服従を是とする種族
「成長する人造魔物ですか……。確かに魔力はかなり多いですが、それ以外はどこからどう見ても普通の人族にしか見えませんね」
「ティナ様も、彼らの存在をご存じなかったのですか?」
「一度、勇者タカト様が『配下を増やしたい』と、
タカトは勝手なことをやって、遥人に怒られることを極端に恐れていた。守護しかできない出来損ないの勇者だと馬鹿にしていた遥人の攻撃で──たった一発のパンチで生死の狭間を
だからタカトは何かをやろうとする際、必ず遥人に確認を取っていた。
最後に魔王を倒して、元の世界に帰る時も。
「なんにせよ、彼らはずっと待ち続けていたようです」
「待っていた? 何をです?」
「主の帰還です。自らの意思を持ち、勝手に強くなる彼らですが、その存在意義は主の命に従うこと。彼らが最も喜びを感じるのは、主の命を果たせた時なのです」
「そ、その主と言うのは、まさか──」
「ティナ様のことです。転生なさっていますが、もしかしたら何らかの要因でハルト様も主と認定される可能性もありますね」
キキョウはハルトがかつてこの世界に来ていたことも、転生者であることも知っている。ハルトがエルノール家のみんなに自分の出自を特に隠していないから。
それから彼女にはヒトに触れるだけで、その思考を読み取る力がある。思考だけでなく、そのヒト本人が忘れてしまったような過去の出来事であっても把握できる。
オートマタが創られた百年前、キキョウは彼女の娘であるヨウコに封印されていた。数年前にハルトによって蘇生と封印解除をされて以来、彼女はヒトの心を読む力を使って世界の情報収集に力を入れてきた。その過程で、賢者カナが創り出した人造魔物の存在を知ったのだ。
ちなみにヨウコとともにキキョウが情報収集に注力してきたのは、ハルトの敵となりうる裏社会の勢力を潰すことが自身の果たすべき役割だと考えていたからだ。
実際に闇ギルドや暗殺者などといった裏の者たちを相手するなら、思考を読み取る能力がある彼女らが適任だった。嘘を見抜き、裏切りを許さない。そして洗脳魔法と高い戦闘能力を兼ね備えた九尾狐親子は、この世界の裏社会の構図を大きく塗り替えていた。
「この者たちが住んでいた村には、およそ百体のオートマタがいるようです。強い者は属性竜を倒すほどの力を備えています」
遥人やタカトが魔王を倒すまでの過程で、多くのオートマタが魔物によって破壊された。しかし魔王が倒れると魔物の活動が沈静化し、それとともにオートマタの役割も終わった。
生き残ったオートマタたちは、魔大陸の一か所に集まって村を作った。そこで彼らは主の帰還を待っていたのだ。
「人造魔物って、そこまで強くなるんですね」
「第二世代の者でそれですから、第三世代だというこの子たちはもっと強くなれるかもしれません」
「えっ」
「それから今さらですが、彼らも意思を持つ存在です。ティナ様の命令に従っている間はそれを幸せだと感じているみたいですけど……。さすがに見ていてかわいそうなので、もう少し楽な体勢にさせてあげませんか?」
キキョウに斬りかかろうとして、その途中でティナに止まれと言われて止まったケイトは変な体勢のまま固まっていた。
「あっ! そ、そうですね。えっと……た、立ってください」
「はい!」
ケイトが勢いよく立ち上がる。
若干ぬかるんだ地面に顔面からダイブしていた彼は、顔も服も泥だらけになっている。しかしそんなこと気にならないと言うように、ケイトはキラキラした瞳でまっすぐティナを見ていた。
「ごめんなさいね。あの、楽にしていただいていいんですよ?」
「はい! 大丈夫です!! なんか俺、貴女に命令されると嬉しいんです!!」
「わ、私もそちらに行ってもよろしいでしょうか?」
ティナがケイトと話し始めたことで、会話を許されたと判断したアリアが移動したいと申請する。
「……どうぞ」
「はーい!」
すごい勢いでアリアがやって来て、ケイトの隣に並ぶ。ふたりして何かを期待するような目でティナを見ていた。
これまでずっと、ハルトのため献身的に動いてきたティナ。そんな彼女のもとに、自分のために何でもしてあげたいと心から望む存在が現れた。献身的に尽くすことは慣れているが、逆に何か命令を期待されると困ってしまう。
彼らをどうすべきか悩んでいると、少し離れた場所に転移の魔法陣が展開された。
「お待たせー! タオルと着替え持ってきたよ──って、この子たち誰?」
ハルトが戻ってきた。
「俺、ケイトって言います!」
「私はアリアです!」
彼もオートマタの主として認識される。
実はカナがオートマタを創った時、それに必要な魔力の大半をタカトが渡していた。その当時のタカトには、遥人に服従しなくてはいけないという強い深層心理があった。
それが大きく影響したせいで、遥人はオートマタにとって
何らかの要因から、遥人とハルトが同一人物であると認識したケイトたち。彼らにとってハルトは絶対服従すべき対象だった。
「この子らは、
「えっ」
「でも、私の言うことを聞いてくれるようなのです」
「……そうなの?」
「はい!」
「そうです!」
「なんかよくわかんないけど、敵じゃないんだよね?」
「「敵じゃないです!!」」
「ふーん。ならいいや」
いまいち状況が分からないが、ティナとキキョウがケイトたちを危険視していないようなのでハルトはそれ以上の詮索をやめた。
「ケイト君? だいぶ汚れてるね。俺がタオルの予備を持ってきたから、そこの温泉で汚れ落とそうか」
「はい。ご一緒させていただきます」
「わ、私も、よろしいですか?」
「いや、アリアはダメでしょ。俺らはあっちで入るから、君はティナたちと一緒に入りなよ」
ここにはいくつか温泉が噴き出していて、少し離れた岩場の向こう側にも温泉が見えた。ハルトはケイトとともにそっちへ移動していった。
「ケイトだけ……。いいなぁ」
離れていったハルトとケイトの背を見ながら、アリアが呟く。
「はいはい、女の子はこっちですよー」
「えっ? でしたら、ケイトも」
「えっ?」
「えっ」
オートマタは、マスターの命令に絶対服従の存在だ。
それが例え、
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