第314話 二回目と三回目

 

 それから俺は、二回死んだ。

 祖龍様に殺してもらったのを合わせて三回。



 二回目の転生で俺は、獣人の青年になった。


 それは狼系獣人の肉体で、歳はちょうど成人したくらいだった。時代は、もとの時間から1000年くらい前だと思う。


 呪いが解ければ、もとの時間に戻れると聞いていたので、少しだけ獣人の身体を堪能した。


 それでわかったことがある。


 獣人って、ズルい。


 獣人族のステータスは、人族の感覚からすると、生まれながらにして常に魔衣を纏っているようなものなんだ。


 ちょっと本気を出せば、とてつもない速度で移動でき、腕力も人族とは桁違い。


 これでは、魔法に頼ろうって思う獣人が少ないのもわかる気がする。



 ベスティエ獣人の王国では、力試し大会が至るところで開催されていた。


 俺は色んな大会に出て、その全てで優勝した。少しだけ魔衣が使えたのと、そもそも高速での戦闘には慣れていたから。


 あまりに快勝できるので、調子にのった。

 そのせいで当時の獣人王に目をつけられた。


『お前、強いらしいな? いっちょ俺と、殺り合おうぜ』


 そう言ってきた彼に、俺は見覚えがあった。

 彼は後に神格へと至る御方。


 武神様だった。


 獣人族の間では、史上最強と言われる獣人。


 当然そんな獣人王に敵うはずもなく、俺は後の武神様と三日間寝ずに戦闘して、力尽きた。


 死ぬ時は疲労が溜まりすぎて死んだので、そんなに怖くなかった。ずっと戦ってたから、興奮しっぱなしで自分の疲労に気づけなかった。


 でも、とても楽しかった。


 もとの時間にもどったら、武神様のとこにリトライにいかなくっちゃな。


 次は必ず、俺が勝つ!!



 ──***──


 三回目の転生で、俺はゴブリンになった。


 ヒトに害をなす魔物の代表。


 あんまり情報を入手できなくて、いつの時代なのかはわからなかった。


 俺は三十体ほどのゴブリンの群れに所属していて、仲間と一緒に森の魔物を狩って生活していた。


 ゴブリンになってるので、魔物の肉を生で食うのとかも全然抵抗なく平気だった。


 でも長い間ここにいると、俺は今後ゴブリンを倒せなくなってしまいそうだった。食い物を分けてくれる仲間たちが、良いヤツらに思えてしまったから。


 それに俺がいた群れは、森の奥深くに縄張りを持っていて、ヒトに危害を加えることはなかった。


 仲間がグレイベアっていう熊の魔物に襲われてたから、それを助けたこともある。そのせいで俺は、ゴブリンたちのリーダー的存在になってしまった。


 ゴブリンとはいえ仲間に頼られるのは、そんなに悪い気もしなかった。


 そんなわけで、ここに長期間いたら本当に、ゴブリンを倒せなくなりそうだ。


 冒険者にでも見つけてもらって、さっさと殺してもらおうって考えてた。


 そんなある日──



 仲間が、人族の少女を攫ってきた。


「いやっ、やめて──」


 俺の前に連れてこられた少女は、泣いていた。

 抵抗したのだろう。服はボロボロで、手足から血が出ていた。


 少女はすごく、魅力的だった。

 本能が、彼女を犯せといっていた。


 俺は少女を、襲おうとしていたんだ。


 獲物を手に入れたら、群れのボスが先に食う。

 それがゴブリンの習性。


 ボスが信頼されてないと、配下のゴブリンが勝手に獲物に手を出すことがあるが、うちの群れはそうじゃなかった。


 ちゃんと手付かずの少女を、俺のもとにつれてきた。


 少女を攫ってきた配下のゴブリンに、グレイベアの肉片を与えると、俺は少女に覆いかぶさった。


 これは、オレのモノだ。


 普通のゴブリンは、大型のグレイベアを倒せない。俺はいつの間にか、ゴブリンファイターに進化していた。


 ゴブリンファイターは、Dランクの冒険者でなければ倒せない魔物だ。そんな魔物の腕力に、少女が抵抗できるはずがない。


 少女の両手を片手で押さえつけ、残った手と舌を彼女の身体に這わせる。


 少女を気持ちよくさせようなんて考えない。

 自分が良ければ、それでいい。


 服を剥ぎ、いざ犯そうとした時、少女が消えそうな声で助けを求めた。



「勇者様、助けて……」


 ──と。


 この声を聞いて、俺は正気に戻れた。


 奪い取った少女の服を投げ返し、仲間には彼女に手を出すなと伝えた。


 少女は後ほど、巣から逃がしてやるつもりだった。


 だが仲間たちは、少女メスを見て興奮していた。


 魔物としての本能が剥き出しになり、俺の支配力が及ばなくなっていたんだ。


 お前が犯さないなら、寄越せ。


 そう脅される。


 俺がかつて守ってやったゴブリンたちが、俺に武器を向けてくる。



 そうか……。

 コイツらもやっぱり、魔物なんだな。


 ヒトの、敵なんだな。



 俺は少女を守りながら、群れのゴブリンたちを全滅させた。


 ゴブリンファイターとゴブリンの間には、圧倒的な力の差がある。苦戦はしなかった。


 苦楽を共にした仲間だったヤツらを、俺は一匹残らずバラバラに引き裂いた。


 ゴブリンたちの連携を鈍らせるために威嚇の咆哮をした時、少女は気を失ったから、俺が暴れる姿は見ていない。


 魔物とはいえ、生き物が目の前で引きちぎられる様子を見ずに済んだのは、不幸中の幸いだろう。



 俺は気絶している少女を抱えて、しばらく住んでいた巣を後にした。


 ここは、魔物が生息する森の奥深く。


 せめてヒトの住む町のそばまでつれていってあげなければ、他の魔物に襲われるかもしれない。


 俺が、怖がらせてしまった。

 俺の仲間が、彼女を傷つけてしまった。


 だから俺は、なんとしてもこの子を無事に、帰さなければならない。


 そう決意して、森を進んでいく。


 だけどその役割は、思っていたより早く終わった。




「少女を攫ったゴブリンって、ファイターだったのか」


 背後から声が聞こえた。

 それと同時に、俺の首は地面に落ちていた。


 倒れる俺の身体から、少女を奪って優しく抱き上げた男の顔が目に入る。



 ……そうか。


 少女が助けを求めた勇者は、か。



 神様からもらった刀で、俺の首を刎ねた黒髪黒目の勇者がそこにいた。

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