか見えていませんでした。」

「ハラハラするのう。エマちゃん、気をつけてな。このドラゴンはサタンのパートナーじゃよ」

よくみるとサタンもいた。

「サアたん、お久しぶりです!」

「久しぶりだな、エマ。このドラゴンは俺のパートナーで名前は黒王号だ。」

「よろしくね!コクオウ、エンマです!」

子供が珍しいのかフンフンと匂いを嗅がれた。

秘書トリオが出発を促す。黒王号との触れ合いはお預けだ。

「じいじ、お仕事がんばってね。」

「いってらっしゃいませ、おじいさま、皆さん、留守はお任せください。」

ブンブン手を振るエマとデイモンが、あっという間に小さくなり、見えなくなる。


彼女いない歴200~300年の秘書トリオと魔王は、問題を起こした犯罪者のいる地方へ向かっている。遠くてもドラゴンで飛行すれば日帰りが可能だ。


その時代、一番魔力量が多く、魔力の強い者が魔界ランドの魔王に選ばれる。任期は500年、カールは今年で勤続133年になる。魔王は魔界ランドの象徴で絶対君主ではない。実権を握るのは優秀な官僚たちだが、魔界で問題を起こす者たちは、街や自然環境を破壊することが少なくないため、時々その対策に魔王が駆り出される。



「うっせー、ばーか!俺を取り締まるだとう?やれるものならやってみろ!」

鬼畜眼鏡のイブリースが罪状と判決を読み上げるも、聞く耳を持たない犯罪者のガダン。

イブリースの眼鏡がキラリと光る。

「さあ、やっちゃってください、陛下!」

まるで悪役のようなセリフだが取り締まる側である。

魔王様の威圧スキルに圧倒されたガダンが動けなくなったところでイブリースが首輪をはめる。

「く、くそ!やめろ!」

カチャリ。

「その首輪は1000年ほど外すことができません。規約に反する行為を行った場合、期間が延長されます。また、その首輪を通じて居場所をはじめとする個人データは常に収集、記録されます。」

「くそう、覚えてろ…。」

恨みの籠った目つきでイブリースをにらみつける。

魔王様の左側に立つモレクが魔王様の首毛をポンポンする。それを合図にイブリースの後ろでお座りしていた魔王様から発せられていた威圧が1段階進んだ。

「うぐぐぐ・・・。」

威圧に耐え、イブリースをにらむ。

魔王様の右側に立つアルコンが魔王様の首毛をポンポンする。それを合図に魔王様の威圧がさらに進み、ガダンが崩れ落ちた。

「力の差を理解できたようですね。」

鬼畜眼鏡が、眼鏡をクイっとした。それを合図に威圧が解除される。

「くそう、俺の負けだ。力の差を認めて負けを受け入れる…。」

少し離れた場所で拘束されていた美女が犯罪者に駆け寄る。

「ガダン!しっかりして!」

ガダンが美女を抱き寄せると、モテないトリオがピクリとした。

「・・・・・お前らの融通の利かなさ、魔族の風上にも置けねえ…お前らモテないだろ?」

悔し紛れの一言ではなく、心からそう思うといった様子で発せられた一言がモテないトリオのハート貫いた。美女が巻き付いていなかったらガダンは滅せられていただろう。


魔王の日常業務は事務処理。国外出張のお仕事は外交。たまの国内出張では、首毛をポンポンされたら威圧スキルを発動します。


ガダンに一発お見舞いすることができず、プスプスと怒りをたぎらせながら事後処理を行うモテないトリオ。

なんとなく危険を感じてモテないトリオと距離を置く魔王様とサタン。

「すみません、サタン様でいらっしゃいますか?」

「サタンは俺だ。」

「突然すみません、この近くに高位魔獣が現れまして、お力をお借りできないでしょうか。」


地方官僚に案内されたモテないトリオとサタンと魔王様の目の前にはケルベロスの赤ちゃん、子ケルベロスがうなっていた。

「うううううー!」

「おお、可愛いのう!ケルベロスは初めてじゃ。ほーら怖くないぞー。」

「ぐるるるるるー!」

ざっくりとイヌ科。そんな括りで身内扱いするも、うなられる魔王様。

子ケルベロスにうなられて魔王様の耳がペタンと倒れてしまった。魔王様が涙目でモテないトリオを振り返る。

「私もケルベロスは初めてです、過去の歴史を振り返っても遭遇例はほとんどないはずです。」

鬼畜眼鏡のイブリースがそっと近づくと子ケルベロスが後ずさった。

「私もケルベロスの知識はありません。」

シスコンのモレクが跪く。

「私も同じくです。まだ幼いですが成長すれば危険ですね、今のうちに保護するべきかと。」

ラッキースケベのアルコンも子ケルベロスを覗き込む。


目の前で3人が保護犬のレスキュー団体やシェルター、里親募集などについて意見交換を始めた。

『ちょっと・・・この人たち、わたちたちを犬扱いしているわ。』

『ちんじられない・・・わたちたちケルベロスなのよ!』

『でも、わたち、この眼鏡の人がタイプだわ・・・。』

『わたちは右がタイプよ。』

『わたちは左・・・。』

顔を見合わせて何かを相談していた子ケルベロスが、ポン!と3頭に分裂した。バーニーズマウンテンドッグの子犬にそっくりだ。

目の前で分裂したケルベロスに、驚いて固まっている3人。ケルベロスはそれぞれ好みのタイプの腕に飛び込んでキュンキュン鳴いた。


「く・・・かわいいですね。」

「モフリーヌですね。」

「これは認めざるを得ませんね。」

3人が一斉に振り返った。

「陛下、すぐに保護しましょう。さあ帰りましょう、サタン殿。」


「おかえりなさーい!じいじ!サアたん!」

「おかえりなさい、おじい様。」

ブンブンと手を振って出迎えると、子ケルベロスを連れ帰った経緯について説明された。

元気いっぱいの子犬たちがもてないトリオの腕の中できょろきょろしている。

大人と同じ高さでホバリングしながら覗き込む。

「ふわあ、かわいいですねえ。」

「何故か我々に懐いているようですので、我々で保護いたしますが、引き続き親ケルベロスの居場所などの情報を集めましょう。可能なら親元に返してあげたいですからね。」


3人はケルベロスたちから番認定されたことに、まだ気づいていない。

ケルベロスが生後150年で10歳程度の人型に変化できるようになることにも、番認定した相手に「自分が成人するまで恋人ができない呪い」をかけることにも気づいていない。

150年後でやっと10歳なので、モテないトリオは今後150年以上、彼女いない歴を更新することになる。



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