最強クラン決定戦 予選(6/22)
「シルフ、大丈夫なの?」
「うん! 僕に任せて」
ハルトがシルフに確認を取るが、彼女は自信ありげだった。
シルフは風の精霊王で、風属性の精霊の中では最強の存在。しかし星霊王はこの世界に存在する全ての精霊の王だ。普通に戦えば風の精霊王より星霊王の方が強い。
「僕はハルトと一緒に過ごしているから、かなり強くなれた。それにね、秘策があるんだ」
「秘策?」
不思議そうにするハルトに笑いかけると、シルフは闘技台の上へふわふわと飛んで行った。
「初戦は飛行魔法を使うお嬢ちゃんか」
審判を務めるヨハンは、ハルトたちがEランク昇級試験を受けた時にシルフを見ている。もちろん彼女が使う風魔法の威力を知っているが、ハルトやシトリー、アカリといったバケモノの中では、そこまで彼女の攻撃力が強いというイメージを持っていない。
ふわふわと自然に長時間飛んでいられる飛行魔法の使い手は少ないので、そっちの方が印象に残ったようだ。
シルフに相対するは、屈強な大男。
手に輝く槍を持った星霊王だ。
ふたりが闘技台に上がった時点で、周囲の観客たちは対戦を中止すべきだとすら考えた。しかし審判のヨハンが止めることはない。彼はシルフが見た目に反する強大な力を有していることを重々承知していた。
ちなみに最強クラン決定戦の本戦であれば数万人規模の観客が観戦することになるが、予選を見に来ているのは数百人程度だった。
その数百人の観客は幸運だ。
おそらく今後は一生見ることのできない究極の戦闘を、安全な場所から見ることができるのだから。ヨハンからの依頼を受け、ハルトが闘技台の周りを囲むように魔法障壁を展開していた。仲間が上空に飛び上がることも考え、上方向はオープンになっている。
ハルトだけに観客の守りを任せるのは悪いと考えたアンナが魔法障壁を可能な限り強化した。最強賢者とチートスキルガン積み転移者のタッグにより、この場には絶対防御の魔法障壁が展開されている。ただしその透明度が高すぎるため、土煙でも絶たない限り観客たちはそこに壁があることすら気付けない。
「それでは、最強クラン決定戦一回戦、第一対戦を始める!」
ヨハンの掛け声で対戦が始まった。
星霊王が輝く槍を構える。
一方シルフは魔法陣を展開した。
「むっ、それは」
「ハルトの魔力を吸って強くなれたって言っても、さすがに僕ひとりで星霊王様に勝てるなんて思ってないよ」
シルフの魔法陣が強く輝きだした。
これは召喚魔法陣。
ハルトに召喚されて人間界に顕現しているシルフが、更に別の存在を召喚する。
現れたのは──
「まさかまた、星霊王様と対峙することになるとは……」
灼熱の猛炎を纏った火の精霊王イフリート。
「儂は初めての経験だ。ほっほっほっ。腕が鳴るな」
岩石でできた巨大なゴーレムの肩に乗る土の精霊王ノーム。
「シルフ。約束のこと忘れないでよね?」
「わかってるって。ちゃんとハルトに話すよ」
シルフと何か密約を交わした様子の水の精霊王ウンディーネ。
この場に四大精霊王が集結した。
さすがの星霊王も唖然とする。
「ちょ、ちょっと待てお前ら! それはズルくないか!?」
昔の精霊王たちであれば、四対一で戦っても星霊王が勝つことができた。しかしシルフをはじめ四体すべての精霊王がハルトと契約を結んだ結果、彼女らの力は大幅に強化されている。
星霊王もハルトと契約を結び、彼から魔力を受け取っている。しかし星霊王は滅多に呼び出されることがないので、常に一緒にいるシルフの力の伸び幅の方が圧倒的に大きい。
「そもそもなぜシルフが召喚したのに、イフリートたちは
召喚者は精霊を召喚する際に魔力を多めに渡すことで精霊を強化することができる。この場合、イフリートを召喚したのはシルフなので、本来はシルフの魔力量でしか強化ができないはずだった。
「あっ! それって、俺がずっとシルフを召喚してるからかも……」
犯人はハルトだった。
一時的に召喚するだけでも膨大な魔力が必要になる精霊王という存在を、魔力無限のチート賢者は人間界に常時顕現させ続けていたのだ。
召喚された精霊が更に別の精霊を呼び出すということはありえない。そもそも普通の精霊は召喚魔法を使えない。ハルトの下で力を蓄え、精霊としての格を上げたシルフだからできるようになったこと。ただし召喚時にシルフの魔力ではなく、彼女を召喚しているハルトの魔力が消費されたのはシルフが意図してやったことではなかった。
「なんか僕も良くわかんないけど……。今日は星霊王様にも勝てる気がする!!」
最強賢者の魔力によって強化された四大精霊王 VS
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