Cランク昇級試験(3/16)
「やぁ。君が、ハルトだね?」
俺たちがグレンデール王都の冒険者ギルドについた時、綺麗な緑の髪をしたひとりの女性が出迎えてくれた。
この人、けっこう強いと思う。
纏ってるオーラが並の冒険者のじゃない。
俺のことを知っているようなので、今日俺たちがCランクへの昇級試験を受けることを把握している関係者なんだろう。
「はい。ハルト=エルノールです」
「私はイリーナ。この冒険者ギルドで、マスターをしている者だ」
「えっ!?」
こ、この人、ギルドマスターなの!?
ここは王都のギルドだから……。ってことはアレでしょ?
この国全ての、冒険者ギルドの総括者でもあるってこと。
「ギルドマスターさんなんですね。はじめまして。でも……そんな偉い方が、なんで俺たちを出迎えに?」
「君は、英雄ティナ=ハリベル様の夫になったと聞いている。ティナ様には昔から、非常に良くしていただいている。だからこうして、挨拶しに来たというわけだ」
かつて俺はこの世界に転移してきて、ティナと一緒に魔王を倒すための旅をした。当時、勇者としてこちらに来たのは俺だけではなく、四人の勇者たちもいたんだ。
俺と一緒にこちらにやってきた四人の勇者たちは、魔王討伐後に元の世界に帰った。もちろん、俺も。
こちらに残ったティナは、俺たちがいなくなったあとは世界最高の戦力として、危険度Sランクの魔物が出現した時などは、冒険者ギルドの緊急招集に応じていたらしい。
彼女がいなければ、いくつもの国が滅びていてもおかしくなかったとイリーナが教えてくれた。
「特にティナ様には、改めて過去のことをお礼申し上げたいと常々思っていたのだが……。ギルド側からエルノール家に干渉するのは、国王陛下から止められていてな」
「そ、そうなんですか」
この国の王であるジルは、俺たちを守ってくれると約束してくれた。おそらくギルドが俺たちに接触することで、厄介な依頼を押し付けられるのを防ごうとしてくれたのだと思う。
「だが此度、君たちはCランク冒険者になる。ということは、うちのギルドの主力冒険者になるわけだ。であればギルドマスターである私が挨拶しても、なんの問題もないというわけだ」
俺たちはかなり前からこのギルドに登録していたのだから、ギルドマスターであるイリーナなら、いつ話しかけてくれても良かったと思うのだが……。
まぁ、それだけ国王の忠告は力があるということなんだろう。
「ところで、ティナ様はどこかな? およそ三十年振りにお会いできるのを、楽しみにしていたのだが」
さ、三十年って……。
この人いったい、何歳なんだ?
「ティナは今回、昇級試験を受けないので来ていませんよ」
「な、なにっ!?」
イリーナさんはティナが来ないことを知って、すごく残念そうにしていた。
昔は交流があったものの、彼女がギルドマスターになったあたりからティナはギルドに顔を出さなくなったらしい。
そして俺たちがギルドに登録して以降は、王の命令で接触を避けていた。だから今日という日を、心待ちにしていたようだ。
「で、ではティナ様は、いつ昇級試験を?」
「だいぶ先だと思います。その……今、彼女は妊娠中で、大事をとって俺の屋敷で待機していますから」
「なん……だと。ティナ様が、妊娠。い、いや。それは大変めでたいことだ。し、しかし──」
多分イリーナは、ティナのことをかなり慕っていたんだろう。ティナに会いたいが、無理に会いにくるのは王の命令でできない。イリーナは、かなり葛藤している様子。
「もしよろしければ、うちに遊びに来ませんか?」
「い、いいのか!?」
もちろんティナに確認して、彼女が良いと言ってくれればだが。なんとなく直感で、イリーナが悪い人ではなさそうってのがわかるから、たぶん問題はないはず。
「昔のティナの知り合いなのですよね? であれば妻も、歓迎してくれると思います」
俺は冒険者クランを設立したいので、依頼を回してくれるギルドとは良い関係を築いておくべきだと思っている。ティナさえ嫌がらなければ、イリーナとも仲良くさせてもらいたい。
「あ、ありがとう! ただ一度、ティナ様に確認をとってくれ。私が訪問しても、問題ないのかと」
「わかりました。ちなみに、三十年くらい前から妻とお知り合いとのことですが……」
やっぱり、見た目と年齢の差が気になる。
「あぁ。これでも私、エルフの血が入っているんだ。だから見た目よりは、ずっと長生きしてる。ちなみにマスターの座は世襲でなったとかじゃないぞ? 実力で、前マスターから奪い取った」
なるほど。そーゆーことか。
冒険者ギルドのマスターは、粗暴な冒険者たちを一手にまとめ上げるだけの力が必要だ。見た目が若くて美人なのに、イリーナがマスターをしているのは、彼女もハーフエルフだから。
つまり、ティナと同じなんだ。
この世界では、複数の種族の
「そうなんですね。えっと……すみません、女性に年齢のことを話させてしまって」
「気にするな。もう、慣れている。とはいえ、毎度説明するのは面倒だから、最近はあまり冒険者たちの前に顔を出すことは少なくなったな」
確かに俺たちは、冒険者ギルドに所属していながら、そのトップであるイリーナの顔も名前も、今日まで知らなかった。知る必要がなかった、というのもある。たぶん、ティナなら知っていたんだろうけど。
……あぁ。
エルフの血が入っているというイリーナはすごく美人だから、もしかしたらティナが俺と会わせないようにしてたのかも。
ティナは俺が興味を示さなければ、基本的に必要最低限の説明しかしない。特にそれが、女性が絡んでいれば尚更その傾向が強くなる。
「こんなところで立ち話もなんだな。さ、中に入ってくれ。今日の昇級、頑張ってくれよ」
「はい!」
俺たちはイリーナに案内され、昇級試験会場へと向かった。
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