最強クラン決定戦 予選(16/22)


「究極魔法の上、だと?」


 ダイロンの目が輝く。彼は賢者であるルークが嘘を言うとは考えていなかった。


 賢者級の魔法使いに至った者。この世界で魔法の才覚に恵まれたほんの一部の者だけが使える究極魔法。その上を見せてくれるという。


「俺が使える雷属性の究極魔法アルティマサンダーはハルトに当たりません。あいつの魔衣は速すぎる。俺も魔衣を修得しましたが、それだけじゃ弱いんです。俺はもっと強くなれる方法がないか研究しました」


 賢者になったルークは魔衣も習得し、それで何度かハルトに挑んでいる。しかし彼は一度も勝てなかった。ヒトとしての限界量に近い魔力をフルに使い、加えてルナやリエル、セイラ、ヒナタたちに可能な限り補助魔法をかけてもらってもハルトに勝てなかったのだ。


 邪神の呪いを受けた最強賢者には、魔力量の限界というものが無い。補助魔法によってルークがヒトの限界量を数倍超えた魔力で魔衣を展開しても、ハルトはそれを上回る魔力量で超強力な魔衣を纏ってしまう。


 互いに全力で戦うという条件下では、ルークがハルトに勝てたことはない。


「俺はあのバケモノに勝つため、魔力量に依存しない攻撃能力を得る必要がありました。そして修得したのがこれです」


 ルークの体表を電気が走る。

 それは雷属性の魔衣ではなかった。


「まさか、それは……。か?」

「えぇ。その通りです」

 

 彼の身体が雷になっていたのだ。


「俺はこれを『ナルカミ』と呼ぶことにしました」


「百年も生きておらん身で、その境地に至るか……。我が孫の婿殿は流石だな」


 身体の境界が曖昧なものになり、無数の雷で構成された存在を見ながらダイロンが感嘆の声をあげる。それと同時に彼は一抹の不安を覚えた。


「身体の魔法化ということは、魔力を使い果たせばその身が消えてしまうのではないか?」


「その点はご心配なく。実験を繰り返して、魔力が切れたときには元の身体に戻る術を身に着けています。もちろん、服も含めて」


 ルークは自身が魔法になることを思いついた当初、左手のみの魔法化をしていた。ある時、魔力が枯渇するまで訓練や実験をしてしまったことがある。魔力切れを起こして気を失った彼が意識を取り戻した時、魔法化した左手は無くなっていた。効果が持続する系統の魔法は、供給する魔力がなくなると発動が止まる。効果がなくなるということ。それはルークが行っていた身体の魔法化も同じことだった。


 その失敗を経て、ルークは対策を練った。戦闘が長引いて魔力が枯渇してしまった時でも元の身体に戻れる仕組みを考案したのだ。また身に着けている衣服も同時に魔法化してしまう技術も開発した。身体のみを魔法化した場合、解除した時に全裸になってしまうから。


 ちなみに無くなってしまった左手はリュカに頼んで再生してもらった。リュカやハルトがいるから何とかなる。ルークはそう考えて、かなり無茶な魔法開発をしてきた。


「俺が消えてリエルを悲しませるようなことはしませんよ」


「そうか。ならば俺も気兼ねなく戦える。遠慮なくかかってこい」


 ダイロンが覇国を構える。


「気を付けてください。今の俺は、さっきまでとは別次元の速さで動けます」


 ルークの姿が消えた。


 雷と化した彼が、ヒトではありえない速度でダイロンに襲い掛かる。


「ぬっ!?」


 殴りかかってきたルークの拳をダイロンが覇国で受け止めた。受け止めたというより、ルークが狙って覇国を殴った。それで十分だったのだ。身体が強力な雷となっている彼の拳は、触れるだけで身を焦がすほどのダメージを受ける。


 覇国は魔力を流す性質があるため、ダイロンのダメージは軽減されている。ルークはそれを分かったうえで覇国を狙っていた。


「俺の強さに納得したなら、負けを認めていただけませんか?」


「ふははっ! なんの、これしき。魔界にはもっと強い雷撃を使う魔物がおるわ!!」


 ダイロンが雷と風の魔衣を纏った。使用できるものがほぼいない光属性の魔衣を除けば最速の魔衣だ。光属性の魔衣を纏うより数倍攻撃力が高くなるため、ハルトも好んでこの疾風迅雷の魔衣を使用する。


「……ハルトもそれを使います。そのハルトに勝てるよう、俺は身体の魔法化を編み出したんです」


 同量の魔力量であるなら、疾風迅雷の魔衣より体を魔法化させて雷となった方が速く、そして強いのだ。ダイロンもかなりの魔力量を持つが、ヒトという括りで見ればルークの魔力量と大差ない。


 追い込まれたダイロンが展開した魔衣を見て、ルークはこれが彼の切り札なのだと考えていた。


「敗北宣言はしないってことで良いですね」


 無言のダイロンが覇国の切っ先をルークに向ける。


「では、これで終わりです」


 ダイロンを殺さないよう、でも派手に勝利を演出できるようギリギリの調整をしながらルークが突撃する。雷と化した彼が闘技台を抉り突き進む。



「おいぼれが若人にひとつアドバイスをしよう」


 覇国を捨てたダイロンが胸の前で右の拳を握る。彼の右腕がルークの身体と同じ状態になった。ダイロンも自身の身体の一部を魔法化したのだ。


 高速で向かってくるルークがダイロンの右腕の稼働域に入った瞬間、ルークの横っ面にダイロンの拳が叩き込まれた。


 真横に吹き飛ばされるルーク。

 彼はそのまま観客席下の壁に叩きつけられた。


 この対戦はダイロンの勝利となる。


 壁にめり込み、白目をむいて意識を失っているルークの身体は元に戻っていた。そんな彼にダイロンが言葉をかける。


「例えどれだけ強くなろうと、奥の手は隠し持っておくべきだ」


 ダイロンは魔界での武者修行を経て身体の魔法化を修得していた。とはいえ彼が魔法化できるのは腕だけ。リュカのような四肢の欠損を瞬時に治せるような仲間がおらず、安全マージンを取りながら会得したことなので全身の魔法化にはまだ至れていない。


「今後さらなる成長を期待している。我が孫を頼んだぞ」


 そう言ってこの対戦の勝者は満足気に闘技台を降りて行った。

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