クランハウス設計(3/3)


「主様、そのクランハウス一番上の中央付近にあるモノは何なのじゃ?」


 空中に3Dで表現されたクランハウスのイメージをハルトが弄って新たに出現させたモノにヨウコが興味を抱いた。


 クランのリーダーであるハルトの執務室はクランハウスの三階にある。そこを中心として、三階にはレア素材の保管庫やメンバーの待機室があった。一階には依頼受付用のカウンターや商談用の応接室、それから訓練などを行うための闘技場が作られる予定だ。二階がエルノール家以外のクランメンバーの住居となる。


 残った五階は一部が縦方向の円筒形にくり抜かれ、そのエリアより少し小さいサイズで半球状の何かが配置されていた。


「あー。これ? これはね」


 急にハルトがニヤニヤしはじめた。


「普段はただの半球だけど、戦時にはなるの」


 半球から建物の外側に向かって上下に二対、細長い四枚の板が現れる。

 それはまるで──


「なんだコレ? まるで砲台みたいだな」


 この世界に銃はまだない。火薬は発明されていて大砲はあるが、それをヒトが手で持って扱える銃のサイズにまで小型化はできていない状態だった。


 ルークが言うように、ハルトがイメージをつくったそれは砲台のような形をしていた。だだしこちらの世界で一般的な円筒形の大砲ではなく、レールガンのような形状。


「ルーク、正解だよ」


「……は?」

「これが、砲台?」


 ルークとヨウコが疑問を抱く。


「ハルトさん、本気なんですか?」


「クランの最上階を武装するってことかにゃ?」


 リファやメルディたちもハルトから何も聞かされたいなかった。一方でハルトから相談され、コレを実現させるために彼の実験に協力した者たちがいた。


「ま、まさかこれで、魔力を固めた魔弾を打てるようにする……とかです?」


「やだなぁ、ルナさん。いくらわたしたちの旦那様とはいえ、この武器なんて実現できるわけないじゃないですか」


 ハルトが新たな魔法や、こちらの世界にない技術を開発する時、膨大な知識を有するルナは最も優秀な助手として彼を支えている。元魔王であるシトリーもルナに劣らず知識が豊富で、更に魔力の扱いにも秀でているためコレの実現に協力している。だから、ハルトが話してもいないことを漏らしてしまう。


「全世界を射程範囲とすることができたとしても、ターゲットに照準を合わせるのは世界中を常時監視できるようにしなければいけません。そんなこと、本当に可能なのですか?」


 基本的にハルトが何かをやるとき、驚かせたい対象がティナでなければ彼は必ずティナの許可を取る。当然、魔力探知能力に秀でたこの最強ハーフエルフもハルトの協力者だ。


「これね、私たちが元々いた世界の武器をイメージしてるんだ。レールガンていうの!」


 四人いるハルトの協力者。その最後のひとりは、彼の元妹でレールガンの知識を持つ女勇者アカリだった。


 アカリは自ら関係者であることを暴露したが、それ以外のルナ、シトリー、ティナについてもハルトの計画に関わっているだろうと気づく者が何人かいた。勘の鋭いキキョウやセイラ、リファたちだ。しかし彼女らはハルトが常識外れの何かをやらかすことには慣れてきているので、気づいたところで騒ぐことはしなかった。



 世界全域を射程範囲とし、一発に完全体九尾狐の尾一本分の魔力を消費するこの武器の名は『魔導砲』と言う。その威力は人間界に顕現した悪魔を一瞬にして葬る。


 転移が使えるハルト、シトリー、アカリが数日をかけて世界中に監視用のマーカーを設置した。通常時はヒトに見えないよう魔法で隠蔽されているそのマーカーが邪神の気配を含んだ魔力を検知した時、即座に魔導砲が起動する。


 魔導砲が砲身に魔力を溜めている十数秒の間に、魔導砲の発射権限を持つ者の元にマーカーからターゲットの情報が届くようになっている。この発射権限を持つのは、ヒトに紛れた魔人や悪魔を確実に見抜く能力があり、かつ悪魔を排除するのに躊躇がない者たち──ハルト、ティナ、シトリー、アカリの四人だ。


 キキョウにも同等の能力があるので、ハルトは魔導砲の機能を説明した後に彼女にもその権限を付与する予定だった。



「へー。世界中どこに悪魔が現れても瞬殺しちゃう武器かぁ」


 ルークが遠い目をしている。


「うん。なんか、うん。さすが魔王だな」


「リューシン。シトリーはもう魔王じゃないぞ?」


「いや違う。俺はお前に言ったんだ、ハルト」


「えっ」


「ちなみにコレ、展開する時がカッコイイんだよ! ね、ハルにぃ


 この魔導砲、実はもう既に完成していた。


 上位悪魔がエルノール家によってほぼ壊滅状態であるため、中位悪魔にしか試射したことはないのだが、その威力や精度は実証済みだ。後はクランハウスの最上階に設置するだけ。



「せっかくだから魔導砲を展開する様子はクランハウスができたときにお披露目するね。アカリが言うように凄くかっこいいからさ。みんな、楽しみにしといてよ」


 ちなみに悪魔が顕現したことを検知したら、ハルトが転移して倒しに行った方が魔導砲を使うより何倍も速くて効率的だ。それでも彼がコレをクランハウスに実装したいと考えたのはロマンだから。


「武装変形するクランハウスって最高だよね!」


 そう言い放った最強賢者の瞳は、ここ最近で一番輝いていた。

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