第2話 唄子さんの朝ご飯

翌朝まで眠り続けたエマが目覚めるとルーシーがいた。

「・・・ルーちゃ」

寝起きでぼんやりとした声しかでない。

「おはようエマちゃん。身体はだるくない?頭はぼうっとしていない?どこか調子の悪いところはある?」

心配そうに聞かれるが、どこも悪くない。


ルーシーに身支度を手伝ってもらい、手を繋いでリビングに向かうと、そわそわと落ち着きのない人型のデイモンが嬉しそうに駆け寄ってきた。ピンと耳を立て、尻尾ブンブンだ。

16年ぶりに会うデイモンは、大人っぽくなっていたが、一目でデイモンだと分かった。見慣れたケモ耳はピンと立ち、ふかふかの尻尾が激しく揺れている。

「…おはよ、ダモ。」

「エンマ…おはようございます・・・・・。」

「えへへ、寝すぎちゃった。」

恥ずかしそうに挨拶すると、デイモンが涙ぐみながらエマを抱きあげてスリスリした。

眠りに就く前は同じサイズだったが、現在の身長165㎝のデイモンが120㎝のエマと並ぶと、エマの頭のてっぺんがデイモンの胸くらいの身長差だ。大きな子供が小さな子供を抱き上げる様子が可愛らしい。


眠っている間、デイモンが側にいてくれたことはぼんやりと認識している。目覚めたことを心から喜んでくれていると実感し、嬉しくて羽がパタパタと揺れる。大好きホールドでデイモンを抱きしめ返す。


「おはよう、エマちゃん。ごはんは食べられそうかい?お腹にやさしいものを用意したから、無理せず試してごらん。」

デイモンと2人、抱き合って「えへへ」、「うふふ」と笑いあっていると、熊耳の女性に声を掛けられた。


「おはようございます・・・?」

誰?と思いながら挨拶を返した。

「あたしは唄子。ここの食事作りを任されているんだよ、これからよろしくね!」

「よ、よろしくです。」

元気な唄子さんに圧倒されているうちに、デイモンに運ばれ、子供用の椅子に座らされた。

唄子さんが朝食を並べるのを眺めているとデイモンが声を掛けてくる。

「いただきましょう、エンマ。」


「久しぶりの食事だからね、トロトロになるまで煮込んだスープや、あっさりした味付けで柔らかく仕上げたリゾットを用意したよ。お腹にやさしくて消化に良いメニューだけど無理に全部食べなくても良いからね。お腹が受け付けないものや、他に食べたいものがあれば教えておくれ。」

そう言いながら唄子さんが目の前に並べてくれた料理は彩りも豊かで美味しそうな湯気をたてていた。


きゅうぅー。

眺めていたらお腹が鳴った。

恥ずかしい・・・思わず両手でお腹を押さえる。


「くすくす・・・いただきましょうか。寝起きなので無理はだめですよ。」

「えへへ。いただきます!」

デイモンに声を掛けられて元気良く食べ始めた。

完熟トマトのリゾットに野菜たっぷりのコンソメスープがほかほかと美味しそうな湯気を立てている。

唄子さんの料理はどれも美味しくてスプーンが止まらなかったが、目覚めてから最初の食事だったため量が少なめだった。

「もう少し食べたいです!」

もの足りないと訴えるとデイモンがパンを取り分けてくれた。焼きたてのブリオッシュを二つに割ると、ほんわかとバターの香りと湯気が立ちのぼる。ぽっこりとした形も可愛い。デイモンがおかわりのミルクを注いでくれた。ミルクは絞りたてが毎朝届けられるらしく、フレッシュで美味しい。


夢中で食べ、美味しいミルクを飲み干すと皆に見られていることに気づいた。

「美味しかったです、お腹いっぱいです。」

「美味しそうに食べてくれて嬉しいねえ。お腹は大丈夫かい?痛くなったら言うんだよ。」

恥ずかしくて俯くと、食後のお茶を配っていた唄子さんがニコニコと声を掛けてきた。

「とっても美味しかったです!全部美味しかったです!」

にっこりと笑いながら元気よく答えると、唄子さんの熊耳が嬉しそうにピコピコ動いた。


「さて、一息ついたところで改めてお話しさせてくれるかな?儂を覚えているかな?デイモンのお爺ちゃんだ。魔界ランドの魔王をしておる。陛下と呼ばれることも多いが、エマちゃんには、これまで通り〝じいじ“と呼んでもらいたいなあ。」

「うん!じいじ。」


「エマちゃんが眠っている間にな、儂のほかに、エマちゃんと同じ名前の閻魔大王に後見をお願いしたのじゃ、閻魔大王も快く引き受けてくださってな、いずれ紹介するので楽しみにな。心強い味方だぞ、エマちゃん。」

「うん!じいじ!」


「それでな、エマちゃん。エマちゃんは魔界ランドに移住したら魔女になりたいと希望していただろう?」

「うん!エンマは植物の神様の加護があるからルーちゃんの庭園で薬草のお世話をしていました。そういうのって魔界ランドでは魔女の役目って聞きました!」

「おお張り切っておるのう。それでな、この宮殿に魔女の館があってな。エマちゃんは、そこで魔女の修行をしたらどうかな?」

「します!」

「ふふふ。そういうと思って、もう話してある。館の魔女たちもエマちゃんを楽しみにしておる。まずはデイモンとルーシーから、この宮殿を案内してもうといい。そのついでに魔女の館に寄ってみなさい。」

「では腹ごなしがてら宮殿内の散策に参りましょうか?」

「うん!」

元気良くお返事しながらデイモンに向かって両手を伸ばすとデイモンが床に降ろしてくれたので、ルーシーと3人で手をつないで歩く。

エマの羽がパタパタとはためき、デイモンの尻尾が高速で振られる。

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