最強クラン決定戦への出場申込み
「まさかわずか十日でクランハウスが完成するとは……」
「あっ、イリーナさん!」
ここグレンデールの冒険者ギルドで最高責任者をしているイリーナさんがやって来た。
俺たちのクランハウスは大通りを挟んで冒険者ギルドの真正面にあるので、建物が凄い速さでつくられていく過程を唖然としながら眺めている冒険者たちも多くいた。イリーナさんも、その様子を見ていたみたいだ。
「あら、イリーナ。お久しぶりです」
「お久しぶりです、ティナ様」
ティナに対してイリーナが深く頭を下げた。
彼女は昔、ティナに命を救われたことがあるらしい。
「此度はクランの設立、およびクランハウスの完成、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「そ、それから……その、ご懐妊なさったとお聞きしました」
「ふふっ。はい、その通りです」
俺の方をチラッと見たティナが、自分のお腹を軽く押さえながらイリーナの質問に答える。
「誠におめでとうございます!!」
「ありがとうございます。少し会わない間に、イリーナも冒険者ギルドのマスターになったんですよね? おめでとうございます。よく頑張りましたね」
ティナが褒めながら、優しくイリーナの頭を撫でる。
エルフ族の血が流れる者にとって、ティナは憧れの存在だという。そんな彼女に頭を撫でて貰えて、イリーナは頬を赤くしながら凄く嬉しそうにしていた。
ちなみにティナが言っていた『少し会わない間』と言うのは、三十年くらいのことらしい。改めてエルフ族の時間感覚に驚かされる。
「イリーナさんは、クランハウス完成のお祝いを言いにわざわざ来てくれたんですか?」
今日クランハウスが完成したばかりで、その内部には机など何もない。せっかく王都にある冒険者ギルドのトップが来てくれたというのに、もてなすことはできないんだ。
もし彼女の用事がお祝いを言いに来てくれただけなら、ついでだから彼女も誘ってクランハウス完成祝賀会でもやろうかと考え始めていた。
「クランハウスが完成したことを祝うのは二番目の目的だ。ティナ様もいらっしゃったので、ご懐妊のお祝いも言わせていただいたが、本当の目的は
イリーナが俺に封筒を手渡してくれた。
この場で開けても良いというので早速開けてみる。
「最強クラン決定戦の参加申込み──って、こ、これ!」
「君はクランの設立を冒険者になった当初から考えていたと聞いた。だから当然、これも知っているだろう?」
「は、はい!」
この世界における最強って何か。
たぶんそれは、神様だろう。
この世界を創ったのは神様なのだから。
しかし神様は人間界では全力を出せない。
てなると、神様の代理で力を行使する精霊王たちが最強に近い。その精霊王クラスの力がないと倒せない悪魔も強い。
ではその悪魔を倒せるエルノール家のみんなは、最強って言えるんじゃないだろうか。
実質、最強だって言っても良いと思う。
でもそれって、『自称』最強なんだよね。
世界中のヒトに認められなきゃ、本当の最強って言えないと思うんだ。
すべてのヒトが口を揃えて『この世界最強と言えば〇〇』って言ってくれるような存在って、なんか憧れるよね。
目立ちたいっていうのとはちょっと違う。
あと俺が個人で最強って言われたいわけじゃない。
俺はみんなと一緒に、世界中のヒトから最強だって思ってもらいたい。
俺の家族は、クラン『ファミリア』は世界最強だと言われたい。
自分自身ではエルノールやファミリアが最高だって思ってる。
それを、世界に認めてほしいという野望があった。
世界中が最強の存在を知るイベント。
それが五年に一度開催される『最強クラン決定戦』だ。
ちなみにこの『クラン』っていうのは十人以上の集団のことを言う。
だから腕に自信があれば、冒険者じゃなくても登録できるらしい。
しかし命の危機もあるイベントなので登録するには年齢制限があって、冒険者クランに属さない者に関しては二十歳以上でないとダメなんだ。そーゆーわけで俺は冒険者になることを選んだ。
世界中の強者が集まって戦う。戦闘力を競うだけじゃなく、技術や知識で戦うような競技もあるらしい。いくつかのジャンルがあって、それぞれの競技で優勝したクランが次の最強クラン決定戦まで、そのジャンルでの最強を名乗ることが許される。
そんな超ビックイベントなんだ。
このイベントの開催期間中は全世界で停戦協定が結ばれる。戦争中の国が選手を送り込んで、代理戦争のようなことをしたりもするらしい。ていううか全部そうすれば、平和になるんじゃないかな……。
まぁ、それは別にいいや。
とにかく俺は、俺の最高の家族を世界中に自慢したくて最強クラン決定戦に出たかった。そのために冒険者になって、クランをつくったんだ。
その
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