第3話 初めまして!魔女の館
「エマちゃん、ここが魔女の館よ。」
コンコン。
「はあーい。」
ノックに応えてドアを開けたのは、エマが思い描いたような魔女だった。
エマの思い描いていた魔女というのは…魔法を操り、薬草から素晴らしい効能の薬を生み出す美女だ。実際にこの館の魔女たちは全員ナイスバディな美女ばかりだった。エマも将来自分もボン!キュッ!ボン!な美女になると信じている。根拠はない。
「あらあら、かわいい魔女さんね。どうぞ入って。」
室内には薬草の束が干してあり、大きな瓶が薬棚に並んでいる。思い描いた通りの魔女の館だ。
「エマちゃん、きょろきょろしていないでご挨拶は?」
「ごめんなさい!えっと、エンマです。16年くらい眠っていて昨日起きました。ハーブを育てて、お薬を作って、立派な魔女になりたいです!!」
「うふふ、陛下たちから話は聞いているわ。私はサマンサよ、よろしくね。」
「エンマです、よろしくお願いします!」
「私はエルヴィラよ、よろしくね。」
「エンマです、よろしくお願いします!」
次々と紹介され、挨拶を返す。魔女っぽいお名前に口元がにやける。
「このフルーツティー、とっても美味しいです。」
カップから立ちのぼる豊かな香りを堪能するエマが大きな緑色の目をこぼれそうに見開いている。
「魔女の果樹園で採れたフルーツで作ったのよ、今日のお茶はドロシーのレシピね。フルーツの他にハーブも育てているのよ。植物のお世話は魔女の大切な仕事ね。」
「そういえばエマちゃんは植物関連の加護があったわよね?目覚めてからステータスの確認はしたかしら?」
「植物の加護ですって!?」
ルーシーの言葉に魔女たちがザワつき、エマの身体がビクっと跳ねると、デイモンが抱き寄せてくれた。
「ごめんごめん、植物の加護って珍しいのよ、良かったらエマちゃんの加護について差支えない範囲で教えてもらえるかしら。もちろん無理に聞き出つもりはないから安心してね。」
水魔法とか火魔法の加護は多いのだけれどね、というサマンサの言葉に魔女全員がうんうんと頷く。
「エマちゃん、まずはステータスを確認してみたらどうかしら。私たちには見えないのだから、ここで確認しても大丈夫よ。ステータスはプライバシーだから誰にも教えてはだめよ。年齢や種族や職業は公開しても大丈夫。」
「はい、ルーちゃん、ステータスは秘密ですね。」
「ステータス」とつぶやくと目の前の空間にタブレット画面が出現した。
「えっとですね、エンマの年齢は7歳で、種族は天使です。あ!職業が『見習い魔女』になってます!」
おおー!と魔女たちが反応する。えへへ。
「エマちゃん、加護や称号やスキルは必要な場合、自分で公開しても良いと思ったものだけ公開するようにしてね。エマちゃんが公開しても良いと思う、魔女の仕事に役立つ加護があれば教えてくれる?」
加護は以前から公表していたから大丈夫ですよね。
「えっとですね…植物に関する加護は以前と同じです。
・ 植物の女神ニンサル様の加護
・ 木の神ククノチ(久久能智)様の加護
・ 開花と繁栄の女神タレイア様の加護
の3つです。」
おおおおおー!と魔女たちが反応する。
えへへ。なんだかうれしいですね。
喜ぶエマにデイモンが反応する。
ふふふ、エンマがドヤ顔です、ドヤかわいいですね。羽が喜んでいます。
「僕の称号には『エンマの番』がありますよ。」
エマの称号を知りたそうにデイモンが鼻先でつついてくる。
「えっと…エンマの称号はですね…『ダモの番候補(仮)』があります。」
「候補?候補ってどういうことですか!?しかも(仮)!?」
フェンリル化したデイモンが涙目でぎゃんぎゃん訴える。
エマの代わりにルーシーが答える。
「私たち天使族に番という概念はないもの。」
デイモンは目を見開き、ぱかっと口を開いて、背後にガーン!という文字を背負っている。
館の中と周囲のハーブ畑や果樹園などを案内してもらった。
結構広くて収穫したハーブや調剤後の薬の保管庫はかなり立派だった。涙目のフェンリル型デイモンがぴったりとくっついてきたので首毛を撫でるとピスピスと音を立てながら鼻先でつつかれた。
明日から魔女の館で魔女修行です!
