クランとしての活動開始


 俺たちファミリアは、最強クラン決定戦に出場することになった。


「大会の規定とかもそこに書いてあるから、よく読んでおくように」


 イリーナさんにそう言われ、彼女から手渡された参加申込書に目を通す。


「まず国ごとで予選があるんだ。予選の開催日時は……来月か」


 最強クラン決定戦は各国での第一次予選が8月に行われる。それぞれの国で上位3位までに入ると、最強クラン決定戦の開催国で第二次予選に進むことができるらしい。ちなみに今年の最強クラン決定戦開催国はここ、グレンデールだ。


 この世界には大小合わせておよそ100の国がある。その国々から第一次予選を突破した約300のクランがグレンデールに集まり、上位10になるまで競うのが第二次予選。上位10のクランの中から真の最強クランが決する本戦には、世界中から王族や有力貴族たちが集まってくる。


 第二次予選を突破して本戦に進むことができれば、それだけでも十分に実力を示すことが可能。その後十数年の間、クランに持ち込まれる依頼が枯渇する心配はなくなるのだとか。


「本戦は9月ですか。卒業試験などと被らなくて良かったですね」


「うん。予選の8月も学園のイベントはほとんどないし」


 俺たちが通うイフルス魔法学園は10月に卒業試験と卒業式がある。今年七年生の俺たちは卒業予定なのだが……成績が悪いと退学もありうる学校なので、卒業するのもなかなかに大変だ。例年一割くらいは卒業できない生徒がいる。


「でもウチ、卒業試験の勉強する時間が足りなくならないか、ちょっと不安にゃ」


「大丈夫ですよ、メルディさん。私がついてますから。一緒に勉強しましょう!」


「ルナぁ、ありがとにゃぁ」


「お、俺もお願いしていいかな」


 リューシンとメルディが学科試験に不安があるようだ。しかし一年の時からずっと期末試験でトップの成績を取り続けているルナがサポートするというのであれば、何とかなりそうな気がする。


 ちなみに彼らは不安がっているが、俺としてはそこまで気にすることはないと考えている。俺たちのクラスのみんなが異常に成績が良くて、相対的にリューシンとメルディの成績が悪く見えてしまうだけなんだ。


 昨年の期末試験だと学園全体の順位は1位がルナで2位が俺、3位はルーク、4位と5位が同点でマイとメイだった。リファは7位、リュカがリファの2点差で8位、ヨウコが10位。そんな中、メルディが30位で、リューシンは53位だったらしい。


 一学年およそ300人いて、学園全体で2千人以上の生徒がいる。その中で30位とか53位なので、全然問題ないと思うんだ。

 

 だけど勉強を頑張ろうとしている彼らに、そんなことをわざわざ言う必要もないか。



「それでは私はこれで。ハルトよ、学業と併せて大変だろうが、クランの運営も頑張ってくれ。冒険者ギルドの目の前にできた新たなクランには、きっと注目も依頼も集まるだろうからな」


「はい! 頑張ります!!」


「イリーナ、色々とありがとう。これから、よろしくね」


「は、はいっ! こちらこそよろしくお願いいたします」


 ティナに何度も手を振りながら、イリーナさんは冒険者ギルドに帰っていった。



 ──***──


 俺たちのクランファミリアのクランハウスが完成して一週間が経過した。


 H&T商会から購入した家具なども一通り揃い、クランハウスでの活動が可能になっている。とは言っても、クランメンバーの全員が冒険者ギルドからの依頼クエストを本格的に受注しているわけではない。俺たちの多くはまだ学生で、本業は学ぶことだから。


 イフルス魔法学園の生徒ではないリリアとサリー、ケイト、アリアが主体となってクエストを受けてくれているのが現状だ。四人の監督役として精霊王シルフと、神獣のシロがに同行するようになっている。リリアとサリーのペアにシロが、ケイトとアリアのペアにシルフがついて行く。


 これまで俺たちが学園で授業を受けている時はずっと屋敷で寝ていたシロは、クエストに毎日駆り出されるようになったことで初めのうちはめんどくさそうにしていた。しかしエルノール家ではあまり頼られるということが少なかったシロにとって、彼を頼りにしてくれるリリアたちと一緒にいることは何か満たされるものがあったのだろう。最近では率先してリリアとサリーを誘い、クエストに出ていこうとする。


 ちなみにベスティエ獣人の王国の住民だったリリアたちは、クランハウスが完成したその日のうちに俺の屋敷に引っ越してきていた。ふたりともベスティエの軍属だったが、俺がオーナーをしている国なので急な引き抜きに対する問題は発生しなかった。


 シルフとケイト、アリアのグループも問題なさそうだ。先日もマホノームBランクの魔物30体の討伐依頼を余裕でこなして、全員無傷で帰ってきた。


 リリアやケイトたちのグループがクエストに出ている間、クランに持ち込まれる依頼はスライムガールズたちが処理してくれる。普段は半透明幼女の姿をしている彼女らだが、魔力を多めに消費することで大人なお姉さんに人化できた。しかしずっと大人の姿に人化するのは疲れるらしく、5人で交代しながら受付嬢をしてくれている。


 スライムガールズたちには、よほど怪しげな依頼でなければ全てのクエストを受注しちゃって良いと伝えてある。彼女らが受注したクエストをリリアやケイトたちにこなしてもらいつつ、俺たちが授業の終わった後や休みの日に消費しきれなかったクエストを分担するという流れができた。


 始動したばかりのクランとしては、それなりにうまく活動できてると思う。グレンデールの王族からも一昨日『ティナの手料理が食べたい』と言うクエストがきた。破格の報酬で、思わず笑みがこぼれた。



 ある日の夕方、学園での授業が終わってクランハウスに顔を出した。


 遅い時間にも関わらず依頼受付カウンターには列ができており、高難易度高報酬の依頼相談を受ける応接室も4部屋すべてが使用中。


「……順調だな」


 駆け出しのクランとしてはありえない盛況っぷりだ。普通の出来立てクランには実績などなく、基本は冒険者ギルドに依頼を取りに行かなくてはならない。


「これまでハルト様がいろんな国で人助けをしながら、多くの方と協力関係を結んできたことが実を結んだのですよ。これは、なるべくしてなった成功です」


 俺の後ろにティナがいた。


「ティナ、授業の片付けとか終わったんだ。早かったね」


「たくさん依頼が持ち込まれていると嬉しい悲鳴が聞こえてきましたので頑張りました」


 受付嬢をしているスライム娘が無意識に発したSOSを、ティナが受け取ったようだ。


「それじゃ今日もどんどんクエストこなそう」


「はい。私はひとつかふたつ達成したら、お屋敷に戻って夕飯を作ります」


「わかった。なら俺は……目標10クエスト達成かな」


「帰りが遅くなる依頼はあまり受けないでください。今日の晩御飯はカレーですよ」


「マジ? 全力で終わらせてくる!」


 早く帰る理由ができた。

 分身体を作って、サクッと終わらせよう。

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