アフターストーリー

創造神の悩み

 

 神界


「やぁ、じいさん。なんの用だ?」


「あぁ、海神よ。よくぞ来てくれた」


 創造神に呼ばれて、海神がやってきた。


「とりあえず、を見てほしい」


 そう言って創造神が指さした先には──



「な、なんだ……アレ?」


 ヒトの下半身が、創造神の神殿の壁から



「邪神だ」


「…………は?」


わしの神殿に突き刺さっておるあの男は、邪神だと言ったのだ」


「えっ」


「ついさきほど、大きな音がしたので外に出てみたら、なっていた」


「え、えっ? だ、大丈夫なのかコイツ!? いったい、なにがあったんだ!?」


「まぁ、身体が消滅しておらんから、なんとかなるだろう。で、なにがあったかと言うと──」


 創造神が頭を抱える。


 そしてとても言いにくそうに、こうなっている原因を口にした。



「ハルトだ」


「は?」


「ハルト=エルノール。ハルトはお前の、戦友ともなのだろう?」


「そ、そうだけどよ……アイツがなんか、関係してるのか?」


「ハルトが邪神を殴って、ここまで吹っ飛ばしたのだ」


「…………はい?」


「海神、空神、地神そして邪神。お前たち四大神は、儂の身体の次に頑丈に創った。そしてその次に頑丈に創ったのが、この神殿だ」


 とても頑丈であるはずの創造神の神殿に、邪神の上半身が丸ごとめり込んでいた。


「海神、お前……ハルトが邪神を殴りに行くことを、知っておったよな?」


「お、おぅ。ハルトに会いに行ったら、邪神の反撃が心配だって言うから、俺がアイツの家族を守ってやってたんだ」


 神は神に攻撃することができない。


 その性質を活かして、海神がハルトの家族と一緒にいることで、邪神から彼の家族を守ろうとしたのだ。


「まさか、邪神の神殿からこんなとこまで、邪神を吹っ飛ばすなんて思わなかったけどな……」



「ふむ、そうか。まぁ、それはいい」


 創造神が壁に刺さっている邪神に近づく。


「問題はコレだ」


「問題って……さっさと助けてやればいいだろ」


「だが、それをやって、もしアイツの怒りを買ったらどうする?」


「い、怒り? アイツって、まさかハルトのことか?」


「そうだ。コイツの神殿から儂の神殿までどれほど離れておるか、お前もわかっているだろう」


「あ、あぁ」


 邪神の神殿は、ほかのどの神の神殿よりも遠く離れた場所にあった。


「そんなとこからここまで邪神を殴り飛ばし、さらにこの神殿にめり込ませる威力なんかで儂は、絶対に殴られたくない!!」


 創造神は、邪神を助けることでハルトの怒りを買ってしまうのではないかと恐れていた。


「いや、アイツはそんなことで怒らないだろ……ハルトはじいさんのことを、ちゃんと敬ってるぞ?」


「うむ。それはわかるのだが……もしだ。もし儂が邪神を助けたとハルトに知られたら──」


 この世界を創った神が、ありえない力を持ってしまったひとりの人族に怯えていた。



「あー。わかった。それじゃコイツは俺が引っこ抜いて、神殿まで送り届ける。で、ちゃんと俺がやったってハルトに伝えとくよ」


「そうしてくれると、助かる……すまんのぉ」


 自分でやらなくていいことになって、創造神の表情が明るくなった。



「そういえばお前、ハルトとたまに戦うそうじゃないか。よくあんなバケモノと、やりあえるな?」


「まぁな。アイツはいい感じに手加減してくれるから、やってて楽しいんだ」


「お、お前相手に手加減している時点で、ハルトはかなりヤバい存在なのだと思うのだが……」


「ははは、そんなのいまさらだろ。全部、このバカのせいなんだ」


 そう言いながら海神が、手荒に邪神の身体を神殿の壁から引き抜いた。


 邪神がこうなっているのも、もとを辿ればハルトを殺し呪いをかけた邪神の、自業自得であった。



「うわぁ……殴られたのが顔面じゃなくて良かったな」


「これは、酷いな……」


 邪神はハルトに、腹部を思いっきり殴られたのだ。


 なんとか身体の形は留めていたものの、邪神の全身はズタボロだった。


 思わず創造神が治癒を行おうとしたが──



「いや、治癒などせずとも良いか」


「そうだな。コイツも四大神なんだから、じいさんがそこまでしなくてもいいだろ」


「うむ。ハルトに怒られたくないからな。それでは、コイツを送り届けるのは海神、お前に任せた! ちゃんとハルトには、『私がやりました』と伝えるのだぞ?」


 そう言い残して、創造神が消えた。


 自分は邪神を助けるのに関与していないという、アピールのつもりだった。



「じいさん、ハルトにビビりすぎだろ……でもまぁ俺も、はなりたくないな」


 海神はボロボロになった邪神をかつぎ上げると、邪神の神殿に向けて移動し始めた。



「まさかあんな小さかったガキが、この世界の創造主をビビらせるほどの存在になるなんてな……」


 海神は、ハルトが初めて彼を訪ねてきた時のことを思い返していた。

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