「では家族エリアに戻りましょうか、エンマ!乗ってください。」
フェンリル化したデイモンが尻尾を振りながらエマに迫る。
エマがデイモンを見上げると、デイモンがエマを見下ろしながら早く乗って!と、鼻先でエマの頬をツンっとつつく。
「・・・・ダモ、大きいですね。」
眠りにつく前は子犬サイズだったのに。
「エンマを乗せて走りたいと思っていたのです、さあさあ乗ってください。」
エマが躊躇っているとルーシーがエマを持ち上げてデイモンの背に降ろしてくれた。
「高いです!いい眺めですね。」
エマを乗せたデイモンが嬉しそうに何度も背中のエマを振り返る。でろんとピンク色の舌を垂らし、嬉しそうだ。
家族エリアに戻る頃にはお腹ペコペコだ。ダイニングルームに近づくにつれ、食欲を刺激する匂いが強くなる。
「朝ご飯も、とっても美味しかったです。お昼も楽しみです。」
「私もこちらに来て、食事のおいしさに驚いたのよ。毎食、特別なごちそうかと思うほどおいしくて、つい食べすぎてしまうの。」
「僕だって!エンマと一緒だと100倍美味しく感じますよ。」
エマを乗せたデイモンが尻尾をブンブン振り回す。
「ダモとのお出かけは、いつもご飯やおやつをいただいていたでしょう?ダモが連れて行ってくれるお店は、どこも美味しくて夢のようでした。」
「また行きましょうね、エンマ。」
デイモンの尻尾がブンブンだ。
「うん!」
ダイニングに着くと、すでにカールとダイアナと唄子さんが待っていた。
「お帰り、エマちゃん。」
「おかえりなさいエマちゃん。」
「ただいま、じいじ、ダイちゃん。」
「お帰り、エマちゃん。お昼は普通のごはんを用意してみたよ。」
「ありがとう、唄子ちゃん!」
目の前に用意されたのは唄子さん特性のオムライスだった。
エマのオムライスには甘めのトマトソースが掛けられていて、鮮やかな赤いソースが食欲を刺激する。
「エ、エマちゃん!いったいどうしたんだい?陛下?エマちゃんが変だよ!!」
目を見開いて震えていると唄子さんが慌てる。
「お店のごはんです・・・。お家で食べられるなんて・・・感激です・・・。」
緑色の大きな目いっぱいに涙を溜め、憧れと尊敬を込めて唄子さんを見つめる。
「具合が悪い訳じゃないんだね?」
「エンマは・・・エンマは・・・嬉しくて最高に良い気分です!」
ブンブンと頭を振りながら力いっぱい答える。オムライスを取り上げられてお粥を渡されてはたまらんです!
「ちょうど戻りながら話していたの。天界はあまり食事に工夫がなくて、私もこちらに来た頃は、毎日豪華な食事で驚いたって。」
「ダモが連れて行ってくれたお店のオムライムにそっくりです。こんなオムライスを作れるなんて唄子さんはすごいです!」
「エマちゃんは井づ津のオムライスがお気に入りだって陛下に聞いたから似せてみたんだよ。本物はデイモンと一緒に行くといいさ。」
ぽってりと形よく整えられた真っ赤なケチャップライスが黄色い卵に包まれており、真っ赤なトマトソースが食欲を刺激する。
「そんなに喜んでもらえると張り合いがあるよ、嬉しいねえ。」
熊耳をピコピコと忙しなく動かしながら唄子さんは下がってしまう。
「唄子さんは別の場所で、家族で食事を取られるのですよ。さ、暖かいうちにいただきましょうね。」
いただきますをして、ぽってりと丸いオムライスを真っ赤なトマトソースごとスプーンですくう。期待通り絶品だ。
「美味しいです!唄子さんのオムライス美味しいです!!」
「美味しいね」と笑い合うデイモンのオムライスには濃い色のソースがかかっていた。
「これはドミグラスソースですよ、味見しますか?」
もちろんです。あーん、パクリ。
食べさせてもらったドミグラスソースのオムライスも美味しかった。サイドのスープはクラムチャウダーだった。たっぷりの浅利の旨味が美味い。次の機会にはトマトソースとドミグラスソースを半分ずつ掛けてもらう約束を取り付けた。
エンマは唄子さんに胃袋をつかまれてしまいました。明日のごはんも楽しみです。
晩御飯に唄子さんが用意してくれたメニューは五目あんかけ丼だった。エビ、ウズラの卵、白菜、人参、椎茸、筍、きくらげ、イカ、ヤングコーン、豚肉がトロトロなあんの中にたっぷりで、彩りに乗せられたさやえんどうの緑が眩しい。
トロトロで優しいあんは丁寧に出汁を取ってあり、寝起きのエンマを気遣ったメユーなのだろう。五目あんかけ丼もふわふわ卵のかき卵スープも優しい味わいだ。
魔界ランドに来て良かった。
天界の料理はシンプルなものしかなかった。しかもメニューの種類がとても少ない。朝食は薄いトーストに卵料理、フカフカしたソーセージ、焼きトマト、ベイクド・ビーンズ。シリアルなど。昼食はサンドウィッチやベイクド・ポテト。たまに提供されるごちそうはローストビーフやフィッシュアンドチップス。他のものを食べたことがなかったし、食事とはそういうものだと思っていた。
魔界ランドのごはんは美味しいですね、もう天界には戻れません。
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