第315話 四回目と五回目
四回目の転生は、人族の男になった。
邪神の呪いで作られた身体なので当然、家族はいない。
ステータスボードを確認すると──
状態:呪い(輪廻転生:残り三回)
となっていた。
これまでのは、ちゃんと死ねてるらしい。
『ちゃんと死ねてる』ってのも、なんか変な感じだな。
まぁ、それはいい。
少しステータスで気になったのが、なぜか職業の項目が読めたってことだ。
これまで状態以外の項目は、文字化けしてて読むことができなかった。
俺の職業は、精霊使い。
精霊を召喚し、使役する職業だ。
なんで今回だけ……?
理由をいろいろ考えてみたがわからない。
でもせっかく精霊を召喚できるので、やってみることにした。
どんな精霊が出てくるかな?
普通の精霊使いは、詠唱するだけで自動で召喚用の魔法陣が現れる。
でもレベル1の賢者だった俺は、詠唱だけで召喚魔法陣を出すことができなかったから、自分の魔力を操作して、魔法陣を自分で描いていた。
その習性があったから、精霊使いになった今回も、いつものように自分の魔力で魔法陣を描いてしまった。
どうやら、詠唱により自動で出てくる魔法陣を使うより、自分の魔力で全部描いた魔法陣の方が強い精霊を召喚できるらしい。
現れたのは、水の精霊。
精霊のランクとしては、中位くらいかな。
でも
なぜそれがわかるかって?
それは彼女が、
「水の精霊、メイといいます」
俺が呼び出したのは、メイだった。
火の精霊マイの妹で、俺の妻のひとり。
俺が輪廻転生の呪いにかかってから、一ヶ月ほどの時間が経過している。
久しぶりに妻の顔が見えて、嬉しくなった。
今の俺はハルトとは違う顔だし、そもそもメイが召喚を受けたことがあるのは、俺と出会う何百年も前のこと。
俺と出会ってからは誰とも契約していない。
つまり、コレがメイの初めての召喚契約ってことになる。
……あれ?
メイから初めての召喚について聞いたことがあったけど、なんか問題があったって言っていたような……気のせいかな?
マイは俺が初めての契約者だけど、メイは俺がふたりめだった。メイの初めてはこの男。
とはいえ、コイツは俺なんだから、メイの初めては俺のもの。
ふっ、ふふふ。ちょっと嬉しい。
「主様。私は、なにをすれば?」
「え、あっ……」
しまった。なにも考えてなかった。
んー、どうしよっかな?
「メイは、人化できる?」
「可能です」
「それじゃ、ちょっと人化してよ」
精霊体じゃなくて、普段俺と接してくれる姿を見たくなった。
「……畏まりました」
メイの周囲を囲っていた水が、彼女に集まって消えていく。
全ての水が収束した時、俺が見慣れた姿のメイが姿を見せた。
精霊体も綺麗だけど、やっぱり俺は人化してる姿の方が好きだな。
「メイ!」
「──っ!?」
久しぶりに妻に会えて、我慢できなくなった。
だからつい、抱きついてしまった。
「メイ、俺は──」
ハルトだよ。
そう言おうとした時、頭上からとてつもない殺気が降ってきた。
「我が娘に、手をだすなぁぁ!!」
愛娘が襲われていると思ったのだろう。
星霊王の本気の一撃が、精霊使いの肉体を一瞬で消滅させた。
──***──
「……なるほど。そういうことか」
メイの話を思い出した。
彼女は初めての召喚の時、召喚者に襲われてしまい、それ以来召喚には消極的になってしまったと言っていたんだ。
その召喚者は、メイの父である星霊王が厳しい罰を与えたって話も聞いた。
罰っていうか、完全消滅したんですけど……。
つまり彼女を襲ったのは、俺だった。
メイ。怖がらせてしまって、ごめん。
でもこれで、四回目の死は終えた。
今回も人族の男に転生した。
俺がいる場所は、どこかの竹林。
この世界で竹のような植物が生えているのは、ヨウコやキキョウの故郷であるフォノストだけ。
だからここは、フォノストのどこかってこと。
竹林の中を少し歩くと、遠くに寺のようなものが見えた。
なにか宛があるわけではないので、とりあえずその寺に向かって歩いていく。
その道中、まだ乾いていない血が点々と、寺まで落ちていた。
怪我人が、寺の中にいるのだろうか?
