マスター不在の二次予選と助っ人
最強クラン決定戦の二次予選当日。
「ハルトがいない? ティナ先生も?」
「おい、マジかよ。もう二次予選始まっちまうぞ」
ハルトとティナがまだ来ていないということをリファから聞かされたルークとリューシンが驚いていた。
「一次予選はグレンデール国内のクランだけだったけど、この二次予選は世界中の国から予選を勝ち抜いたクランが集まってくるんだ。お腹に子どもがいるティナ先生はともかく、ハルトはうちの最高戦力だろ。それが不在って……」
「しかもあいつ、クランマスターだしな」
「そうですよね……。私もおふたりが来られないと通信で聞かされた時は驚きました。でも、どうしても手を離せない用事があるみたいです」
リファが困った顔を見せる。
「まぁまぁ。主様がおらずとも、我らがやることは変わらぬ」
「この大舞台、
「ハル
「私たちだけで優勝しちゃうの!」
ヨウコとキキョウ、アカリ、白亜はハルトが不在でも気後れすることはない。逆に彼が不在の時に活躍できれば褒めてもらえると考え、ヤル気を高めていた。
「ルーク様、リューシン様。ご安心ください。ハルト様ほどの力はございませんが、元魔王の私がいるのです。勇者が出てきたりしない限り負けることはありません。それにこちらには私より強いアカリ様もいらっしゃいます」
「強そーなヒトがいたらちょっと本気出しちゃうよ!」
「お、おう。そうだな」
「よくよく考えたらヒト相手には過剰戦力だった」
「あのー。実は、そのことなんですが」
リファが控えめに手を挙げる。
「万が一を考え、ハルトさんは助っ人を呼んだと言っていました」
「助っ人?」
「
「そう、俺だ。呼ばれたから助っ人に来てやったぞ」
上半身裸の男が現れた。深海のような深い青色の髪、その手には三又の槍を携えている。この世界の海を統べる神、ポセイドンだ。
「か、海神様?」
「あの……。俺の聞き間違いですかね。助っ人に来たって」
「聞き間違いではないぞ、ルークよ。俺はハルト直々の頼みを受け、貴様らの助っ人としてやって来た。報酬はティナの手料理3回分だ」
ご飯を3回好きな時に食べに来て良いという条件で、この世界の四大神が
ちなみに最強クラン決定戦では各クランひとりだけ助っ人が認められている。緊急事態に他所から強者を招集できるかどうかというのもクランの実力とみなせるからだ。ただし他のクランで参戦予定の者は助っ人に指名できない。
「ほら。ちゃんと冒険者登録も済ませて来た」
そう言いながら海神がFランク冒険者のギルドカードを見せる。
冒険者登録の際に嘘を見抜く魔具『真偽の水晶』で審査を実施されたのだが、この世界の準最高神である海神にとって、真偽の水晶を誤作動させることは容易い。ハルトがCランク冒険者となった現在、世界最強のFランク冒険者が誕生していた。
「俺は最低ランクだが、所属するクランがCランク以上であれば助っ人として参戦できると聞いた。これで問題ないはずだ」
「いや、確かに問題はないんですが……」
「神様が参加しちゃていいのか?」
「まぁ、その点は問題ないかと。一時予選では竜神様が参戦されていましたし」
ルナが言うように一次予選の時、ハルトの母アンナが呼び出した竜神はキキョウと戦った。彼はアンナの事象改変スキルでCランク冒険者という設定になっていた。
「てことでよろしく頼むぞ。共に戦い、予選を勝ち抜こう!」
「「「お、おぉー!」」」
ティナの手料理を食べたいがために意気込む海神。彼の覇気につられ、ファミリアのメンバー全員が声を上げた。
──***──
「……んーと。なんつーかさ」
「ルーク、みなまで言うな。俺も同じこと考えてる」
二次予選が終わり、予選突破クランが記念に受け取るクリスタルをルークが持っていた。ハルトとティナが不在の時、彼がクランマスター代理になっている。
「各国最強クラスとはいえ、俺たちからしたら雑魚しかおらんかったな」
ルークとリューシンが言い淀んでいたことをそのまま言葉にしてしまう海神。彼が言う通り、二次予選をファミリアは破竹の勢いで勝ち進んでいった。
当然だ。所属メンバー全員が異常なのだから。一番弱いルナですらレベル150を超えている。加えて助っ人に四大神。そんなクランと善戦できる敵がいるはずない。
彼らは誰一人負けることなく、予選を突破した。
「本戦も手伝ってやりたいが、これでも神なんでな。やることがあるから神殿に戻らなきゃならねぇ。それにお前らなら大丈夫だろ」
「海神様、ありがとうございました」
「お疲れ様でしたにゃ」
「「また食事会でお会いしましょう」」
「おう。じゃーなー」
地面に水が染み込むように海神の姿が消えた。
ハルトたちのクランは最強クラン決定戦の本戦に出場することが決定したのだ。
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