Cランク昇級試験(4/16)
「あれ。ルナとメルディは?」
イリーナについてギルドランクの昇級試験会場に向かおうとした時、ふたりがいないことに気がついた。
「ハル
「あ、そうなんだ……」
この時、俺は少し嫌な予感がした。
実はこのギルドの冒険者たちは、全員がヨウコとキキョウに洗脳されている。
洗脳と言っても常識をねじ曲げるとか、ヨウコたちの思うがままに動くようにするとか、そーゆーのじゃない。もっと、軽い感じのやつ。
エルノール家のメンバーに、絡む気がおきなくなるってモノだ。
最初は俺も、勝手に冒険者たちを洗脳してしまったヨウコとキキョウを怒った。しかし洗脳を解かせた時、ふたりの行動が正しかったとすぐに知ることとなる。
洗脳が解かれた途端、冒険者たちがやたらと俺の妻たちに絡んでくるのだ。もちろん全部俺が対処しようとしたが、無理だった。
十人以上いる妻たちが、それぞれの場所で絡まれる。それを俺ひとりでは、カバーしきれなかった。分身すればなんとでもなるが……こんな所で分身魔法を使うわけにはいかない。
リファのお尻を触ろうとした冒険者を締め上げていたら、リュカが冒険者に壁ドンされていた。彼女はリューシンが助けてくれたけど、今度はアカリがまた別の冒険者に絡まれる──そんな感じだった。
もちろん俺の妻たちは、ここにいる冒険者なんて普通に戦えば楽勝だ。しかし彼女らの多くは、ナンパに耐性がなかった。
武器を向けられるでもなく、ただ口説かれる。そんな男たちに対して、妻たちはどうすれば良いかわからなかったみたい。いつもなら、俺が助けちゃうから。
というか数人は自らピンチになりにいって、俺が助けに来るのを待ってる妻もいた。ヨウコとかがそうだ。
それに気付いた俺は、わざとヨウコを助けにいかなかった。
そしたら冒険者のひとりがヨウコの身体に触れそうになったので、さすがに止めに行こうとした。その時、ヨウコが冒険者ギルド全体に洗脳魔法をかけた。
『我らに触れて良いのは、主様だけじゃ』
彼女がそう言い放った。妻たちに絡んでいた冒険者たちはまるで、エルノール家のメンバーだけが突然見えなくなったかのように、各々散っていった。
この件から俺は、ヨウコとキキョウの力がどれだけ重要かを把握した。
俺の妻たちは、みんな可愛すぎる。
自分の妻だからそう見えるって言うんじゃなくて、外部から見てもそうなの。それは俺の兄たちや、親友のルークが保証してくれた。
そんな可愛すぎる妻たちを、俺は魔物や悪魔からは守ることができる。しかし俺らに殺意を持たないヒトに対しては、俺はわりと無力だった。
分身や炎の騎士で、冒険者たちを攻撃するわけにはいかない。数人なら俺がなんとかできるが、十人を超えるとさすがに厳しい。
だから俺は、ヨウコとキキョウに謝った。それから普通の生活には一切支障のないように、冒険者やその他の妻に近づく者たちを軽く洗脳してもらうようになった。
話を戻そう。
ルナとメルディが、先にギルドに入ったらしい。
このギルドに普段出入りしている冒険者たちは、イリーナを含めた全員がキキョウに洗脳されているようだ。
俺たちを案内してくれてるギルドマスター、イリーナの頭にもキキョウの魔力が絡みついているのが見える。ハーフとはいえ、イリーナにはエルフ族の血が入っている。エルフは精神攻撃や洗脳に強い耐性を持つ種族だ。
それでも、完全体の九尾狐として永い時を生きてきたキキョウの洗脳魔法には抗えないようだ。まぁ、女性であるイリーナが、ナンパ目的で俺の妻たちに絡むことはないと思うが……。
ギルドマスターですら洗脳下にあるのに、俺の直感はルナたちのピンチを伝えていた。
今日は俺たちの昇級試験で、王国騎士団の隊長格が試験監督をしてくれるらしい。
普段、このギルドに出入りする冒険者や、素材の買取に来た商人たちは、既に洗脳されている。しかし、まだ俺らが会ったこともない王国騎士団の隊長さんたちなら、洗脳されていなくてもおかしくない。
つまり彼らなら、ルナとメルディに絡むことができてしまう。さらに今日は、洗脳魔法が使えるキキョウもヨウコも、ここには来ていない。
だけど、このグレンデールという国に仕える騎士団の隊長だぞ?
そんな人が、ナンパなんて行為するか?
頭ではそう思っていても、直感が早くルナたちのところに行けと告げてくる。
「イリーナさん、すみません。トイレに行きたいので、先に行きますね」
俺は早足で、ギルドの奥に向かった。
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