最強クラン決定戦 予選(7/22)


「まずは僕から! 星霊王様、いっくよー!!」


 巨大な風の槍を出現させたシルフが、それを星霊王に向けて投げつける。


「ちょっ!?」


 身を捻って躱した星霊王。かつて見たことのない速度の魔法に冷や汗をかいた。


「な、なんだあの速度は? それに──」


 避けたシルフの魔法を見ると、それは闘技台の周囲に展開されたハルトの魔法障壁によって止められていた。何かに当たったのに消滅しない攻撃魔法と言うのは考えられない。


 ということは彼女が放ったのは、目標を貫くための魔法でないということ。


「まさか、強化のための?」

「まだまだいっくよぉ!!」


 シルフの手から五本の風の槍が同時に放たれた。


 しかしそれらは直接星霊王に向かわない。一度上空へ飛翔した後、五方向に分かれて降ってくる。闘技台に当たる直前で水平に向きを変え、星霊王に向かっていく。


 この時点でシルフの意図を読んでいた星霊王は全ての魔法を避けることが得策ではないと考える。


「ぜやぁぁっ!」


 高速で飛来する風の槍のうちの一本を星霊王は手刀で叩き落す。残りの四本は身体を掠めながらもなんとか避けることに成功した。


「あらら。ひとつ壊されちゃった」


「五本もあれば十分だろう。次は我の番だな」


 イフリートが前に出てくる。


「それじゃ、打ち合わせ通りに」


 シルフが指を鳴らすと、魔法障壁に当たって止まっていた風の槍五本から強風が巻き起こりだした。発生した風が火の精霊王イフリートにまとわりついていく。


「六本展開することで完成する魔法陣ではなく、一本一本が強化用魔法だったのか」


 星霊王はシルフの魔法がイフリートを強化するものだと気づいていた。誤算だったのは、一本破壊したところでイフリートの強化を阻止できなかったこと。


「以前は情けなく逃げ出した我ですが、今は違いますぞ!」


 シルフの風を纏って強化されたイフリートが、巨大な炎の拳を出現させて星霊王に殴りかかる。


「あっ。それはちょっとマズイ!」


 余裕などない。

 全力で星霊王が迎撃する。


 彼が振った拳は周囲の空気を巻き込み、暴風となってイフリートの炎の拳を吹き飛ばした。強風で強化された炎を更に強い風でかき消したのだ。


「なっ、なに!?」

「あれを、拳だけで」


 イフリートとシルフが目を丸くする。


 これで決着がつくとは思っていなかったが、さすがに手傷くらいは負わせられると考えていた。しかし、ハルトの魔法で強化された精霊王ふたりによる合成魔法は、精霊族最強の存在によって拳圧のみで打ち消された。


「さすが星霊王様ね」

「四対一でも油断はできんな」


 後ろに控えていたウンディーネとノームも前に出てくる。


「それじゃ、やっぱり四人でいこうか」

「ふむ。でなければ勝てぬだろう」


「イフリート。久しぶりにアレをやらない?」


「アレか。我は構わんが、ウンディーネから言い出すのは珍しいな」

 

「私ね、どうしてもこの戦いでハルトに良い所を見せておきたいのよ」


 精霊体のウンディーネの周囲に無数の水球が浮かび上がる。


「私が合わせてあげる。基礎攻撃力が一番高いのは貴方だからね」


「おう! それじゃあ、いっちょ頼むぞ」


 再度シルフの風を纏って、イフリートの身体が膨れ上がる。


「……融合魔法ユニゾンレイか。しかしそれにはタメが必要」


 水と火の精霊王による強力な融合魔法を止めさせるため、手元に光輝く槍を出現させた星霊王が投擲体制に入る。


「そんな大技を、我が撃たせてやると思──っ!?」


 光の槍を投げようとした時、星霊王の身体に数千本の木の根が絡みついた。


「ノーム! 貴様!!」


「ふぉっふぉっふぉっ。時間稼ぎが儂らの仕事」

「星霊王様。もうちょっと待ってね」


 ノームが出現させた木の根にシルフが耐性強化の魔法を付与する。拘束を解かれないことだけに注力した土と風の精霊王の協力技。融合魔法までとはいかないものの、その拘束力は悪魔を容易く絞め殺す。


「くっ、くそ!」


「待たせたな。そっちはいけるか?」

「いつでも大丈夫」

 

 限界まで力を高めたイフリートの魔力にウンディーネが同調する。


 以前マイとメイが聖都サンクタムで放った融合魔法ユニゾンレイは、魔人を含む約千体の魔物を一瞬で消滅させた。


 その何十倍もの破壊力を有するであろう魔法が星霊王に向かって放たれた。


 龍の形状になったその魔法に当たれば、さすがの星霊王であっても無事にはすまない。それを確実に当てるため、ノームとシルフが全力で星霊王を拘束し続ける。


「や、ヤバい」


 さすがの星霊王も敗北を覚悟した。

 その時──



「「お父様! 頑張って!!」」


 本来はシルフたちの応援をすべきマイとメイが、圧倒的に不利な父の姿を見て同情してしまった。『頑張れ』と声をかけてしまった。


 彼女らの声が、星霊王の耳に入ってしまった。


「ふんっ!!」


 ノームとシルフによる拘束を、星霊王は腕力のみで引きちぎった。


「……へ?」

「うっ、嘘でしょ!?」


 星霊王は自身に高速で向かってくる融合魔法に向かって構える。右の拳を硬く硬く握りしめ、下から上に力の限り振るう。


 水と火で構成された龍が闘技場の上空に殴り飛ばされた。


「おいマジか」

「あ、ありえないわ」


 遥か上空でウンディーネの水はイフリートの炎によって熱せられ、強力な水蒸気爆発を起こす。この時発生した衝撃波は、グレンデールから遠く離れたエルフの王国アルヘイムでも観測できたほどだった。


 空に暗雲が広がり、大粒の雨が降り注いだ。

 その中を星霊王が悠々と歩を進めていく。



「小童ども、お仕置きの時間だ」


 娘に応援されたことで己の限界を突破した星霊王は、その勢いのまま四大精霊王たちを叩きのめした。

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