Cランク昇級とクランの名前
ガドは遺跡のダンジョンの十八層目に転送した。
そこのフロアボスが、ガドを心身ともに一から鍛えなおしてくれるだろう。魔王にも一目置かれるような魔物だった彼なら、きっとうまくやってくれるはずだ。
「ハルト。ありがとな」
「いいよ、カイ
ガドはカイ兄の同僚だったみたいだから、手をかけずに済んでホッとしている様子。
「さて。試験監督だった王国騎士団の隊長格がいなくなってしまったので、俺がその代理になろうと思う。ちなみにコレは国王陛下の許可をもらってるから、国としての正式な対処だ」
うん。やっぱりカイ
彼は俺たちが昇級試験を受ける前、国王様と俺たちの前に姿を現していた。たぶんその時、彼が持ってる<超直感>ってスキルでこうなる未来を予感していたのだろう。
だって、対処が早すぎるもん。
あらかじめこうなるって考えていなければ不可能なんだ。ガドが騒ぎ始めて、その騒動が大きくなってから国が対処に動き出す。普通はそうなるはず。
でも実際は試験の最中に、カイ
というか王様も、コレを狙っていたのかも。
国としてもガドの扱いに困っていた様子だったし……。ガドの心を折って、そして彼を処分するために俺たちの試験監督に指名したような気がする。俺の直感がそれで間違いないと言っていた。
「気づいたか、ハルト」
カインを見ていたら、彼が良い笑顔をしながら話しかけてきた。
「まぁね。でもそれだけ、俺たちを信じてくれてたってことでしょ?」
「おう。ていうよりあれだな。お前もだいぶ直感が成長してきてるな。説明がほとんど要らないから、すげー楽だ」
「……そもそも俺が気づかなければ、説明とかされなかったよね」
国として不要な人材を処分したいから、俺たちにボコボコにさせた──なんて国側の人間が国民に言っていいことではないだろ。
「いいじゃん。実際に何とかなったんだから。さ、堅苦しいことをサクッと終わらせよう」
そう言ってカインがイリーナの隣まで移動し、俺たちの方に振り向いた。
「グレンデール国王陛下の親衛隊長カイン=ヴィ=シルバレイが、王国騎士団第二十部隊の隊長ガドに代わって宣言する。今日ここに、ハルト=エルノール以下八名のCランク冒険者への昇級を認める」
すごくキリっとした顔でカインが宣言していた。
こんなに真剣な表情の兄を見たのは、これが初めてかもしれない。
だからちょっと、ニヤけてしまった。
「Cランク冒険者は、国の依頼を請け負ってもらうことがある。国の代理として、物品を他国に運んだりな。だからその力と品位は──っておい、ハルト。真剣に聞けよ」
「ご、ごめん。つい」
「はぁ……。まぁいい。とりあえずお前らは、今日からCランク冒険者だ」
いきなりカインの雰囲気が、いつもの軽いものへと戻った。
「陛下の<王の威厳>ってスキル真似てみたが、うまくいかねーもんだな」
あー、スキル使ってたんだ。
確かそのスキルは、
もしかしたら、王族じゃないのに無理やり
「カイン殿から言い渡された通り、君たちは今日からCランク冒険者となる。みんな、ギルドカードは持っているか?」
イリーナがギルドカードを渡すように言ってきた。
彼女にカードを渡すと、すぐに返却された。
「もういいんですか?」
「あぁ、ランクのところを確認してくれ」
返されたギルドカードを見ると、等級の部分がDからCに変わっていた。
「おぉ。変わってます! カードのランク変更って、そんなに簡単にできるんですね」
「ギルドマスターにだけ許された行為だな。ギルマスが少し魔力を通すだけで、ランクの変更はできる。上げるだけじゃなくて、下げることもな」
イリーナではなく、カインが説明してくれた。
「その通り。ちなみに私としては、ハルトたちはCランク冒険者の枠には当てはまらないと思うのだが……。どうだろう? お前たちにその気があるのであれば、Aランク──いや。いっそSランク冒険者になれるよう、ギルド連盟に推薦もしてやれるが」
王都の冒険者ギルドであれば、そのマスターの裁量でAランク冒険者を任命することができる。ただしこれには最低でもCランクになって、国から認められた冒険者である必要があるらしい。
Cランク冒険者になった俺たちは、イリーナさえOKを出せばAランクまで昇級できる。ちなみにSランク冒険者になるには、三次職であることと、世界各国のギルド連盟でその力を認めさせる必要があるみたいだ。
「でも、出る杭は打たれるって言いますし……」
Cランクに上がったばかりで大した実績もない俺たちが、イリーナの一存でAランク冒険者になっても、周りの冒険者たちは認めないだろう。
「俺たちはちゃんと実績を積んで、昇級試験を受けますよ」
ゆっくりだけど確実に進んでいこう。
Bランク、Aランク。そして、Sランクへと。
「そ、そうか……。ちなみにお前らが昇級に必要なギルドポイントを稼いだら、無試験で昇級だからな? 全力で戦うお前らの試験監督を務められるような存在は、
そうなんだ。まぁ、それでもいいか。
それを思うと、何度死んでも折れない心を持っていたガドは、やっぱり凄い人物だったのかもしれない。もちろん遺跡のダンジョンでも、彼は死なないようにしてある。死なない身体と折れない心を持ったガドが、鬼教官に鍛えられたら……。なんかすごいことになりそうだ。頑張ってほしい。
「さて。話は変わるが、お前たちはCランク冒険者になった。その特典のひとつとして『クラン』を作れるようになるわけだが──」
「つくります!!」
食い気味に回答してしまった。
俺はクランをつくるために冒険者登録したといってもいい。
世界最高のクランをつくるのが目標だ。
そこは家族のような強い絆で結ばれた集団にしたい。
所属する者たちの、帰るべき場所にしたい。
そーゆークランをつくりたいんだ。
「もう決まっているようだな。今ここで私に申請すれば、登録してやることもできる。クランの名前は決めているのか?」
「はい。もう決まってます」
実は昇級試験に受かる前提で、クランの名前は考えてあった。エルノール家の全員と、リリアやサリーといった俺のクランに参加予定のみんなで話し合って決めた。
「俺たちのクランは、『ファミリア』にします」
家族って意味の名前にした。
みんなが帰るべき場所になるように。
みんなが強い絆で結ばれるよう、願いを込めて。
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