あなた専用
@saruno
あなた専用
マルタ氏は他人と同じものを持つのが嫌いな男であった。服は聞いたこともないメーカーにオーダーメイドで作らせ、クルマも自分専用にメーカーに一から設計させた。なにしろ金持ちなのだ。テレビ・ラジオ・パソコン・冷蔵庫からドライヤーに至るまで、家電量販店に置いてあるような量産品は彼の部屋に1つも置かれていない。友人はそんな彼を「変わり者」と呼び、敬遠した。それもまた彼の独自のライフスタイルとして確立していたのだから、他人と同じものを持たないというポリシーは全てが徹底されていた。
ある日、マルタ氏が道を歩いていると、後ろからバイクに乗った二人組の男が現れ、追い抜きざまに特注のアタッシュケースを奪った。中にはちょうど銀行の貸金庫から取り出したばかりの現金が大量に入っていたので、取り返さなければ大損害になってしまう。
「まて!」
しかしバイクは唸りをあげ、ついに走り去ってしまった。
「やったぜ兄貴」
「ああ、ついに手に入れた」
この二人組はかねてより資産家であるこの男に目をつけ、今日までひったくりの機会を伺っていた。計画を練り、ちょうど銀行から出てきたところを襲う計画は見事に成功した。
「早くあけようぜ!」
「まて、施錠されているじゃないか、ピッキングしないと」
二人組のうち一人はピッキングの達人で、鍵という鍵をたちどころに開けてしまう実力の持ち主だったが、このアタッシュケースには苦戦した。なにしろマルタ氏が作らせた専用の錠前なのだ、そこらの一般的な錠とは構造が違う。二人はほとんど叩き割るようにしてアタッシュケースを開けた。しかし中身は充電の切れたスマートフォン1台だけだった。
「兄貴、現金なんかどこにも入ってないよ!!!」
「まあいいじゃないか、充電して中のデータを頂こう。金になるものが入ってるかもしれない」
だがそれは叶わなかった。充電しようとしたらケーブルの端子が見たこともない形をしていた。マルタ氏専用なのだから当たり前である。二人組はあまりにも腹が立ってきて、盗んだアタッシュケースを投げ捨てた。すると落ちた衝撃で隠しポケットから紙幣が大量に飛び出してきた。
「なんだ、現金あるじゃないか!」
「これで俺たちも大金持ちだ!!!」
二人組は喜び、早速札束を握りしめ、高級レストランへと向かった。美味いものを食べ、酒を浴びるほど飲んだ。
「お会計は10万円になります。」
「なんだ、そんなものでいいのか」
二人組はポケットから出した札束を店員に叩きつけ、店を出ようとしたが、それも叶わなかった。紙幣をよく見るとそこにはマルタ氏の肖像画が…。
あなた専用 @saruno
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