会場建設地の確保
「あの、ハルト様。陛下から最強クラン決定戦の会場設営を依頼されたのですが……。その規模というのが信じられないくらい大きいのです」
カインにした宣言通りジルはH&T商会に会場設営の依頼を出した。その依頼内容を見て頭を抱えたティナが屋敷に帰り、ハルトに相談しているところだ。
「んー。どれどれ?」
ティナが依頼内容をメモした紙をハルトが確認する。
「……え、マジ? なにこの広さ。こんなに広かったら白亜とかヨウコが元の姿で暴れらるな。てことは、まさか」
もしかして──とハルトがとある予測を展開する。そしてそれを彼が開花させた直感が『正しい』と肯定した。
「ティナ。この依頼受けよう! 受けなきゃだめだ!!」
「えっ。本気ですか? だってこんなに広い会場、どこに造るんです? それにこれは最強クラン決定戦の本戦会場なんです。他国の方も訪問されますし、あまり王都や港から離れた場所に建設することができません」
彼女が言うようにこの案件、建設地に制限があったのだ。王都や港街から近くなければならないが、そうした場所には要求される広さを確保できるほどの平地が無い。これが一番の課題であった。
「まさか、遺跡のダンジョン前広場の様に、町まで建設しようとお考えですか?」
「いや、そんな必要はないよ。まぁ期間は一か月もあるから街を造っちゃってもいいけど。ちなみに会場はクレリア平原に建設しようと思ってる」
ハルトの感覚で一か月というのは、数百人が暮らす規模の町どころか、数千から万のヒトが住む街をつくるのに十分な期間だった。
「クレリア平原……。確かにそこなら十分な広さがあります。大した要所でもないので、建設許可も降りやすいでしょう。しかし、移動はどうするのです?」
クレリア平原はグレンデール王国の南西に位置し、海から遠く加えて四方を山に囲まれた場所にある。中央にある王都からも遠く離れていた。
「今後の国の発展のために鉄道を通すのとかも少し考えたけど、それより『ポータル』を設置しちゃおう」
「ポータル?」
「うん。とりあえず移動は俺が何とかするからさ、ティナは陛下にクレリア平原を開拓しちゃって良いか確認して来てよ。俺は色々準備があるから、あとはよろしく!」
そう言うとハルトは転移で姿を消してしまった。
──***──
ハルトに質問しようにも彼が呼びかけに答えないので、ティナは彼の指示通りジルの元へやって来ていた。
「クレリア平原、だと? あそこは確かに広く、俺が要求した規模の会場を作るに問題はなさそうだが……。移動はどうする? 他国から何万ものヒトがやってくるのだぞ。無茶な依頼をしたのは俺だが、いくら何でもクレリア平原は無理であろう」
ティナから建設予定地を聞いたジルも困惑する。一方で超直感スキルを持つカインはハルトの意図を理解し、ニヤニヤしていた。
「陛下。ハルトのやりたいようにさせましょう。アイツの思い付きには他国の王族たちも驚くことでしょう。そして我が国の魔導技術を見せつける良い機会になります」
「お前、自分だけハルトがやることを理解したな!? ズルいぞ! 俺にも説明しろ」
「確証はありません。しかしハルトならやり遂げるはず。そして陛下も私から聞くより実物を見た方が楽しめますよ。ですからどうか、私の弟を信じてください」
「……わかった。カインがそこまで言うのだ。楽しみにさせてもらう」
「と、いうことは」
「あぁ。ハルトの望み通り、クレリア平原を開拓する許可をだそう。カイン、あの土地の権利を持つ者は?」
「あそこは交通の不便からヒトが住んでいません。龍脈からも遠いため魔物も少なく、冒険者すら近寄らない土地。ですので我が国の領土ですが、治めている者は存在しません。土地の権利書はこの城内にあるかと」
「よし。じゃあそれを探して持ってきてくれ。一応確認しておきたい」
「御意」
カインが出ていったのを確認したジルがティナに向き直る。
「さて。ハルトが動いてくれているので何とかなるのだろうが、見返りは何が良い? かなり無理を言ってしまったからな。対価は弾むぞ。遠慮せずに申せ」
「そう言われましても、私の一存では決めかねます」
「どうせハルトに聞いても大した望みは出てこないんだ。アイツ、大体のことは自分で叶えてしまうからな。だからこの際、H&T商会をもっと大きくするための望みとかを言ってしまうのはどうだ?」
ジルはハルトの力で様々な国益を得てきたが、その見返りとしてハルトが望むことは多くなかった。彼への恩を返しきれていないと感じていたジル=グレンデールはティナの望みを叶えることで少しでも報いようとしていたのだ。
「……本当に、よろしいのでしょうか?」
「構わん。なんでも良いぞ」
「では、私たちが開拓したクレリア平原を最強クラン決定戦が終了した後、H&T商会で管理したいです」
「ほぉ、なんでだ?」
「これは百年ほど商人をしてきた私の勘です。現在冒険者すら近寄らない無価値のクレリア平原はハルト様が開拓を行った後、お金を産む場所へと変貌を遂げます」
「私の超直感もそう告げていますよ、陛下」
カインが王の執務室へと戻ってきた。その手には一枚の紙が握られている。
「これ、今後とんでもない価値になるんですが……」
「そうか。ではこれはハルトに譲ろう」
ジルはカインから受け取ったクレリア平原を含む広大な土地の権利書を、一切の躊躇なくティナに手渡した。
「会場設営、頼んだぞ」
「承知いたしました。ご期待に添えるよう、全力を尽くします」
ハルトへの恩を返せたと考えるジルの表情は晴れやかだった。一方で、国として得られるはずだった莫大な利益を易々と手放してしまったことに気付いたカインは少し複雑そうな顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます