クランの拠点建設予定地

 

「ハルト様、みなさん。おかえりなさい」

「おかえりなさーい」


 Cランク冒険者への昇級試験を終えて屋敷まで帰ってきた俺たちを、ティナとリファが出迎えてくれた。俺たちが王都のギルドを出た瞬間から、ティナはすでに俺たちがそろそろ帰ってくることを把握していたようだ。


「ただいま。ティナ、リファ」

「ただいまー!」

「ただいまです」

「ただいま戻りました」


「あの、ハルト様。ルナさんたちは?」

「ルナはメルディと、リューシンはヒナタとデート中だよ」


 俺と一緒に帰ってきたのはシルフとアカリ、シトリーの三人だけだった。俺の転移魔法でこの屋敷に戻ろうとしたら、リューシンが王都に残ると言い出した。ヒナタとデートがしたかったらしい。帰りは彼が竜化して、飛んで帰ってくるとのこと。


 リューシンとヒナタが手を繋いで歩いていくのを見ていたルナが、王都を散歩しようとメルディを誘い、ふたりも俺と一緒には帰らないことになった。後で呼ばれたら、俺が彼女らを転移魔法で迎えに行くことになっている。


「そうでしたか。それで、問題ないとは思いますが……。昇級試験の方は?」


「全員合格できたよ」

「みんな、試験監督さんに勝ちました!」

「楽勝だったね」

「私は、戦えませんでしたが……」


 ちょっとだけシトリーが不満げだった。試験監督のガドが戦わずに負けを認めてしまったから、彼女だけは全力で戦うことができなかったんだ。


 たまにはガス抜きも必要だよね。だから今度、少しだけシトリーの全力戦闘に付き合ってあげようと思う。


「みなさん、おめでとうございます!」

「さすがですね。おめでとうございます」


「うん、ありがと」


「きっと合格されるだろうって思って、いっぱいご馳走作ってお待ちしていました」


「ほんと!? ティナ、ありがとー!」

「わーい! ティナさんのお料理だー!!」


「あっ、まだ食べちゃダメですよー」


 シルフとアカリが屋敷の中へと駆け出して行った。そのふたりを追って、リファも屋敷の中へ入っていく。


「あー、そっか。それじゃ、ルナたちに教えてあげないと」


「そうですね。一応、連絡しておいた方が良いかと」


 うちの家族はみんなティナの料理が大好きだから、王都でデートを楽しんでいたとしてもきっと急いで帰ってくるだろう。


「私が皆様への連絡とお迎えをしますから、旦那様は先にお食事をどうぞ」


「そう? なら、お願いしようかな」

「はい。承知いたしました」


 俺の転移魔法を完璧に模倣できるシトリーがそう言ってくれたので、彼女にお願いすることにした。俺はティナに少し話したいことがあったから。



 ティナと屋敷の中に入って、リビングで少し俺の話を聞いてもらう。


「クランの設立申請もしてきた。名前はみんなで決めた通り『ファミリア』にしたよ」


「そうなのですね。ではハルト様はついに、念願だったご自分のクランを持つことができるようになったと」


「うん! 今後の目標は、そのクランを世界最強にしちゃうことかな」


 世界ランキング1位のクランって、憧れるよね。


 俺が知ってるのは、元の世界でやってたオンラインゲームのクランだけど……。でもそのゲームでランキング1位のクランは、俺たち一般プレイヤーたちからしても憧れの的だった。


 最も良い立地にそのクラン専用の巨大な拠点ホームを建て、そのゲームで最強クラスのプレイヤーたちが集う。もちろん彼らが所持するのは、ゲーム内で最高峰の装備やアイテムの数々だ。


 そのクランに所属できることが、プレイヤーの誇りにもなる。


 俺のクランも、多くのヒトがそこに所属したいと思ってもらえるようにしたい。ただファミリアは俺の家族的な集まりだから、実際に参加してもらうのは本当に仲良くなったヒトだけになると思う。


「世界最強のクランですか。ありだと思います。ぜひとも目指しましょう!」


 ティナも賛同してくれた。


「ありがと。それでクランの拠点ホームなんだけど……。グレンデールの王都につくりたいなーって」


 王都の土地が非常に高いのは分かっている。でも俺は、どうしてもそこに拠点を設立したかった。


 冒険者は世界中を旅する職業だが、活動のメインとなるどこかの国に拠点をつくっている者も多い。特にクランに所属していれば、そのクランのホームがある国が活動の中心になる。


