シャルルの読心術(5/6)
「しゃるねぇさまー」
トテトテと可愛らしい足音を鳴らしながら、弟のハルトが私のところまで走ってくる。
私を見つけて、頑張ってこっちまで来ようとしているハルトの姿が、すっごくかわいい。
今年ハルトは三歳に、私は九歳になった。
「ねぇさま!!」
私の元まで辿り着いたハルトが、勢いよく私の腰に抱きつく。
「ハルト、おはよ」
「おはようございます!」
(しゃるねぇさま、いいにおいー)
ハルトが私の服に、顔を押し付けてグリグリしてくる。そんなハルトも、すごく可愛いの。
えへへ。
ハルトに気に入られちゃった。
メイドさんにお願いして、今日の服を洗濯した洗剤を今後も使ってもらうようにしなくちゃ!
「ハルトも、これから朝ごはん?」
「そうなのです!」
「私もだから、一緒に食堂へいこっか」
「はーい」
そう返事したハルトは、私が差し出した手を取った。ここまでは良かった。
「てぃなー」
ハルトが、あの女を呼ぶまでは。
「はい、ハルト様」
ハルトに呼ばれたメイド──ハーフエルフのティナが私とハルトのそばまでやってきて、ハルトの差し出した手をとる。
私がハルトの右側でハルトの右手と手を繋いで、ティナがハルトの左側に立って左手と手を繋ぐ形になった。
「おはようございます。シャルル様」
「……おはよ」
私は、このメイドが好きじゃない。
だって──
「えへへ」
(てぃなのおてて、すべすべー)
ハルトは私と手を繋ぐより、ティナとの方が嬉しいらしい。それが悔しい。なんとも言えない気持ちになる。
これが、嫉妬心っていうのかな?
よくわからないけど、私はティナが少し嫌い。ハルトがティナと仲良さそうにしているのを見る度、なんか心がモヤモヤするの。
「しゃるねぇさま、どーしたの?」
「あっ、ううん。なんでもないよ」
ちょっと考えごとをしていたら、ハルトに心配されちゃった。
「朝ごはん、食べにいこ!」
「はーい」
ハルトとティナと一緒に、食堂へ向かった。
──***──
ご飯を食べたあと少し休んで、私は魔法の訓練を始めた。私は来年、イフルス魔法学園への入学が決まっている。
五歳から魔法の訓練をしてきているので、いくら世界中から優秀な学生が集まるとはいえ、落ちこぼれることはないかな。
そもそも授業についていけるとかどうかじゃなくて、私は学園で一番の魔法使いにならなきゃいけない。
それは、ハルトを守るため。
彼は神様から祝福を受けた『勇者の器』で、魔王がこの世界に君臨したら異世界人がハルトの身体に転生してきて、ハルトがハルトじゃなくなっちゃうかもしれない。
ハルトの身体を異世界人なんかに奪われないように、私は魔王を倒さなきゃいけないの!
異世界人が来るかもしれない日まで、あと二年。魔王が現れたって話はまだ聞かないけど、私は今できることを、全力でやる。
「しゃるねぇさま、がんばれー」
最近、私が魔法訓練しているとハルトが応援してくれるようになった。だから、すっごくやる気がでる。
それはいいのだけど、別で気になることもできた。ハルトについてティナも私の訓練に顔を出すようになったの。
「ハルト様。危険ですから、もう少し下がりましょう」
私がハルトを巻き込むような魔法を、使うわけないじゃん!
ちょっとイラッとしちゃったけど、ハルトが私に向かってニコニコ笑顔で手を振ってくれたから、心が落ち着いた。
ティナはハルトが生まれた日、突然うちにやってきてハルトの専属メイドになったの。お父様がそれを認めちゃったから、私にはなにもできなかった。
彼女のメイドとしての能力は素晴らしく、ハルトのお世話を一任するには問題ない。
世話してもらうのに問題はないのだけど──
「てぃな。ぼくもまほう、つかいたーい!」
「ハルト様も五歳になったら、魔法の訓練ができますよ。その時はシャルル様みたいに色んな魔法が使えるよう、頑張りましょうね」
「うん! たのしみー」
仲良さそうに話すハルトとティナが、気になって仕方がない。
彼女はハルトの専属メイドだけど、ハルトの世話だけじゃなくてシルバレイ伯爵家の家事も凄いクオリティでこなしてしまう。
メイドとしても、ハルトのお世話役としても彼女の仕事に文句をつけることができない。
だからこそ余計に、モヤモヤしちゃう。
私が魔法学園に入学したら、ハルトは寂しがってくれるかな?
ティナがいるから大丈夫ってなったら、少し嫌。
あぁ、もう……。
私が魔法学園に入学した後、ハルトがティナとさらに親密な仲になっちゃうんじゃないかってことが、ここ最近の一番の心配事。
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