クランハウス
ハルトたちがクランハウスの設計を行った十日後。
「おい、マジかよ」
「えっ、こ、これ……えっ!?」
ルークとリューシンが、とある建物を見て言葉を無くしていた。
「ふむ。
「すっごいの!!」
「「思ってたよりおっきいです!」」
「さすがハルトだにゃ」
「俺だけの力じゃない。ティナのおかげでもあるんだよ」
ハルトたちが揃って見上げる五階建ての建物。
それは、彼らのクランハウスだった。
わずか十日という短期間で、ハルトたちが設計した巨大なクランハウスの建設が完了していたのだ。
「H&T商会お抱えの大工さんたちに臨時ボーナスを支給して、ちょっと
大工が一年で稼ぐ給金の三倍ほどを前金で支払ったティナ。百人近く集められた大工たちは目の前に積み上げられた札束を見て、やる気に満ちた雄叫びをあげた。さらに彼女は、一ヶ月以内に建設が終われば追加で報酬を出すと約束した。
それに加えて、大工たちのやる気を駆り立てたモノがあった。
「ねぇ、エルミア。この柱を触ってみて」
「セイラ、どうしたんだ? って、なんだコレは!?」
「ひんやりしてて気持ち良いでしょ?」
「ちょっと特殊な木を使っているんです」
ハルトとティナが自慢げに笑っている。
「あ、あの。このクランハウスの建材って、もしかして──」
クランハウスの柱に触れたリファが気付いた。この建物を構成している建材が、ある特殊な木だということに。
それはこの世界にいるほとんどの大工たちが、一生に一度でいいからこの木を使った建築に携わりたいと思い焦がれるほどの木。
その木は『
この世界では二階建て以上の建物をつくる時、鋼樹という硬い木を用いる。グレンデール王都の冒険者ギルドや、H&T商会の本店なども骨組みに鋼樹を使っている。ただし鋼樹は、一般市民の家の建築に使うほど安価なものではない。
その鋼樹の千本に一本ほどの割合で生えるのが、煌鋼樹だ。
つまり超レアな建材である。
それがこのクランハウスにはふんだんに使われていた。
ちなみに現在、この世界で自然に生えている煌鋼樹を全て集めたとしても、これほど巨大な建物を作ることなど出来ない。
しかし、出来ないはずのことを可能にする賢者がいた。
「あー。それで先週、ノームが顕現してたんだ」
「なんだシルフ。気づいてたのか」
樹木を自由に生み出し、好きなように成長させることのできる精霊がいる。大地の精霊王ノームだ。魔力さえあれば、超レアな煌鋼樹ですら好きなだけ生やすことのできる精霊王と、ハルトは契約を結んでいた。
「ノームに大量の煌鋼樹を生やしてもらって、このクランハウスの建材にしたんだ」
この樹を使って建設ができると分かった大工たちは、取り合うようにして作業を進めていった。初日から徹夜で作業しようとした大工もいたほどだ。
こうして大工たちの士気は極限まで高められていた。
ちなみに徹夜で作業しようとした大工は、ティナが用意した優秀な工事監督者によって止められている。
それからクランハウスの建設がここまで早かったのは、ハルトとティナが直接手伝っていたからだ。
普通なら滑車を使って数人がかりで立てる柱を、魔衣を纏ったハルトはひとりで地面につき立てていった。地盤はティナの土魔法で強固に硬化され、彼女が付与した飛行魔法で大工たちは空を舞って作業を進めた。
作業者が空を飛ぶので、足場を組む必要がなかった。
そのほか時間がかかる作業のほとんどを、ハルトは魔力で強引に時短しまくった。
こうして、たった十日で五階建てのクランハウスが完成するという偉業が成し遂げられたわけだ。
「でもハル
「煌鋼樹って、その周囲をヒトが快適に感じる温度に保ってくれるんだ」
ハルトは温度調整機能があるという理由だけで煌鋼樹を建材に選んだ。しかし煌鋼樹の効果はそれだけではない。この樹を使った建物に住むヒトは何かに護られることがあると、一流の腕を持つ大工たちの間で噂されている。
その噂は事実だった。
煌鋼樹にはノームの力が宿るため、精霊王によって護られることになるのだ。これに多くの力を割いているため、ノームは今までヒトと契約を結ぶことはなかった。
ハルトがノームと契約を結べたのは、それが
彼は過去にノームを強制召喚して、契約を結んで欲しいと言った。強制召喚された精霊は、その召喚士の言葉に逆らうことが出来なくなる。
ハルトと契約したことで、ノームは煌鋼樹が使用された建物への加護が出来なくなるはずだった。しかし無限の魔力を持ったこの賢者は、精霊を召喚した後は必ずお土産感覚で大量の魔力を渡してしまう。
最上位の精霊であるはずの精霊王を、もう一段階進化させてしまうほどの魔力を。
これによりノームはハルトと契約しつつ、煌鋼樹を使った建物への加護を維持出来ている。もちろんそれは、このクランハウスにも適用される。
上位精霊クラスの魔法でもなければ傷つけられない。
そんな強度を持った建物になっている。
ただそれは、
「俺は煌鋼樹って見たことないけど、こんな真っ黒なの?」
リューシンが疑問を持った。
そしてそれは、煌鋼樹の姿を知っている者たちも。
「リューシン、違うよ。僕は煌鋼樹の本当の姿を知ってるけど、こんなに黒くはない」
「私が知ってる煌鋼樹もこんな色じゃないの。ハルト、これ本当に煌鋼樹なの?」
シルフや白亜は、煌鋼樹が燃えるような紅色であることを知っていた。
「だ、旦那様。もしやこれは──」
元魔王のシトリーは、とある賢者の分身が
ただの木の枝を、オリハルコンの剣を折れるほどの強度にしてしまう技術。
「うん。柱にしてある煌鋼樹や壁は全部、
彼らのクランハウスを支える柱や、壁、床、天井に至るまで全てがオリハルコン以上の強度になっていた。
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