最強クラン決定戦 予選(22/22)
ハルトの右腕に魔力が纏わりつく。
高密度に圧縮された魔力が空気を震わせた。
しかし彼はまだ魔力の放出をやめない。
一点に集められたそれは、微細な粒子として実体を持ち始めた。ハルトが放出した魔力は無属性だったが、魔力の粒子が高速で擦り合ったことで電気を帯びていく。
彼の右手から伸びた電撃が闘技台の石板を砕いた。
それでもハルトは魔力を高め続ける。
ハルトは一旦魔力を周囲に放出し、それを腕に集めるというのを繰り返している。そのため周囲の空気の質も変わっていった。
最強賢者の殺意は全て邪神に向けられているが、観客たちは肌がひり付くほどの恐怖を感じていた。しかし誰もその場から逃げようとはしない。
見たこともないほど凝縮された魔力。
今まさに、究極の一撃が放たれようとしている。
ハルトの魔力に魅了され、観客たちはこの場を去ることができなかったのだ。
ふっ、と空が暗くなった。
魔力を集める時に周りの空気も巻き込むため、この付近が強い低気圧となって空に暗雲が渦巻いていた。
天候を変えてしまうほどの魔力量になっても、創造神にバケモノと呼ばれるこの男は魔力の放出をやめなかった。
「は、はぐっ!? はぐぐううぅぅぅぅ!!」
神属性魔法の縄で口を塞がれている邪神が、必死になって何かを叫んでいる。
その顔は恐怖で引き攣っていた。ハルトがその表情を見たら、手を抜くことを考えたかもしれない。だが彼は邪神の方に目を向けていなかった。
一度目に邪神を殴った時は自分が殺された仕返しだった。もしあの時、邪神が今のような表情をしていたら、当時のハルトは全力を出せなかったはずだ。
しかし今回はシトリーを泣かせたことに対する仕返し。
もう二度と邪神がシトリーに近づかないようにしたかった。これ以上エルノール家に関わりたくないと思わせるため、極限まで恐怖させる必要があった。
だからハルトは魔力の放出をやめなかった。
世界が灰色になった。
時が止まったのだ。
ありえないほどの魔力が一点に集中したことで、世界の秩序にエラーが生じた。
こうなってしまった世界で動けるのは神々や、魔眼や神眼などのスキルを持つ者たち。そして時間停止による強制停止というステータス変動を受けないひとりの賢者だ。
停止した世界で、ハルトが右手を引いて構える。
「邪神様。今回は貴方を消滅させません」
彼は邪神に下を見たまま話しかけた。
「ですがもし、また俺たちの前に現れたら。もし俺の家族を傷つけるようなことをしたら──」
「わ、わあっあ! あがっああぁ!!」
邪神は全力で首を横に振り、ハルトの家族に手を出さないことをアピールしようとしている。しかしハルトはそれを見ていなかった。
「俺の家族に手を出したら、次は消します」
決心がついたようだ。
攻撃の準備も整った。
ハルトが邪神の目を見る。
この世界の最高神に次ぐ高位の神とは思えないほど情けない顔で、邪神は必死に命乞いをしていた。
ハルトは『次は消す』と言う。でも彼が凶悪な魔力を纏わせているその拳で殴られたら、どう考えても痛いに決まっている。自身の存在すら消し飛びかねないと邪神は感じていた。
だから必死に訴えかけるが、邪神自らが勘違いで生み出してしまった最強賢者は止まってくれなかった。
「邪神様。さようなら」
「────っ」
ハルトの拳が邪神の腹に叩き込まれた。
邪神の身体が吹き飛び、後方に開けられていた転移魔法陣に吸い込まれた。その転移魔法陣の先は神界へと繋がっている。
事前に創造神の許可は取ったので、邪神がどうなったのかハルトは確認しようとしなかった。少なくとも多少の手加減はしたので、消滅はしていないはず。
「もうこっちに来ないでくださいねー!!」
ハルトが転移魔法陣を閉じた。
それと同時に時が動き出す。
「さて、邪神様はいなくなりましたが……。まだやりますか?」
「ううん。もう十分よ」
彼の視線の先には笑顔のアンナがいた。
「神様を倒しちゃうなんて流石ね、ハルト。私の負けよ」
アンナが敗北宣言したことで、最強クラン決定戦の予選一回戦は
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