少し早歩きで寺へと向かう。
近づいてわかったのは、この寺がかなり古く、長い間ヒトの手が入っていないということ。
無人の寺に、手負いの何者かが隠れている。
俺は今、ステータス固定ではないから、逃げるべきか?
ちょっとそんなことを考えたが、別に俺は死んでもいいってことを思い出した。
むしろ手負いの何者かが、俺を警戒して殺そうとしてくるならそれはそれで
殺されれば、輪廻転生の呪いの解除に一歩近づくのだから。
俺は寺に入ることにした。
寺の中にいたのは──
「キ、キキョウ!?」
ヨウコの母キキョウが、全身血まみれで倒れていた。
「おい、キキョウ! 大丈夫か!?」
「…………」
脈はあるが、意識がなかった。
調べてみると、彼女の腹に大きな切り傷があった。その傷口からは、キキョウの魔力放出を阻害する呪いのようなものを感じる。
九尾狐は生命力の強い魔族だ。
この傷口さえなんとかすれば、彼女は助かる。
俺の今の肉体は、ヒールが使えなかった。
そもそも呪いもかかっているので、ヒールだけではダメなんだ。
けれどこのフォノストには、傷を治しつつ呪いも解除できる薬草がある。
そして俺は、その薬草の探し方も知っていた。
「キキョウ、少し待ってろ。絶対に、助けてやるからな」
──***──
「んっ……」
傷ついたキキョウをハルトが見つけた翌日、寺の床でキキョウが目を覚ました。
ハルトが薬草を見つけ、キキョウの治癒に成功したのだ。
「たしか
彼女がヒトの住む地域のそばを移動していた時、たまたま冒険者に見つかってしまい、攻撃を受けた。
運が悪かったのは、その冒険者が破魔の武器を持っていたということ。
九尾狐としては完全体に近い力を得ていたキキョウだったが、悪魔や魔族に対して特効がつく破魔の武器の前では無力だった。
なんとか冒険者からは逃げたものの、冒険者につけられた傷が塞がらなかった。血を失い、体力が削られ、命からがらこの寺まで来て意識を失ったのだ。
「おっ。気がついた?」
「──っ!?」
ハルトが果物をいくつか抱えてやってきた。
当然キキョウは、ハルトのことなど知らない。
「ほら、食えるか?」
ハルトが果物を割ってキキョウに差し出すが、彼女はそれを受け取ろうとはしない。
人族の冒険者に襲われ、死にそうになったばかりなのだ。
見ず知らずの男が差し出してくる食べ物に、手をつけようなどとは思わなかった。
──普段の彼女なら。
「そなたが、
「そうだよ。この果実、体力の回復効果があるから、食べて」
「そ、その……か、感謝する」
なぜかこの男のことは信用していい気がして、キキョウはハルトから果実を受け取り、それを口にした。
「……うまい」
「よかった。まだいっぱいあるから、できるだけ食べて。それから少しだけなら、俺から魔力吸ってもいいよ」
「なに? お、お前。まさか──」
「うん。貴女が九尾狐だってのは知ってる。まだヒトを傷つけたことがないってのもね」
警戒心を高めたキキョウだったが、ハルトからは全く戦闘の意志を感じられず、罠の気配もなかったのでまずは体力回復に専念することにした。
それから一週間。
キキョウの傷が癒えるまで、ハルトは彼女のもとに食料や薬草を運び続けた。
ハルトとしては、単に自分の妻を助けるための当然の行為だったのだが、キキョウはそれを自分のせいだと感じていた。
人族からしたら、九尾狐などバケモノ以外の何ものでもない。
そんな
与えられた恩には、報いなければ。
しかしこの時のキキョウには、ハルトに渡せるものはなにもなかった。
ある、ひとつのモノを除いて。
それは──
「お、おい待て、キキョウ!」
ハルトはキキョウに本当に魅了され、身動きが取れなくなっていた。
ステータス〘固定〙でないハルトが、最上位の魔族であるキキョウの魅了に、レジストできるわけがなかったのだ。
寺の床で仰向けに寝る彼の上に、キキョウがのしかかる。
「待てませぬ。命を救われた恩に報いるために、
「ま、まさか──」
「男を悦ばせる性技は、サキュバス以上であると自負しております。その……まぁ、実経験はないのですけど」
ハルトは、照れるキキョウを可愛いと思ってしまった。
「
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