クランハウスの設計とハルトの秘策


「──という経緯がありまして、私の手料理十回王様にお届けするという条件でノートリアスがあった土地を購入することができたのです」


「いや、安かったって……。支払いがスピナお金ですらないんだ」


 ティナはノートリアス跡地の価格が安かったから購入したと言ったが、その対価はジルの提案通りにティナの手料理で支払われることになった。


「でもティナの料理が食べれるなら俺もかなり頑張れちゃうから、そんなもんなのかなぁ」


 幼少の頃から食べてきたとはいえ、ハルトにとっても彼女の料理はかけがえのない宝だ。


「ハルト様。改めてCランクへの昇級、おめでとうございます。こちら、受け取っていただけませんか?」


「ありがと。陛下がくれるって言うなら、この土地もらっちゃおうかな。料理を作って持って行く件、よろしくね」


「お任せください。それから今回の件で、ヨウコさんとキキョウさんも少し動いてくださったのです。できればおふたりにもハルト様から声をかけていただけませんでしょうか」


「うん、わかった」


「ありがとうございます。それでは、こちらをどうぞ」


 ティナがノートリアス跡地の権利書をハルトに手渡す。それを受け取り内容を確認した後、ハルトは権利書を転移魔法で自室の保管庫に転送した。



「てか、ノートリアスって壊滅したの一昨日くらいじゃないの? 今日見たとき、冒険者ギルドの前の土地は既に更地だったんだけど……」


「他人から搾取した資金で維持していた穢れた建物です。あのクランの被害者の方たちへの補償として売れそうなものは全て回収して売却した後、建物は私が土魔法で──」


 ティナは途中まで言いかけて、ノートリアスがたまたま壊滅したというを思い出したようだ。


「つ、土魔法で、やっちゃったんだ」


「大丈夫です。偶然なので」


 ハルトが全て気づいたことにティナも気づいていた。でもこうして自分が無理に押し切ろうとすれば、ハルトが納得してくれるだろうということも分かっている。


「……とりあえずいいや。でも今のティナはひとりじゃないんだから、あんまり危ないことはしないでほしいな」


 そう言いながらハルトがティナに後ろから抱き着いて、彼女のお腹を優しく撫でた。

 

「は、はい。気を付けます」


 顔を赤くしながら、ハルトの手の上にティナも手を重ねる。

 ふたりはしばらくそうしていた。



 少しして、ハルトに抱き着かれたままのティナが後ろを見て話しかける。 


「土地が手に入ったので、次にやるべきことはクランハウスの建設です」


「そうだね。今あそこ、更地だもんね」


「H&T商会御用達の一流建築士を呼んで全て任せてしまうこともできますが、いかがなさいますか?」


「せっかくだからクランに参加してくれるみんなを集めて色々相談しようよ。サリーやリリアとか、ケイトとアリアも。どんな施設が欲しいかとかみんなで決めよう」


 オートマタであったケイトとアリアは今、王都の宿屋でハルトから下される次の指示を待っている。彼が誘ったことで、ふたりもハルトたちのクラン『ファミリア』への参加が確定していた。


「承知いたしました。では食事を終えてからリビングに集まっていただくようにしましょう」



 ──***──


「はい。ということで今から、俺たちのクランハウスの設計案を作ります」


 ハルトがこの場に集まった全員に声をかける。

 ここには総勢二十四人と七体が集まった。


 まずハルトのすぐそばに彼の妻たち──ティナ、リファ、ルナ、ヨウコ、マイ、メイ、メルディ、リュカ、白亜、セイラ、エルミア、キキョウ、シトリー、アカリ、シルフがいる。


 少し離れたソファーにルークとリエル、リューシンとヒナタがいる。彼らは現在エルノール家に居候しているわけだが、イフルス魔法学園卒業後はそのままファミリアに参加する。


 同じくファミリアへの参加が決定している獣人のサリーとリリア、それからケイトとアリアはまた別のソファーでハルトの話を真剣に聞いていた。


 五体いるスライム娘たちは『みんな集まってるからなんとなく』と言った感じでここに来ていた。エルノール家のそばにいられるなら、クランとかはどうでもいい様子。神獣のシロも彼女らと同様で、スライム娘の膝の上でスヤスヤと眠っている。


 残った四体のスライム娘たちは、アカリのペットであるテトと遊んでいた。



 クランハウスの設計について、各々おのおのが思い描く理想をそれぞれ口にしていく。


「クランのおさであるハルト様のお部屋は凄く豪華にしましょう」


「そのお部屋はハルトさんに会いに行きやすいよう、クランハウスの中心部に創るべきですね」


「「リファさんの意見にさんせーです!」」


「おっけー! 俺の部屋はクランの真ん中あたりね」


 魔力を可視化でき、それに色を付けることもできるハルトが魔力でできた立方体を空中に浮かべた。それはクランハウスの外観をなんとなくイメージしているようだ。


 その立方体の中心部あたりに『ハルトの部屋』と文字が追記された。


「お花を育てたいので、お庭がほしいです」


「ルナ、僕も植物育てるのやりたーい」

「ウチも一緒にやるにゃ!」


「土地も広いし、結構大きな庭が作れそうだよ。とりあえず──」


 立方体の底側にシート状の魔力が展開された。このシートは、ノートリアス跡地の形状を再現している。シートの一部が丸で囲われて『庭予定地』という文字が浮かび上がる。


「こんな感じかな」


「主様に変な虫がつかぬよう、クランハウスに入れる者は制限すべきじゃ」


わらわの幻覚魔法で、ハルト様が認めた者以外はクランの敷地に入れなくなるようにすることも可能です」


「あ、それは防犯の観点から見てもありかな。依頼を受けるカウンターや応接室を作って、そこより奥は部外者が入れないようにするとかできる?」


「問題ありません。お任せください」


「ありがと、キキョウ。それじゃよろしくね」


 立方体にクランハウスの入口とカウンターのようなもの、それから四つの応接室と書かれた四角が追加される。


「あの……。私はこのお屋敷も気に入っているのですけど、クランハウスができたら引っ越すことになるのでしょうか?」


「私もリュカと同じ意見なの。ここ、すっごく居心地良いから大好きなの!」


「あと数ヶ月でハルト様たちはココを卒業されます。もちろん私も教師は辞めるつもりですが、そうなるとこのお屋敷にはいられなくなりますね」


「あっ、それなら俺がじーちゃんに相談して、卒業後もここにいられるようにしてもらおうか?」


「ルーク、ありがと。でも大丈夫だよ。みんなもそのことは心配しなくていい」


 そう言ってハルトがニヤリと笑った。

 きっと何か秘策があるのだろう。


 彼がこうした態度をとったとき、家族の誰かを驚かせようとしていることが多い。


 ここにいる全員が、ハルトとそれなりに長い時間を一緒に過ごしてきた。だから何をするつもりなのか彼から聞きだそうとしても、無駄だということを理解していた。



「とりあえずは、かな」


 クランハウスをイメージした立方体が乗ったシート。その空いたスペースに、今彼らがいる屋敷と同じ形状の立体が追加された。

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