最強クラン決定戦 予選(3/22)


「孫の婿とはいえ、戦闘では手を抜かんからな?」


「えぇ、それで大丈夫です。ダイロンは昔と比べてかなり強くなっていますよね。戦うのが楽しみです」


「おっ、わかってくれるか。そうだ。俺は国を息子に任せてから、エルフとしての強さの限界を超えるために長い時間修行してきた。すべてはエルノール、お前の異常な炎魔法を見たからだ」


 悪魔に乗っ取られていた世界樹を救うため、俺は世界樹の周りにあった森を燃やした。その時俺が使った魔法を見て、ダイロンはエルフという種族の限界を超えられると確信したという。


「ところでダイロンは、どこで俺の母と知り合ったのですか?」


 母は少し離れた所で、俺とダイロンの会話をニコニコしながら眺めていた。


「母だと? も、もしかして、アンナがハルトの母なのか!?」


「そうです。今は俺、結婚してハルト=エルノールって名前になっています。結婚する前はハルト=ヴィ=シルバレイでした。あそこにいるのは、俺の母親です」


「なん…だと……。い、いや。本当にハルトがアンナの子であるなら、あの頃のエルノールが異常な強さを持っていたのもなんとなくわかる気がする。転生していても不思議ではないな」


 アンナの子だとするなら分かるって……。

 母さん。貴女はいったい何者なんですか?


 ダイロンに詳しく話を聞こうとしていると、俺たちのそばに転移門が開いた。悪魔や魔人が使うようなものではなく、それは神族が使うものだった。


 転移門を通って、赤髪の大男が現れる。


「アンナ。すまん、遅くなった」

「いえ。間に合っていますから問題ありませんよ」


 見たことのある神様だった。


 かつて守護の勇者だった時の俺とティナが戦った赤竜。その赤竜が人化した姿だ。ちなみに今は神格化して、この世界の神の一柱になっている。


「竜神様?」


「ん? なんだ、ハルトか──って、えっ!? な、なんでハルトがおるのだ!?」


「今回、私たちと戦う敵だからです」


 どうやったかは知らないが、俺の母は竜神様を仲間に引き入れていたみたいだ。神様を仲間にしちゃうとか、ありなんですか?


「申し訳ないが、俺は帰らせてもらう」


 転移門を開き、竜神様が神界に帰ろうとする。


「それはダメ」

「──なっ!?」


 竜神様の転移門が粉々に砕け散った。何が起きたか分からない様子で、竜神様が唖然としている。


 母が腰の剣を抜き、超高速で転移門を切り刻むのを俺は見ていた。恐ろしく早い攻撃。たぶん俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「こっちのハルにぃのお母さんって、なんか凄いね」


「神ですら何が起こったのかもわからない攻撃速度。あれは危険です。とはいえさすがは旦那様のお母様、と言ったところでしょうか」


 俺じゃなきゃ見えないってわけでもなかったようだ。少なくともアカリとシトリーは、何が起こったのかをはっきりと認識していた。


「逃げてはダメですよ。私への借りを、今日しっかり返してください」


「だ、だがアイツは本物のバケモノなんだ! 神の腕をも容易く斬り落とすような奴だぞ!! そんなバケモノと、俺は絶対に戦いたくないっ!!」


「大丈夫です。ハルトとは私が戦いますから」


「な、なに? それは、本当か?」


「えぇ。全力でハルトと戦える最初で最後の機会になるでしょう。だから誰にも譲るつもりはありません。貴方にはハルト以外の相手をお願いします」


 この言葉を聞き、竜神の顔に安堵の色が浮かんだ。


「良かろう。ハルトでなければ問題ない! この俺が、アンナに一勝をくれてやる」


「まぁ。それは頼もしい」


 母と竜神様がそんな会話をしている時、俺の背後に誰かが近づいてきた。


「ハルト様。あの阿呆の相手は、わらわがします」


「うん。相性的にもそれが良いかもね」


 どんな対戦相手が来るか分からなかったから、存在を薄くする魔法が使えるには姿を隠してもらっていた。敵の情報収集をしてもらったり、不意打ちなどを仕掛けられないように警戒させていたんだ。



「それじゃ、竜神様の相手はキキョウってことで」

「お任せください」


 竜神様はキキョウに苦手意識があるようなので、こちらが有利になると思う。それに今のキキョウは神獣になっているから、神様ともいい勝負ができるんじゃないだろうか。

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