神々の召喚者


 時は遡り、ハルトが邪神を殴った数日後。

 神界にて──


「おや? 海神、お前がこちらにいるのは珍しいな」


 この世界の空と天候を管理する空神が、この場に現れた海神に話しかけた。海神は普段、人間界の深海にある神殿にいるため、こうして神界に来ることはあまりない。


「あぁ。少しお前らに確認したいことがあってな」


「確認したいこと?」


「俺たちの召喚者についてだ」


「召喚者……。あっ、それってもしや」


 空神には思い当たることがあったようだ。


「我ののだが……まさか、お前も?」


「やっぱり空神もそうか」


 海神の反応で、空神は全てを悟った。


 神は本来、ヒトに召喚されるべき存在ではない。しかし極限られた真の才能を持つ者にのみ許されるスキル『神族召喚』を使えば、その生涯において一度のみヒトは神を召喚することが可能となるのだ。


 神族召喚で呼ぶことのできる神は、スキルを得た際に決まってしまう。どんな神であったとしても変更は不可能。しかしスキルを発動さえしてしまえば、敵に同スキルの持ち主がいない限り、いかなる戦場であっても勝敗がつく。


 神は精霊王以上の存在だ。


 後神と呼ばれるヒトが死後に神格化した存在であっても、精霊王単体では敵わない。複数体の精霊王を呼べば勝てる可能性はあるものの、まず複数の精霊王を呼べるヒトなどこの世界の歴史上、数人しか現れていないのだ。


 神を呼ぶスキルというのは、とてつもなく強力なもの。特に四大神を呼ぶスキルを得たともすれば、その者は世界の覇権を握ってもおかしくない存在となる。


 そんな中──


 海を統べる神と、空を管理する神。

 二柱の神を召喚する権利を手に入れた者が現れた。


 ハルトだ。


 ハルト=エルノールは邪神の呪いで得た無限の魔力を利用して、強引に海神と空神を召喚してしまった。その際に彼は神を呼ぶ資格がある者として認識され、海神召喚と空神召喚スキルを得たことになる。


 とはいえハルトはステータスが〘固定〙されているため、新たなスキルを得ることができない。だから彼のステータスは何も変わっていない。変わったのは海神や空神の召喚者となったということ。


 この召喚者が神族召喚スキルを未使用かつ存命の間は、創造神を除く他のいかなる者も召喚者のいる神を呼ぶことができなくなる。


 ちなみにこれから数年後、アンナ=ヴィ=シルバレイが四大神を呼ぶ力を得るのだが、彼女より先にハルトが海神や空神たちの召喚者となっていたために、アンナは邪神召喚以外のスキルを得られなかった。


 当然ながら、この場にいない大地神もハルトが召喚者となっている。


「ていうか神族召喚って、ヒトの生涯で一度きり使えるスキルだよな?」


「そのはずだが」


「俺ら、ハルトに一度呼ばれてるよな?」


「呼ばれたというのが先日の邪神討伐祝賀会のことなら、確かにそうだな。我らは間違いなくハルトに召喚された」


「ならどうして、まだハルトが召喚者なんだよ……」


 神々にステータスボードはない。しかし自らの状態は把握できるのだ。彼らは己の召喚者がハルトのままであることに戸惑いを隠せなかった。



「まぁ、良いではないか。変に野心のある者が召喚者となるより安心だ」


 いきなり創造神が現れた。


「じいさん、聞いてたのか」

「創造主。一応、確認なのですが……」


 空神の問いを創造神が察した。


「儂の召喚者もハルトになっておる」


「な、なんと」

「マジかよ」


「そもそも神族召喚は四大神までを対象範囲としておったのに、なぜか儂も召喚可能になっておるわ」


 そう言いいながら創造神は静かに笑っていた。


「おかしいのぉ。ここは儂が創った世界で、ルールを創ったのも儂なのだが」


「……そう言いつつも、あまり不快ではないようですな」


「ハルトなら良いって思ってんのか?」


「勝手にルールを改変されるのは困ったものだが、やりすぎなければこういうイレギュラーも楽しいではないか」


 人工知能を開発している技術者が、そのAIの成長を喜ぶ感覚と似ているのかもしれない。創造神は今回のことを世界の成長の一部として考えていた。


「それにほれ。ハルトの屋敷で食べたティナの料理も美味かった。ヒトの食事レベルが上がっておることも分かった。何より今後は人間界へ顕現するのに神性エネルギーを消費せずとも良いのだぞ? こんなにラッキーなことはない」


「その件だけど、ハルトの魔力ってどこから来てんだ? 邪神の呪いつっても、俺たちをまとめて召喚できる魔力量は異常だろ」


「儂も最近になって気付いたのだが、邪神を通して世界中から負の感情を集め、魔力に変換しておるらしい。そしてこの世界だけではなく、儂とは別の創造神が管理する世界からも負のエネルギーを収集しておる」


「は?」

「えっ、あの、こことは別の世界?」


「世界を創る神は無数におるということ。ちなみにそれらの中でも儂はそれなりに力のある神だ」


 世界が無数にあることは、四大神すら知らなかった事実だった。


「ハルトが異常な威力の魔法を使ったり、儂らを召喚することで結果として近隣の世界から負のエネルギーを大量に消費しておる。その世界の創造神たちから儂は感謝されていたりもする。ハルトは今や、他の世界の神々も知る存在となった」


「別の世界の神に認知……」

「なんか、ハルトってヤベーな」


「だから良いか? くれぐれも彼と揉め事を起こさぬようにするのだぞ。何か望みがあるとハルトが言ってきたら、可能な限り叶えてやりなさい」


「そ、創造主の仰せのままに」

「りょーかい!」

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