海神(4/5)
ハルトの身体、どうなってるんだ?
神殿を揺らすほどの衝撃の中心にいて、なんで平気なんだ?
わからないことが多すぎる……。
だが、そんなことよりも今は、なんとかしてハルトを驚かせてやりてぇ。
今んとこ、こっちだけが驚いてる。
俺は神だぞ!?
神が人族に驚かされっぱなしはダメだろ。
んー、どうすっかな?
──と、ここで俺はあることを思いついた。
「なぁ、ハルト。こんなのはどうだ?」
俺は魔法で無数の魚──魔魚を自分の周囲に創り出した。
「よし、いけ!」
その魔魚たちを、ハルトに向かって突撃させる。
俺より速度は劣るものの、複数の魔魚が自動で連携を取りながら、ハルトの逃げ道を塞ぎながらどんどん距離を詰めていく。
「──くっ!?」
魔魚に触れたらどうなるかはわかっていないと思うのだが、ハルトは避けることを選択した。
それは正解。
ハルトがミスったのは、この場から逃げなかったことだ。
俺より速く動けるのだから、ハルトは魔魚よりも速く海中を動くことができる。
だったらこの神殿のそばから離れる方向に逃げ続ければ、魔魚に追いつかれることはない。
でもハルトは、俺のそばから一定以上離れないことを選んだ。
そのせいで、魔魚に逃げ道を塞がれていった。
──詰んだな。
逃げ道がなくなったハルトのもとに、魔魚が押し寄せる。
「ヤバっ──」
ハルトが身体の周囲に魔法障壁を展開した。
俺はそれを確認し、魔魚をハルトに突撃させる。
ハルトの魔法障壁に触れた魔魚が、その瞬間に大爆発を起こした。
魔魚一匹で、シーサーペントというAランクの魔物を、粉々にする威力の爆発を起こす。
それが、およそ千匹。
しかし俺は、この魔法でもハルトなら耐えると思った。
もしダメでも、直ぐに蘇生させてやるつもりでいた。
そして俺の予想は──
「あぶねー。海神様、今の魔法ヤバいです!」
普通に当たった。
ハルトはピンピンしていた。
魔法障壁に、ヒビすら入ってなかった。
「……あのなハルト。お前が防いだ魔法、一発でAランクの魔物倒せるクラスのやつなんだぞ」
「え、そうなんですか? それよりあの魚、まるで意思を持ってるみたいに動いてましたけど……海神様が操作してたんですか?」
ハルトは、魔法の威力には興味がないようだ。
「操作してるわけじゃない。お前が言うように、一匹一匹に意思がある」
「……精霊を、魔法に入れてるとか?」
「アホか! そんな可哀想なことできるか!!」
単純な命令通りに動かすゴーレムなら、簡単に作ることができる。しかし行動を自分で考え、自律的に動く魔法にするためには少し工夫が必要だ。
自律行動できる魔法を作る方法はいくつかあって、ハルトが言うように魔法に精霊を組み込むってのもひとつの手段だな。
でも敵に当たったら爆発する魔法に、精霊を入れるなんて、できるわけないだろ!
「じゃあ、いったいどうやって?」
戦ってる相手に、そんなこと教えてやりたくはないのだが……ついさっき俺は、ハルトの高速移動の仕組みを聞いてしまった。
神である俺がハルトから情報を聞き出したのに、俺だけ情報を教えないとか──
やっぱり、ズルいよな?
「しゃーねーな。特別に教えてやるよ」
「おぉ! ありがとうございます」
「お前、魔法の操作はできるか? 例えば撃った魔法を、途中で曲げたりするとかだ」
魔法の威力とかを『制御』するのと違い、『操作』はそれなりに高度な技術なんだが──
「できます!」
まぁ、ハルトならできるよな。
コイツ、賢者だもんな。
即答されたわけだが、今の俺はこの程度じゃ驚かないぞ?
「なら話は早い。この魚の中心部分、
魔魚を一匹呼んで俺の前で止め、ハルトに魔魚の腹を見せる。
コアは、魔視って技術がないと見えない。
普通の人族だと、使える奴はかなり少ない技術だ。
でもハルトなら、見えるだろ。
「あ、ありますね。八面体のヤツですよね?」
……ほらな。
このバケモノは、ただの人族だって思っちゃダメなんだ。
「そうだ。これがこの魔法のコアだ。言わば、魔法の脳みそだな。コアは『この魔法がどう動くか』ってのを、強くイメージしながら作り上げる」
「魔法自体にそういうイメージをつけるのは、ダメなんですか?」
「別に構わないが、自由度が減る」
「自由度……?」
「例えばこの魚は、攻撃魔法の一種だ。『水中を速く進む』機能と『敵に当たったら衝撃波を発生させる』機能がある。ここに『複数体で連携して敵を追い詰める』って機能を追加しようとすると、色々と不具合がある」
具体的に言うと、泳ぐ速度が低下したり、攻撃の威力が下がる。
攻撃系の機能と、操作する機能は別にしておいた方がいい。
あらかじめ『どう動くか』を明確にイメージして作り上げたコアを魔法の中心に組み込むことで、威力を保ちつつ自律行動が可能な魔法にすることができるんだ。
「なるほど……攻撃系と操作系の機能は、分けて魔法を構築するといいんですね」
「そーゆーことだ」
「わかりました! 教えていただき、ありがとうございました。ちょっと、やってみますね!!」
俺はこの直後、ハルトに余計なことを教えてしまったと、非常に後悔することになる。
「ファイアランス!」
ハルトの詠唱で、轟轟と燃え上がる炎を纏った人馬一体の騎士が現れた。
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