本戦常連たちの野望


 とある国の冒険者ギルド。

 その最上階の部屋に九名のヒトが集まっていた。


「今年のグレンデール代表にはヤバいのがいるらしい」

「ファミリアってとこだな。俺も噂は聞いた」

「なんでも、リーダーの魔力量が常人離れしているとか」

「リーダー以外もバケモノ揃いだと聞いたにゃ」

「偵察に送った者の話では、戦闘レベルが異次元だったと」

「しかし、ついにあそこも代表が変わるのか」

「元代表は確かに強かったが、頭が固かったんじゃ」

「奴らは真面目過ぎてロマンというのを知らん」

「我らの誘いをことごとく断りよって……」


 最強クラン決定戦では各国の予選を勝ち抜いた上位3つのクランが二次予選へと進む。そしてグレンデールからは『セイントグレン』というクランがここ最近は毎回二次予選を突破して本戦に出場していた。


「だがそれも昨年までのこと」


 Sランククランでありグレンデール最強と呼ばれていたセイントグレンを、ハルト率いる『ファミリア』が打ち破ったのだ。


「ついに今年は本戦でができるかもしれん」

「「「おおぉぉ!」」」

「や、やっちゃいますか!?」

「いや、待て。新たな代表ファミリアの確認が先だ」

「グレンデール自体が真面目な国柄だからにゃ」

「新代表もセイントグレンと同じ系統だと困る」

「我らの様に遊び心を持ってほしいものじゃな」

「それだけではなく、本戦に勧めるほどの実力も必要だ」

「セイントグレンを打ち破るほどだ。力はあるだろうよ」

「偵察の者からの情報は?」

「予選の様子だけではダメだ。もっと詳細の情報がほしい」

「クランマスターの名前や年齢などは分かるか?」


 その時、ひとつの影が部屋の中に現れた。


 彼はとあるクランに所属する密偵だった。この場には世界各国で最強の力を持ったクランの代表者たちが集っている。


「ご報告します。新代表『ファミリア』のクランハウスに、を確認」

「「「「おおおおおぉぉ!」」」」


 男の報告を聞き、湧きあがるクラン代表者たち。


「ついにロマンの分かる者が代表のクランがグレンデールから出たか!」

「理想を持つだけでなく、それを現実のものとする財力と技術力」

「そして仲間を説得する力」

「いや、仲間に文句を言わせぬほどの圧倒的な信頼でも良い」

「もしくは独断でやってしまう突破力にゃ」

「それらを持たねば成しえるはずのないロマン」

「すれすなわち──」



「「「クランハウスの、変形!!」」」



 一通り盛り上がった彼らは天井を仰ぎ、長年の夢がかなうことを予知した。


「ついに今年、最強クラン決定戦の本戦で、『クランハウス殴り合い大戦』が実現するかもしれない」

「各クラン代表が集まり『クランハウス変形協会』が秘密裏に結成されて十六年」

「……来ましたな」

「うちは先代から意志を引き継いで2代目だぞ」

「俺んとこだってそうだ。でも先代は今も夢の実現を願っている」

「ここまで、本当に長かったにゃ」


「だが、ちょっと待て」

「ん? どうした」

「今年の本戦開催地はグレンデールであろう?」

「……はっ! も、もしや」

「そもそもクランハウス殴り合い大戦が許可されない可能性が!?」


 絶望した表情を浮かべるクラン代表者たち。


「あの超真面目クラン、セイントグレンのある国だ」

「きっと国王とかも真面目なんだろうな」

「水の精霊王ウンディーネが加護を与える国でもあるにゃ」

「あの精霊王も冗談通じなさそうだし、やっぱキツイか」

「どう考えても無理じゃ」


 部屋に重い空気が立ち込めた。


「クソっ。今年こそはって思ったのに」

「また四年後に期待するしかねーのか」


「その心配は不要だ」

「──っ!!」


 密偵の男とは別の場所に華美な服を着た男が現れた。密偵は自分のクラン代表を守ろうとしても何故か身体が動かず、現れた男をただ見ることしかできない。 


「だ、誰にゃ!?」


「俺はグレンデールの王。ジル=グレンデールだ」


「グレンデールの王……。えっ、本物?」

「ば、馬鹿者! 頭を下げよ!!」


 ジルの姿を知っていたひとりの代表が他の代表者たちに警告する。


「まぁ、秘密の会合に突如現れた俺が悪いのだ。そんなに畏まらなくて良い。ただ、もし可能ならお前たちの計画に一枚噛ませてほしい」


「──と、言いますと」


「クランハウス殴り合い大戦とやらを是非とも実現してほしい」


「「「えっ」」」


「面白そうではないか。必ずやるのだ。会場はこちらで手配しよう」


「あ、あの……。本当によろしいので?」


「俺は約束を守る男だ。しかし俺だけでなく、お前らにも本戦に出場するという約束を守ってもらう必要がある。それがこの国でクランハウス殴り合い大戦をするための条件だ。本戦出場するクランのひとつでも変形クランハウスを持っていなかった場合、戦いにならんからな」


 ジルの姿が薄くなり始めた。


「貴殿らの奮闘、楽しみにしているぞ」


 そう言いながらジルの姿が消えていった。


「き、消えた!?」

「現れるまで気配を全く感じなかった」

「俺らが全く気づけないなんて」

「もしかして俺たちより強いんじゃねーの?」

「ありえるにゃ」

「あの御方なら我らを容易く暗殺できるだろう」

「「「…………」」」


「な、なにはともあれ会場は問題なさそうだ」

「そうだな」

「あとは各々が全力を尽くして本戦に進むのみ」


 この場に集った者たちが率いるクランは最強クラン決定戦の本戦常連であり、彼らのクランが二次予選で当たることが無いよう対戦が組まれているのだ。


「では皆、此度も本戦で会おうぞ」

「「「応っ!!」」」

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