最強クラン決定戦 予選(18/22)

 

 ヨハンさんが魔法障壁の外に出た。


 それを確認した俺は魔力の放出を始めたが、母はまだ動かない。こちらの出方を窺っているようだ。となると初手は俺に譲られた感じか。


 ……どうしよう? 

 とりあえずをやっておこう。


「ファイアランス!」


 十万本分の炎槍を収束させ、一本の巨大な攻撃魔法にして母上に投げつけた。


 一本に込める魔力量は限界値の10にしてある。つまり百万の魔力の塊だ。更に俺は魔法学園での訓練の成果で、魔法を飛ばす速度を向上させることもできた。俺の魔法攻撃は万全の状態の悪魔ですら避けられない速度になっている。


 そんな炎の槍が、轟音を立てて母のもとへ。


「大した魔力量ね。でも──」


 右手に純白の剣を持つ母。伝説級レジェンド以上の力を感じるその剣で俺の魔法を切り裂くぐらいしてきそうだなと予想していたのだが、彼女の行動は俺の想定を超えてきた。


「ていっ」


 母は軽い掛け声とともに、剣を持たない左の拳で俺の魔法を弾き飛ばしたのだ。


 力などほとんど入っていないようにも見えた。それでも確かに俺の魔法は弾かれ、闘技台の周囲に張った魔法障壁に当たって消滅した。魔法障壁にはかなり力を入れて強化してあるので、多少揺れたものの亀裂などは発生していない。


「直線的な攻撃だし、速度もたいして速くないわね」


「えっと、悪魔も避けられない速度なんですけど……」


「悪魔と言ってもピンキリでしょ。邪神直下のセーレっていう移動速度に特化した悪魔とかなら避けれるんじゃないかな」


 それはない。なぜなら俺は先ほど母に向けて放ったのと同じ規模のファイアランスで、悪魔セーレを過去に倒している。


 なんにせよ、この程度では母を驚かせることすらできないと分かった。


「では、こういうのはどうですか? ファイアランス!」


 炎の騎士を五体作り出した。

 自動で動く魔法は珍しいはず。


「そんなこともできるようになっていたのね。だったら、私も」


 母の身体から魔力が溢れ、それが炎へと変わる。炎が五つに別れると、それぞれが何か形を成していった。


なんじが歩む道を焦土と化せ、フレイムナイト!」


 母も炎の騎士を作れるようだ。

 実は書物以外で本物を見るのは初めてだった。


「これが本当のフレイムナイトですか」


 俺の炎の騎士は人馬一体の、所謂ケンタウロスみたいな姿をしている。しかし母が作り出したフレイムナイトは馬と騎士が別々の魔法だった。昔読んだ魔導書によると、本物は馬と騎士が別々で行動することも可能だという。俺はその魔導書を読むより早くオリジナルの炎の騎士を作ってしまったから、ずっと人馬一体型でやってきた。個人的には俺のやつの方がカッコイイと思ってる。


「そっちの子たちはハルトのオリジナル? 面白い形してる」


「フレイムナイトって魔法があると知る前に開発した魔法なので、こうしちゃいました。正規版と俺のオリジナル。どっちが強いか試してみましょう」


 炎の騎士たちに指令を出す。


「お前たちの力を見せてくれ」


 炎の騎士たちが高速で駆け出した。

 燃える槍を構えて突き進む。


「迎え撃ちなさい」


 母の指令を受けたフレイムナイトが俺の炎の騎士たちを迎撃する。フレイムナイトは右手にランス、左手に巨大な盾を装備していた。盾で炎の騎士のランスを受けようとするが──


「あら? それはちょっと予想外」


 初めて母が驚いた表示を見せた。


 炎の騎士が持つランスはフレイムナイトの盾を容易く貫通したのだ。炎が炎を貫通し、フレイムナイトのコアを破壊した。おそらく込められた魔力の量で、より高密度だった炎の騎士の方が攻撃力で勝ったということ。