 どこを活動の拠点にしたいか考えたとき、俺の中で候補に挙がったのはグレンデールの王都、俺の実家があるシルバレイ伯爵領、エルフの王国アルヘイム獣人の王国ベスティエだ。


 ちなみにグレンデールの王都で昇級試験を受けてCランク冒険者になったわけだが、クランの拠点を設立するのはどこでも可能なんだ。


 アルヘイムもベスティエも、きっと俺たちを歓迎してくれる。それぞれの王家とも、懇意にしてもらってる──というかどちらの国も王女が俺の嫁なんだから、仕事をたくさん回してもらえるだろう。大所帯になった俺の家族を養っていくために、安定して仕事を貰えそうなのは助かる。


 ベスティエにいたっては俺がオーナーなんだから、俺が俺のクランに割の良い仕事を発注することだって可能かもしれない。そんなこと、やっていいのかわからんけど……。



 いろいろ考えたが、俺はやはりグレンデールに拠点をつくることにした。


 生まれ育ったこの国のことが大好きだったから。


 この国の王族は、俺の家族にいないけど……。国王陛下とは仲良くしてもらってるし、陛下の妹のサーシャはティナに弟子入りしている。料理指導をしているうちに、サーシャがティナの弟子であるということを自称し始めたらしい。


 だからこの国でも、仕事はちゃんと貰えるだろう。


 王家とズブズブの関係で仕事を得るって、かなりヤバいとは思うが……。養わなきゃいけない人数が多すぎるから、使えるコネはなんでも使ってやろうって考えていた。


 それから王都にホームをつくる理由は、単純に便利だからだ。王家から依頼を貰うのも、冒険者ギルドに仕事がないか確認しに行くのも簡単だ。


 転移魔法が使える俺なら、たとえどこにホームをつくっても問題はない。だけどクランは、いくつものパーティーの集まりになる。俺やシトリーがいなくても、みんなが自由に依頼を受けられるようにするには、人も物も情報も多い王都が最適だった。



「クランのホームを、この国の王都に……」


「うん。それでティナにお願いがあるんだ」


「はい、なんでしょうか?」


「王都の土地を購入する資金と、ホームを建てる資金を貸してほしい」


 もちろん俺が依頼をこなした利益で、返済していく予定だ。


「えっと……。私が貸さなくとも、ハルト様はハルトティナ商会のオーナーなのですから、資金はいくらでも動かせますよ?」


「でもそれはさ。なんかダメかなって」


 ティナが俺のためにつくってくれた商会だ。もちろんそれは嬉しいけど、何もやっていない俺がその商会の資金に手を出してしまうのには抵抗があった。


「そうなのですか?」

「そうなの」


 ティナが何か考え込んでしまった。彼女でも王都の土地を買うほどの資金を動かすのは、容易ではないのかもしれない。


 面倒なことを言って、ごめんな。



「ハルト様は今日、王都のギルドに行きましたよね?」


「うん。行ってきた」


「大通りを挟んでギルドの向かい側って、何もない土地がありましたよね?」


「あー、あったあった。なんかの建設予定地ってなってたよ」


 王都の冒険者ギルドは、多くの冒険者たちが出入りする。持ち込まれる依頼の量も多ければ、日々達成される依頼数も多い。冒険者だけでなく、依頼を持ち込む人々もたくさんやってくるんだ。


 人が集まるということは、物が売れる──商売につながりやすいということ。だから冒険者ギルドの周りには様々なお店が展開され、その付近はとても活気に満ち溢れている。


 王都の中でも一等地として最も地価の高い場所だ。そんな一等地に広い空き地があった。ティナが言うように、大通りを挟んで冒険者ギルドの向かい側の土地。広さとしては冒険者ギルドが二個入ってしまうほどの土地だった。きっとそこには、大型の商業施設などができるのだろう。


 まさかティナは、その土地の一部を買おうとでも言うのだろうか?


 さすがにアレほどの土地になると、俺が頑張って稼いでも返済までにかなり時間がかかってしまいそうだ。場所としては最高なんだけどなぁ。ちょっと手を出せないと思う。


「私、ハルト様が王都で冒険者登録をなさったので、てっきりそこに拠点を持つものだと考えていたんです。ですから……。あっ、少しだけお待ちください」


 てててっと、ティナがどこかに走っていった。



 戻ってきた彼女は、一枚の紙を手にしていた。


「ハルト様は今日、ファミリアというクランの代表に就任なさいました。ですのでコレは、私からのお祝いです!!」


 そう言ってティナから渡されたもの。それは──



 王都の冒険者ギルドの向かい側にあった、広大な空き地権利書だった。

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