最強クラン決定戦 予選(17/22)
「ルークさん! だ、大丈夫ですか!?」
ダイロンの攻撃で壁に打ち付けられ、気を失って地面に伏したルークの元にリエルが駆け寄った。俺は回復能力に特化したリュカとセイラを連れて彼の元まで急ぐ。
「外傷は特になさそうだけど……」
「私たちが診察します!」
セイラがルークに触れて彼の状態を確認する。リュカは彼の周囲に光の膜のようなものを展開して身体の異常を調べ始めた。
「リエルさん、ご安心を。ただ気を失っているだけのようです」
「顔を強く叩かれたので脳が揺れてしまったみたいですが、後遺症が残るほどではなさそうですね」
セイラたちの言葉を聞いてリエルがホッとした表情を見せる。リュカのリザレクションを使うほどではないということで、セイラが聖属性魔法で応急処置を施した。
「医務室まで運ぶの手伝おうか?」
リューシンがやって来た。気を失ったままのルークを医務室まで連れて行ってくれるという。
「リューシンさん、ありがとうございます」
「なるべく頭を揺らさないようにね」
「了解」
セイラも医務室まで付き添うようだ。リュカは今後の試合で怪我人が出たときのため会場に残る。三人を見送っていると、審判のヨハンさんに声をかけられた。
「次の対戦に移行していいか?」
「はい。大丈夫です」
次は俺が出る。
ルーク以外に母上たちと戦いたいって希望者はいなかったから五戦目は俺が行く。現状、一勝三敗か……。たぶん俺との対戦が終われば母上が率いるクランは棄権して俺たちの勝ちになると思うんだけど、出来ればもう一勝くらいはしておきたいところ。
勝ちを譲られたってのは少し面白くない。それに母上に俺の成長を見てもらいたい気持ちもある。
自陣に戻って、次は俺が出ることをみんなに伝えた。
「ハルト様。お気をつけて」
「くれぐれも無理をなさらないでください」
「ハル
キキョウとシトリー、アカリが声をかけてくれる。彼女らは俺の母上がヤバい存在だって気づいているっぽいな。
「周りに被害出さないようにしてにゃ」
「しかし主様の全力を見てみたい気持ちもあるのじゃ」
「えっと、ハルトさんのお母様なのですよね?」
「全力はまずいのでは……」
メルディやヨウコ、ルナ、リファはまだ母上が普通の人族だと思っている様子。俺の親だから、ちょっとは強いと予想しているだろうけど。
それ以外のみんなからも声援を受けながら、俺は闘技台に上がった。
「……やっぱりこうなりますか」
目の前には母上がいる。
「えぇ。貴方と戦いたくって皆に集まってもらったんだもん。でも、ちょっと出番が早いんじゃない?」
「戦いたい人がいなければ、もう終わりでいいかなと思いまして。母上が強い選手を集めすぎるからですよ」
全員が無傷で最強クラン決定戦を勝ち上がれると思っていたわけじゃない。予選とは言え国中から猛者が集まってくるので多少の苦戦はあると予想していた。その予想を大きく超える大苦戦を強いられている。
まだ対戦に出ていない祖龍様は誰が相手しても怪我はするだろう。サリオンも普通に強い。俺の姉のシャルルはメルディくらいの強さかな。兄のレオンには特殊なスキルが無いけど、その剣術はカイン級。つまりリューシンクラスじゃないと戦えない。
「息子が優しい子に育ってくれて嬉しいわ」
「俺の思考を読まないでください」
「ふふふっ。いやよ」
楽し気に笑いながら、母上は空間から細身の白い剣を取り出した。俺もダイロンが返してくれた覇国を手元に召喚する。
「なんかヤバそうなので俺は開始の合図を出したらすぐに逃げる。できれば俺が魔法障壁の外に出るまで戦い始めるのは待ってくれ」
ヨハンさんがそう言ってきた。
初めから闘技台の下にいて、そこで開始の合図を出せばいいんじゃないかとも思うのだが……。真面目そうな人だから、ちゃんと自分の仕事を果たそうとしているんだろう。
そんな彼はこれまでの対戦で、常に闘技台の周りに張られた
でも今回は魔法障壁の外に退避するらしい。冒険者としては、なんとなくヤバい雰囲気を感じる能力って凄く大事。そして俺としてはヨハンさんが結界の外にいてくれた方が助かる。
俺の直感が『全力で良い』と告げているから。
邪神を殴った時以来、封印してきた全力を出す時が来たようだ。
「では、最強クラン決定戦一次予選、第五対戦──開始!!」
開始の合図が出た。
まだ俺も母上も動かない。
ヨハンさんが魔法障壁から外に出たら、俺は初めて全力の親子喧嘩を始めることになる。
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