「その騎士たち、よく見るととんでもない魔力密度ね」


 コアの破壊を免れた二体のフレイムナイトに下がるよう指示を出しながら炎の騎士の分析をしてくる母。その眼には好奇心の光が宿っていた。


「凄い攻撃力。だったら……」


 母の姿が消えた。


「防御力はどうかな?」

「──なっ!?」


 一瞬で炎の騎士の前に現れた母は、その手に持つ剣を騎士に突き立てていた。


「結構な火力だけど、コアの防御にはまだ改善の余地がありそうね」


 悪魔の身体を焼き尽くす火力を物ともせず、母の剣は炎の騎士のコアを破壊した。一体の騎士が散っていく。残った四体が母に襲い掛かるも、僅か数秒で四体ともコアを貫かれてしまった。


 舞のように剣を振るう母の姿が美しくて少し見惚れた。


「ふふふ。ぼーっとして、どうしたの? ハルト」

「……母上の剣技が美しくて、見入っていました」


 分かってやったんだと思う。

 母は俺に自身の力を見せつけたいんだ。


 彼女は俺に魔法と剣技を見せた。

 となると、次は。


「次は私が持つスキルを自慢するね」


 案の定、スキルを見せてくれるらしい。


 魔法や剣技は鍛錬や工夫で何とかなったものの、俺がどうすることもできないのがスキルの修得だ。俺は邪神の呪いにより『技能スキル:なし』の状態でステータスが〘固定〙されている。魔法でスキルっぽいものを再現してはいるが、本物のスキルは使用できない。


 とはいえ何度も見れば、だいたいのスキルは魔法で再現できた。母が見せてくれるというスキルも再現して、俺のモノにしてしまおう。


「コレを再現するのは流石のハルトでも厳しいんじゃないかな」


 普通に俺の思考を読む母。

 もう俺はそれをスルーすることにした。


「私が使うのは『神族召喚』ってスキル」

「し、神族召喚?」


 もしかして竜神様を闘技台の上に召喚して、一対二にしようってこと? 確かにシルフが残りの四大精霊を召喚して四対一で星霊王と戦ったから、ありえなくはない話だ。


「竜神様のような後神と呼ばれる神様は魔力さえあれば、ちょっと条件があるけど大抵は魔法での召喚ができちゃうの。でも魔力だけじゃどうしようもない存在がいる」


「……それは、四大神様たち?」


「そう! 空神様と大地神様、海神様。それから邪神様は、それぞれを召喚するスキルが無いとヒトの都合で人間界に顕現していただくことは不可能なの」


 あ、あれ?

 そうなんですか?


「ちなみに私も四大神を召喚できるスキルはひとつしか持ってない。でもそれで十分。だって四大神は創造神様を除けばこの世界最強の存在。どの神様でも、召喚さえしちゃえば絶対に勝ちが決まるんだもの」


 急に母から黒いオーラが漏れ始めた。先ほどまでは聖属性に寄ったオーラを纏っていた分、雰囲気が一変した。


「私たちが九人で対戦を始めたのは、最初からを召喚して一緒に戦ってもらうつもりだったから」


 晴れていた空が暗雲に覆われる。ざわざわと嫌な感じのオーラがどこからともなく漂ってきた。


「ハルトは異世界からやって来て、私の子として新たな生を受けた。きっとこの世界の『主人公』は貴方なの。……私って親バカ、かな? でも私は私の子が、ハルトが主人公であってほしい」


 母が手を掲げる。

 空に巨大な魔法陣が現れた。


「今から私が呼ぶのは邪悪の根源。彼を倒さなければ、この世界は闇に包まれる」


「は、母上! いったい、何をっ!?」


「彼と私を倒して証明してみせなさい。貴方が、この世界の主人公であると」


 正直、母の行動を止めることもできた。スキルにより自動生成された魔法陣を少し弄ってやれば良い。神の言語で書かれたその魔法陣の意味を理解できるようになった今の俺になら、容易にそれができる。


 でも止めなかった。

 俺がこの世界の主人公だと母に思ってもらうため。


 ちなみにこの俺の思考は母の読心術で読まれないようプロテクトをかけている。


 俺が過去にその神様を倒していることを知らない様子の母は、おそらく彼女の中で最強だと思っているであろうスキルを発動させた。



、召喚!!」

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