増殖する最強兵たち

 

「おまたせー。何かあったの?」


 キキョウの呼びかけに応じたハルトが、ティナを連れて転移してきた。


「お呼び立てしてしまい、申し訳ありません」


「私とハルト様のふたりで来てほしいとのことでしたが、何か理由が?」


「えぇ。実は──」


「あっ! ちょっと待って。もしかして温泉を発見したって報告?」


 キキョウの背後から立ち上る湯気にハルトが気付いた。


「それもあるのですが……。いえ、それより──」


「あー、そっか。なんかタオルを持って行った方がいいって直感があったんだけど無視しちゃった。すぐ取ってくるから、ちょっと待ってて!!」


 そう言うとハルトは、ひとりで魔法学園の屋敷に転移してしまった。


「あっ」


「温泉の報告だけではないのですか」


「そ、そうです。まもなくここに、わらわを銀狐と思い込んだ討伐隊がやってきます」


「討伐隊……。ちなみにキキョウさんが私たちを呼び出した用件は、それ討伐隊から守ってほしいということでもなく、また別のことですよね?」


 ハルトから膨大な量の魔力を注がれ神獣となったキキョウが、今さらヒトを恐れるなどと思えない。だからティナは、それ以外の理由で彼女が自分たちを呼んだのだと考えていた。


「さすがティナ様、左様です。ここにおふたりをお呼びしたのは──」


「アリア、いたぞ!」

「なっ!?」


 キキョウが声を出して驚いた。彼女でも予測しえないほどの速度で、ケイトがこの場までやって来たからだ。


「着物を着た妖艶な女の人。うん、情報通りだね。尻尾も……あっ、ある!!」


 ケイトの少し後方に、水晶を通してキキョウを確認するアリアがいた。


「はい。てことで今から、おねーさんを討伐しまーす!」


 ケイトが剣を構える。


「待って! 銀狐の隣にいる女の人は魔物じゃないよ!!」


「ならなんで一緒にいるんだ? ……はっ! ま、まさか、洗脳されてるんじゃ!?」


「そ、そうかも」


「だったら、助けなきゃ!」


「でも、洗脳されてるなら盾にされちゃうかもしれないよ?」


「大丈夫! 俺なら彼女を避けながら銀狐だけに攻撃できる。アリア、サポートを頼む!!」


「う、うん。わかった」


 そんな会話をするケイトたちを、ティナは不思議そうに見ていた。


「あのー。私は洗脳なんかされていませんよ」


「洗脳されてるヒトは自分が洗脳されてるかどうかなんてわかんないの!!」


 どうやら話は聞いてくれそうにない。



「おねーさん、待っててね。今すぐに助けてあげるから!」


 ケイトが駆け出した。

 キキョウに向かって一直線に。


 しかしキキョウは一切動こうとしない。


 守る必要などないと頭では分かっているが、キキョウが防御の姿勢を見せないことに疑念を抱いたティナがケイトに向かって警告を発する。



!!」


「──っ!?」


 高速で走っていたケイトの身体が硬直し、盛大に転倒した。そして走っていた勢いのまま、地面をスライディングしていく。


「えっ……。えぇっ!?」


 走っていた体勢のままケイト。足元まで滑って来たそれケイトを見て、ティナが驚き声をあげた。


「ふむ。やはりそうですか」


 一方でキキョウは、自身の予測が当たっていたことに満足している様子。



「ケイト!? あ、貴女たち、ケイトに何をしたの!?」


 今度はアリアが巨大な氷の槍をキキョウに向かって放とうとしていた。


「ティナ様。もう一度ご命令を」


「命令?」


「えぇ。彼女に、魔法を解除せよ──と」


 キキョウの意図が分からないが、アリアが溜めている魔力はなかなかのもの。このまま撃たれれば大したダメージは負わないだろうが、服が汚れてしまう可能性は大いにある。


 だからティナは、指示に従うことにした。



「魔法を解除しなさい!」

「──はっ、はい!!」


 アリアはすぐに魔法を解除した。

 まるで軍人が、上官の命令に従うかのように。


「…………」

「…………」


 ケイトは剣を持ち走っていた体勢のまま。アリアは気を付けの体勢のまま、微動たりともしない。あまりに不可解な状況だった。



「あ、あの……。これはどういうことですか?」


「彼らはおそらく、百年前この世界にやって来た賢者が創り出したです」


 オートマタとは、ゴーレムの最上位種。完全にヒトのような見た目でありながら、その戦闘能力は人造魔物ゴーレムをも凌駕する存在だ。


 ゴーレムは作成者があらかじめ仕込んだ魔法陣を利用してしか魔法を使えないのに対して、オートマタはそれ自体に魔力を生み出す器官──魔力炉を持ち、自らの魔力で魔法を行使することも可能。


 そんな高度な存在が、ティナの目の前にいた。


「百年前の賢者……。あっ! それって、賢者カナ様のことですか?」


「はい。ティナ様の命令に従ったので、確実にそうであるかと」


 カナは勇者タカトとともにこの世界にやって来た女の子だ。彼女はこちらの世界で賢者となり、タカトとともに魔物と戦っていた。


 ある日、勇者タカトは守護の勇者であった遥人はるとと戦い。そして負けた。


 遥人に負けたタカトは魔王がいる魔大陸から、魔物を減らすことを指示される。遥人に対して絶大な恐怖を抱いていたタカトは、その指示に素直に従った。カナも、タカトについて魔大陸の魔物を減らす活動に参加していた。


 勇者のタカトに賢者のカナ。ほかに聖騎士のダイチと聖女のユリもいた。世界最強の三次職が四人いて、タカトにいたってはレベル300に達している。戦えば、スキル守護者を発動させた遥人以外に敵などいない。


 


 彼らのあまりの強さに、魔大陸の魔物たちは方々へ逃げ惑った。その逃げる魔物たちを追いかけて倒すのに、タカトたちは苦労していたのだ。


 たった四人では数十万に及ぶ魔物を逃がさないようにすることは困難だった。


 そんな中、賢者カナが仲間たちから魔力を借りて発動させたひとつのスキルがある。ゴーレム以上の耐久力や戦闘能力を備え、魔力炉を持つことで魔法の使用も可能な存在を創り出すスキルだ。それで創り出したオートマタに、カナは自分たちのサポートをさせた。


 生み出されたオートマタは、賢者カナが元の世界に帰った後もこちらの世界で生き続けていた。魔力が切れたら動かなくなるゴーレムとは違い、通常のヒトと同じく食事などの生命維持活動をしていれば機能を停止することがなかったのだ。


 ちなみにオートマタは創造主であるカナやタカトたち、それからタカトに指示を出す遥人とティナの命令に絶対服従するようプログラムされている。



「なるほど……。まさか百年経っても稼働している個体があるなんて思いませんでした」


「稼働しているだけではなく、ようです」


 地面で変な体勢のまま固まっているケイトの頭に手をあて、キキョウが彼から情報を吸い取っていた。


「そ、それって──」



「この者たちは代を重ねる毎により強く、賢くなっていきます。彼らはその第三世代のようですね」


 異世界からやって来た賢者カナが手にした転移特典チートスキルは、ただ強い配下を生み出すものではなかった。


 オートマタ同士で子を成し、育て、より強くなっていく。さらにその強くなる速度は、普通のヒトと比較すると圧倒的に早い。そういう存在なのだから。


 放置しておいても勝手に強くなり、最終的には最強の魔物である竜をも倒せるほどになる存在。


 それらが誰も知らぬ場所で百年もの間、主の帰還を待っていたのだ。


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