対戦後

 

 気を失っているシトリーの治癒をリュカとセイラにお願いした。闘技台から降りて母と向かい合う。


「これで俺の力は認めていただけましたか?」


「えぇ。というより私は、ずっと前からハルトが強いってことを知ってたよ」


 あれ、そうなんですか。

 じゃあ、なんでこんなことを?


「今回は私がハルトに『お母さんは強いんですよ』ってことを知っててもらいたくて、みんなに協力してもらったの」


「あぁ、そっち……」


 確かに魔法も剣技もスキルも、俺の母は全部がヤバかった。


「ハルトには負けちゃったけど、貴方のお母さんは神様を召喚できちゃうくらい強いの。だからもし困ったことがあったら、いつでも頼ってくれて良いんだよ」


 頼りになりすぎる。


「そういえば邪神様は一度召喚したら、もう次はダメみたい。だから神様の力はお借りできない」


 四大神様を呼び出すスキルって言うのは一度きりのものらしい。


「だとしても母上の強さは異次元ですので、何かあれば頼りにさせていただきますね。ありがとうございます」


「うん! それからひとつ、私からハルトに注文があります」


「なんでしょう?」


「もっとうちに帰ってきなさいよ! 私が寂しいじゃない!!」


 母に頬をつねられた。

 痛くはない。


 ただ、ここ数ヶ月は一度も母に会っていなかった。それを少し申し訳なく感じる。


「ほ、ほへんははい(ご、ごめんなさい)」


「わかってくれればいい。あなた転移が使えるんでしょ? いつだって帰って来れるじゃない」


 昔は実家に残されていた俺の荷物を取りに行ったりして、月に数回は帰っていた。それに加えて新たな家族が増えた時も実家に帰り、みんなを父や母に紹介していた。


 それらも最近は少なくなった。家族が増えすぎて、全員で移動するのが大変なんだ。移動自体は転移で一瞬なのだけど、みんなのスケジュールを合わせたりするのがちょっと厳しかったりする。


「ティナさんたちが妊娠したって連絡くれてから、まだ一度もうちに帰ってきてないよね?」


「……あっ」


 ヤバい。それは完全にわすれてた。


「私、おばあちゃんになるんだよ? 孫に服とかを買ってあげるの、すごく楽しみにしてるんだから!」


 母か頬を膨らませて怒っている。


 各所からティナたちの懐妊を祝う品が届くので、その返礼品の準備やらなんやらで俺の実家のことは失念していた。


 てゆーか、そんなに気にしてるなら好きな時に来てくれればいいのに。


「呼ばれてもないのに行けないよ。行きたいけど。すごく行きたいけど、私は息子のお嫁さんたちにウザいって思われたくないもん!」


「す、すみません。気が回らなくて……」


 俺は自分の母だから、いつでも家に来てくれて良いと思うが、ティナたちからしたら旦那の母親。屋敷に居られるだけでも気を使ってしまうのだろう。


 それを母も分かっていて、自ら遊びに行きたいと言い出せなかったようだ。


「今度、みんなで遊びに行きますよ。あと月に一度とかなら、遊びに来ていただいても大丈夫だと思います」


「孫が産まれたら、もっといっぱい会いに行きたいんですけど!?」


 月一じゃダメか。

 あとでみんなに相談してみよう。



「ハルト様! シトリーさんが、目を覚ましました!!」


 ティナが俺を呼びに来てくれた。邪神に操られていた彼女のことが気になる。何の影響も残っていないと良いのだけど……。


「母上、すみません。ちょっと行ってきます!」


「はーい。私が遊びに行く件、みんなにちゃんと相談してね」


 母の言葉を背に、俺はシトリーの元へと急いだ。

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