シャルルの読心術(4/6)

 

「アンナは!? 妻は、無事なのか!?」


 勢いよく扉を開けて、お父様がリビングに入ってきた。隣国でのお仕事だったはずだけど、すっごく急いで帰ってきたみたい。


「父上、大丈夫ですよ。母上も、俺たちの弟も元気です」


 お父様より少し早く帰ってきたカインお兄様が、お父様に母子の無事を伝える。


 お父様が帰ってくるまでに時間がかかったから、お父様にはもう一度レターバードを飛ばして、産まれたのが男の子であったことも伝えてあった。


「そ、そうか。それは良かった」


 お兄様の言葉を聞いて一安心したお父様が、気の抜けたようにソファーに腰掛ける。


「それで……私の息子はどこにいる?」


「母上のお部屋です。俺たちと同じく黒髪で、綺麗な青い瞳でした。それから──」


「それから? ほかにも、なにかあるのか?」


「レオンとシャルルが、祝福を感じたそうです」


「なっ、なに!?」


 お父様が、すごく驚いた顔をしていた。ちなみに私たちが感じたことをカインお兄様に伝えた時、お兄様もお父様と同じような反応をしていたの。


 祝福されたのはだってことを、レオンお兄様とカインお兄様が話してた。


 赤ちゃんが祝福されるのって、そんなにすごいことなのかな?



「そうか。ということは本当に、我が家に勇者候補が……」


 えっ?

 ゆ、勇者候補?


 お父様が呟いた言葉が気になる。


「お父様。勇者候補、というのは?」


 勇者様のことは、私も知ってる。 この世界には魔王っていう悪いやつがたまに現れて、世界に恐怖をばらまくの。それを倒して、世界を平和にしてくれるのが勇者様。


 今から百年くらい前に魔王が暴れていた時、それを倒してくれたのは異世界から来た勇者様たち。勇者様は、異世界からやってくるの。


 だから私の弟が勇者候補だって言うお父様の、言葉の意味がわからなかった。


 だってこの世界で産まれた私の弟が、勇者になんてなるわけがないと思ったから。


「シャルル。アンナから、お前の弟の名前は聞いたか?」


「聞きました。ハルトって言うんですよね」


「そうだ。その名をつけてくださったのが、神様だというのも?」


「……はい」


 お母様が夢の中で神様に、これから産まれてくる子供の名前は『ハルト』にしなさいって言われたらしいのだけど、その夢はお父様も見ていたってことを、お母様に教えてもらった。


 ふたりが同じ夢を見ていたことから、その夢が本当に神様が見せてくれたものだと確信したお父様たちは、私の弟の名前をハルトにすることを決めたらしい。


「なら話が早いな。お前の弟──ハルトは将来、異世界からくる勇者の『器』となる存在なんだ」


「勇者様の、うつわ?」


 うつわって、なんだろう?


「勇者様がこちらの世界に来る方法は『転移』と『転生』のふたつがあるんだが、こちらの世界の子供の肉体に異世界人の魂が混ざることで、この世界に顕現するのが転生勇者様だ」


「あの……よく意味がわかりません」


 この後、お父様が転生勇者様のお話を、噛み砕いて教えてくださった。それで、なんとなく理解はできたのだけど──



「と、ということは、ハルトはハルトじゃなくなってしまうのですか!?」


 私の弟のハルトは、五歳で他のヒトに身体を奪われてしまうんだって思った。


 そんなのは、絶対に嫌!!


 だって、あんなにキレイな心の音を鳴らしてる私の弟が、別人になっちゃうなんて……。



「ふむ……そのあたりはどうなるのか正直、私にもよくわからない」


 お父様も、あまりわかってないみたい。この世界によく来るのは転移の勇者様で、転生の勇者様が現れたのは、もう何百年も前のことらしい。


「ただその魂はハルトのと異世界の者の魂が混じるから、完全にハルトでなくなるわけではない。それにあくまでハルトはまだ勇者の器となる候補として、創造神様に祝福されただけだ」


 世界に危機が訪れなければ──つまり魔王が現れなければ、ハルトの身体に異世界人が転生してくることはないらしい。


 このことを理解した瞬間、私がやるべきことが決定した。



 魔王が現れたら、すぐに私が倒す。


 魔王って、勇者様以外は倒せないらしいんだけど……。


 そんなの関係ない!!


 どんなことをしても、私が魔王を倒すの。

 お兄様たちも、手伝ってくれるかな?


 たとえ私ひとりでも、やり遂げてみせる。

 ハルトを、異世界人なんかに渡すもんか。


 強く……強くならなきゃ!!



 私はハルトを守るため、なんとしてでも魔王を倒す力を手に入れる決心をした。

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