クランハウス設計(1/3)


「ま、まさかそれは──」


 クランハウス建設予定地の空いた部分に置かれた馴染みのある形の建物イメージを見ながら、ティナがとある仮説を立てた。そして自身の夫であるハルト最強の賢者ならば、をやり遂げかねないと考える。


「ふふふっ。卒業式の日に全部分かるからさ。それまで楽しみにしといてよ」


「……ハルト様がそうおっしゃるのであれば、そういたしましょう」


「ありがと。じゃあ、クランの方の設計に戻ろう。サリーとリリアも、希望があれば何でも言ってね」


「はいにゃ!」

「あ、あの……」


「リリア、なにかある?」


「本当に何でもよろしいのですか?」


「ほかのみんなとの兼ね合いもあるから全部が希望通りになるとは限らないけど、可能な限り何とかするつもり」


 ハルトの言葉を聞いたリリアがサリーを見る。

 そして互いに目で合図した後、願いを告げた。


「で、できれば私たちも、ハルト様のお屋敷で一緒に暮らしたいです」

「雑用でもなんでもやるので、お願いしますにゃ!」


「いいよ」


 リリアたちの願いはあっさり受け入れられた。


「い、いいのですか!?」


「部屋もまだまだ余ってるし、もともとそのつもりだったからね」


「ありがとうございますにゃ!」

「ありがとうございます!!」


 リリアとサリーが抱き合って喜んでいた。


「その代わり、家事は他のみんなと分担してやってもらうよ」


「分担ですかにゃ?」

「えっと、全て私たちがやらなくてよろしいのですか?」


「サリーさん、リリアさん。エルノール家の家事は私たちが持ち回りで行っています。一部、専任になっている家事もありますが」


 世界樹の世話はルナが専任。お風呂に水を溜めるのはメイで、それをお湯にするのはマイの仕事だ。そのように担当の決まった家事がほかにもいくつかある。


「人数が多いからね。ふたりだけで家事するのはすっごく大変だから、みんなでやってくれればいいよ。なんなら俺も──」


「それはダメです! 家事は全て私たちにお任せください」

「その代わり私たちが家事を頑張っていたら、褒めてくださると嬉しいです」


「ティナやリファの言うように、主様は家事をこなす我らを褒めてくれれば良いのじゃ」

「それがわらわたちにとって、一番のご褒美ですからねぇ」


「アカリとお掃除してたら、ハルトが頭なでなでしてくれたの!」

「ハルにぃ、これからもお願いね」


「私、ハルトに頭を撫でて貰ったことないんだけど……」

「あら。どんまいです、エルミア」

「えっ? も、もしかしてセイラはあるのか?」

「もちろんありますよ」


「ハルト様に頭を撫でていただけるのですか!?」

「ぜ、全力で家事を頑張りますにゃ!!」


「リリア、サリー、よろしくね。それからエルミアは、確かに頭を撫でてあげたことはないね。やってもいいなら今後はそうするよ」


「は、ハルトがどうしてもしたいって言うなら、撫でられてやるのも悪い気はしない。と、というか…やっ…て……しい」


 後半は小声過ぎて何を言っているか聞き取れなかった。しかし普段強気な発言が多いエルミアが顔を真っ赤にしながらモジモジしている様子にハルトは少し萌えていた。


「ハルト様。そ、そのっ、俺たちはどうすれば?」

「ご命令されれば、野宿でもなんでも良いのですが……」


 オートマタであるケイトとアリアは、グランドマスターであるハルトに絶対服従の存在だ。ヒトよりも頑丈な身体を持つため、過酷な環境下でも生きていくことができる。


 とはいえすでに彼女らを仲間認定しているハルトが、ケイトたちに野宿なんて強いるわけがない。


「嫌じゃなければ、ふたりも俺の屋敷に住まない?」


「嫌なんてとんでもない!」

「ぜ、是非お願いします!!」


 ちなみにケイトもアリアも、ハルトが自らにとって絶対的な存在グランドマスターであることには気づいていない。よくわからないが、ハルトのそばにいたい。彼の望みであれば、なんであろうと叶えたいと本能で動いている。


 キキョウはそれに気づいていた。そして成長すれば竜をも倒す存在を野放しにしておくのは危険と判断した。ハルトのそばにいる限りオートマタたちが敵になる可能性は少ないが、仲間にしてしまった方がより安全だと考え、まずはケイトたちをそばに置くことをハルトに進言していたのだ。


 ハルトとしてはケイトとアリアに対して、少し責任のようなものを感じていた。キキョウの勧めがあったこと。そしてエルノールのみんなが許してくれたから、ハルトはケイトたちに一緒に住もうと提案した。



「うちも人数が増えたなー」


「ケイトさんたちで最後にしませんか? まだ部屋数には余裕がありますが、来年には子どもたちが増えますので」


 ティナがこう提案したのは、ハルトが今後も妻を増やすかもしれないということを予測していたからだ。サリーやリリア、ケイト、アリアも近いうちになるかもしれない。


 そしてこの提案をしつつも、彼女はハルトの妻が増えたときに備えて屋敷の増築計画も立てていた。


「そうだね。もし今後も仲間が増えたら、クランハウスの方に住んでもらおう」


「何だったら俺とリエルはそっちに引っ越してもいいよ」

「俺とヒナタもそうだ」


 ハルトの屋敷に居候しているルークとリューシンたちは、この機会にクランハウスの方に引っ越すと言い出した。彼らの言葉でハルトの表情が暗くなる。


「えー。でも、それは……ちょっと寂しいな」


「寂しいって言っても同じ敷地内にいるんだし、いつでも会えるだろ。それにティナ先生の手料理は食べたいから、食事は一緒がいいな」

「リューシン様、さすがにそれは……」


「ご飯はうちに食べに来てくれるんだ!」


 ヒナタは居候させてもらっている身分で我儘を言いすぎだと感じていたようだが、当のハルトはリューシンの言葉を聞いて嬉しそうにしていた。


「俺たちも食事は一緒が良いな。みんなの一緒の方が賑やかで楽しいし。それから子供が生まれたときは、色々と助けてほしい」

「よろしくお願いします」


「もちろん!」


 ルークの妻リエルは、ハルトの妻であるリファの妹だ。

 ハルトにとって、ルークは親友であり家族だった。



「それじゃ、ルークたちとリューシンたちの部屋はこんな感じね」


 ハルトが魔力を放出してクランハウスのイメージを弄る。


 五階建てクランハウスの四階の半分が『ルークとリエルの部屋』、残り半分が『リューシンとヒナタの部屋』と表示された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る