第318話 世界樹の試練

 

「着いたな」

「えぇ……」


 俺とダイロンは、世界樹の根本まで辿り着いた。


 ここまで来ると、魔物に襲われることはないようだ。


「さて、どんな試練が──」


⦅よくここまで来たな。お前らも、私の実が欲しいのか?⦆


 頭の中に、声が響く。

 シルフの声ではなかった。

 なんだか少しだけ、イライラしてしまう声だ。


 世界樹の化身はシルフだけど、世界樹自身にも意識があるのかな?


「せ、世界樹か!?」


⦅いかにも⦆


「世界樹よ。頼む、実をくれないか? 我が息子が、病気なんだ」


⦅実を望むものには、我が出す試練を満たす必要がある。それは、理解しているか?⦆


「あぁ。息子を助けるためなら、どんなことでもしよう!」


⦅よろしい。試練は全部で三つだ⦆


 世界樹(?)と会話していたダイロンの足元に、どこからか小さな水晶が落ちてきた。


⦅その水晶を、魔力で満たせ⦆


「……これを?」


 ダイロンが水晶を拾い上げる。


 俺はそれを見て、試練のクリアが不可能であることに気づいた。


 それが無限の魔水晶──いくらでも魔力を貯められる、神話級ゴッズの魔具だったからだ。


⦅どうした? 早くしろ。できないのか? できないのであれば、わたしに無駄な時間を使わせた咎として、お前たちの記憶をもらうとしよう⦆


「わ、わかった。少しまて!」


 ダイロンが水晶に魔力を込める。


 しかし、彼がいくら魔力を注ぎこんでも、水晶に魔力が貯まっているようには見えない。


 これは……あの御方の力を借りるしかないか。


「ダイロン、少しだけ待ってて」


「な、なにをするつもりだ?」


 俺はダイロンから見えない場所まで移動してから地面に手を付き、祖龍に語りかけた。




 ──***──


「順調そうだな。ハルト」


 久しぶりに自分の名前で呼ばれた気がする。


「えぇ。最後の一回です」


 俺は、祖龍様のもとに来ていた。


「お前のことだ。なんとなくわかっておるとは思うが、あの世界樹は──」


「えぇ。大丈夫です」


 俺がそう言うと、祖龍様はニヤリと笑った。


「お前の足が大地に触れておれば、我がいくらでも魔力を送り届けてやれる」


「わかりました。よろしくお願いします」


「それから、も持っていくといい」


 俺の前に身の丈ほどある大剣と、真っ赤な宝石が現れた。


 どちらも見覚えがあるアイテムだ。


 それは俺の愛剣である『覇国』と、どんな魔法でも吸収できる『竜王の瞳』だった。


 そうか。

 コレって、祖龍様から頂いたんだ。


 未来が見える祖龍様が持っていけというのだから、コレが必要になるってことだろう。


「祖龍様、ありがとうございます」


「あぁ。元の時代に戻っても、たまには遊びに来いよ。その……できれば我の、子孫をつれてな」


 祖龍様は昔、生まれた竜全てに祝福を与え、最高位の魔物である竜としての生き様を説いていた。


 しかしある時、それを疎ましく思っていると発言した竜王がいた。


 『口うるさいジジイだ』と言われた祖龍様はたいそうショックを受け、それ以来魔界に引きこもるようになったらしい。


「できればで良い。我のもとに来るのを嫌がらない竜や竜人がいれば、つれてくるのだ」


 世界に魔力を循環させているような凄い龍でも、子孫の姿は見たいんだな。


「わかりました!」


 白亜やリューシン、リュカをつれてこよう。

 できれば……俺とリュカの子も。


「う、うむ! 期待せずに、待っておるぞ。待っておるからな!! 期待は、その……あんまりしておらぬが」


 子孫の顔を見たがるおじいちゃん祖龍がめっちゃカワイイので、絶対にみんなをつれてこようと決心した。


 てゆーか、未来が見える祖龍様だから、俺が白亜たちを連れてくる未来だって知っているはずだ。


 たぶん、保険のつもりなんだろうな。



「それでは、また来ますね。祖龍様、ありがとうございました!」


「あぁ。頑張れよ、ハルト。それから、邪神を殴るときだが、ほんの少しだけ手加減してやりなさい」


「すみません。いくら祖龍様のお言葉でも、約束はしかねますが……努力はしてみます」


 ギリギリ消滅しないくらいにしなくちゃ。


「それで良い。ではな──」



 ──***──


 世界樹の根本まで戻ってきた。


 ダイロンはまだ、水晶に魔力を込めていた。


「ダイロン、お待たせ」


「エルノールか!? お前、気配が完全に消えていたぞ? ど、どこに行っていた!?」


 逃げたって思われちゃったかな?

 少しだけ、ダイロンを不安にさせてしまったようだ。


「あはは、逃げたりしないって。それよりそろそろ限界だろ? 代わるよ」


「あ、あぁ。ありがとう──って、なんだお前、その大剣は!?」


 俺が背負ってる覇国に、ダイロンが驚いていた。


「まぁ、ちょっとね」


 そう言いながら、強引に彼から無限の魔水晶を奪い取る。


「俺が魔力を込めてもいいよね?」


⦅あぁ。誰がやろうとかまわない⦆


 よーし、やるぞ!

 祖龍様おじいちゃん、よろしくお願いします!!


 足元の地面から、膨大な魔力が俺に入ってくる。


 俺はそれをそのまま、魔水晶に流し込んだ。


⦅へぇ。さっきのオッサンより、君の方が魔力は多いみたいだね⦆


「そりゃどーも」


 ひたすら魔力を流し込む。



⦅す、凄いね……もう半分くらいだよ。でも君も、そろそろ限界なんじゃない?⦆


「いえ、全然?」


 だって、この世界に魔力を循環させてる祖龍様が、俺のバックについてるんだから。


「まだまだ、いっきますよぉぉぉお!」


⦅っ!? ま、まって! その量はヤバ──⦆



 パリンと音を立て、魔水晶が割れた。


「おっ!」

「なにっ!?」

⦅そ、そんな……⦆


「あらら、割れちゃいましたね。でも、この水晶に魔力を満たすのは達成しましたよ?」


「す、凄いなエルノール。お前の魔力の量……いったい、どうなってるんだ?」


 まぁ、ズルしただけなんですけどね。


 でもそれは、



⦅くぅぅ。もったいないないことを……。ちっ、次だ次!⦆


 おいおい。

 ちょっと本性が、出ちゃってんじゃん。


 そんなことを考えていたら、魔水晶の時と同じようにまたどこからか、金属の塊が落ちてきた。


 俺の腰の高さほどある、オリハルコンの球体。


⦅次はそれを、壊してもらおうか⦆


「そ、そんな……これはオリハルコンではないか! こんな塊を壊すなど絶対に──」



「できましたよ?」


 覇国でバラバラにしてやった。


⦅えっ!?⦆

「──は?」


 このエルフの身体でも、覇国が使えて良かった。


⦅えっ、えっ、なに? なんなのさ、お前!!⦆


「まぁまぁ。次で、最後ですよね?」


⦅──くっ。よ、良いだろう。だが次の試練はもっと難しいよ⦆


「最後は、超級の魔法を受け止めろ──とか?」


⦅な、なんでそれを……?⦆


「いやぁ、なんとなくです。さぁ、やりましょう。俺はいつでも、いいですよ?」


 さぁ、来い!



⦅…………やめだ⦆


「は?」



⦅最後の試練はオッサン、お前がその大剣を持ったエルフを殺せ⦆

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