第316話 六回目

 

 キキョウがヤバかった。

 暴走した九尾狐が、あれほどまでとは……。


 搾り取られた。


 いや、まぁ。

 すげー気持ちよかったけど。


 でも普通の人族の身体じゃ、九尾狐を相手にできないってわかった。



 彼女の無尽蔵の体力がヤバかった。


 既に限界まで出してるのに、魅了の影響で無理やり絞り取られるのがヤバかった。


 それでかなり、俺の体力が削られた。


 極めつけは満足したキキョウが、俺の身体の上で熟睡してしまったことだ。


 もともと傷を負って体力を消耗してたキキョウは、自らの意志で俺から魔力を吸わないようにセーブしていた。


 しかし熟睡したことで、その枷が外れた。


 キキョウが寝ている間、俺は魔力を吸われ続けたんだ。魔力欠乏で死ぬことはないが、体力がない状態で魔力が一定以下まで減少すると、ヒトは気を失う。


 俺は魔力を吸われすぎて気絶し、少し魔力が回復したら覚醒するが、またキキョウに魔力を吸われて気絶するというのを繰り返した。


 目を覚ますと、目の前で絶世の美女が寝ていて『な、なんだ!? ……あっ、コイツ、キキョウだ! ヤバい、逃げなきゃ!!』ってなるのだが、逃げなきゃって思った時には既に、手足を動かせないほど魔力を吸われている。


 それを繰り返すこと、二十回くらいかな。



 俺は死んだ。

 普通の人族の肉体では、耐えられなかったんだ。


 この輪廻転生の呪いで死ぬと、呪いで作られた肉体は消えるらしい。


 キキョウからしたら、寝ている間にが逃げたように思えるのだろう。



 ──と、ここで、とあることを思い出した。


 それは、ヨウコの父親のことだ。


 ヨウコの父はキキョウの命の恩人で、どことなく俺と雰囲気が似ていたらしい。


「……ま、まさか」


 ありえない。


 でもそうすると、ヨウコの父──つまりキキョウと子作りした男が、俺と似ていたということの説明ができる。


 だって、俺だもん。

 ヨウコの父親って、俺なんじゃね!?


 まぁ、身体は俺のじゃないのだけど……。


 あ、あれ?

 でも、そうなると、もしかして俺は──



 邪神の所に行く前、妻たち一人ひとりと寝た時のことを思い出す。そこに、ヨウコもいた。


 乱れた彼女の姿が、脳裏をよぎる。


「…………」


 もしかして俺、ヤっちゃったのかな?

 ヤっちゃったんだよな?


 ヨウコに『多少、激しくされても大丈夫なのじゃ!』って言われたから、分身も使ってやりたい放題しちゃった。


 ……俺、ヨウコとヤっちゃったんだ。



「あ"あ"ぁぁぁあぁぁああ!!」


 いや、ダメでしょ!?

 さすがに娘は、ダメでしょ!!


 妹のアカリに手を出してる時点で、どうかと思うけど……。



 いや、待て。

 まだ焦る時じゃない。


 そもそもキキョウと子作りした男は、邪神の呪いで作られた肉体だ。


 そんなので、本当に子ができるかなんてわからない。


 ……よし。

 帰ったらまず、キキョウに確認しよう。


 ちなみに俺は彼女に『サイジョウ』って家名を名乗った。あんまり過去の家族と接点を作りすぎるのは良くないって思ったからだ。


 まぁ、ヤバいくらいの接点を作っちゃった可能性があるのだけど……。


 キキョウにヨウコの父の名前を聞くのが、なんとなく嫌で聞いてなかった。


 帰ったら、すぐに聞こう。


 キキョウを邪神の神殿に召喚してでも、すぐ聞こう。


 気になって仕方がない。




「お前は……エルフ、か?」

「えっ」


 俺が転生した先は、薄暗い森の中だった。


 そこでキキョウやヨウコのことを考え、頭を抱えていたら、突然声をかけられた。


 俺に声をかけてきたのは──



「サイロス?」


 サイロス=アルヘイム。

 アルヘイムエルフの王国の王様で、リファの父親。


「サイロスは、我が息子の名だ。ほかのエルフと勘違いしてはいないか? 我が名はダイロン=アルヘイム。アルヘイム家の家長である」


 エルフ王かと思ったけど、違ったみたい。

 でもすごく似ている。


 このエルフが、俺の知ってるエルフ王のお父さんってことかな?


「お前はエルフ族、だよな? 名はなんという? こんな所でなにをしていたのだ」


 ハッとして自分の耳を触る。

 ツンと、とんがっていた。


 俺、最後はエルフ族に転生したようだ。


「おい、聞いているのか? 名を名乗れ」


 ヤバい、なんとか答えなきゃ。

 えーっと……。


「エ、エルノールです!」


 咄嗟に家名を答えてしまった。


 でもエルノールって、エルフの言葉で『炎の』とかって意味だがら、名前としてもそんなにおかしくないはず。


「そうか。エルノール、お前はなぜこんな所でひとりでいたのだ? 危険ではないか」


 えっ、この森、危ない場所なの!?

 ど、どうしよう?


 まずここがどこかもわからないのだから、なんでここにいるのかって聞かれても、答えられるはずがない。


「す、すみません。私、どうやら記憶を失っているようで……」


 記憶喪失ってことにしてみた。

 どうだ、いけるか?


「記憶喪失、か。その格好を見るに、北方のクーリンディアの一族だろう。それがお前ひとりということは……この森に、やられたのだな」


 なんかよくわからないけど、勝手に納得してくれたから、そーゆーことにしておこう。


「あの、ここはいったい、どこなのですか?」


「名前以外の記憶は、に奪われたようだな……よし、いいだろう。ついてこい」


 アレって、なんのことだろう?


 とりあえずダイロンについていく。



 少し歩くと、森が開けた。


 出た場所の先は崖になっていて、その崖下には暗い森が広がっている。


 その森の中心には──



「ここは、だ」


 俺が知ってる世界樹とは全く違う、不気味な雰囲気の巨木がそびえ立っていた。

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