第313話 一回目

 

「ちなみに自殺は、死亡数に含まれんからな」


「そうなんですか?」


 自殺はダメらしい。


 そうすると、誰かに殺されるか病気や寿命で死ぬしかないってこと?


 もしかしたら誰かに『俺を殺して』って頼むのも、自殺になっちゃわないだろうか?


 なかなか難易度が、高いかもしれない。



「あと、輪廻転生といっても六道を順に巡るわけではない。死んだ後、なにに転生するかはランダムだ」


 ラ、ランダム?

 人族以外にも、転生するってこと!?


「えっと……祖龍様、すみません。俺、輪廻とか六道って、よく知らないんですけど」


「もともと輪廻転生は遥人、お前たちの世界の者がこちらに伝えたものだ。そもそもこちらの世界には、六道など存在しない」


 輪廻や六道って、俺がもといた世界の話なのか。


 あー。そういえば、主人公が輪廻から抜けようとして転生を繰り返すって映画の予告を、見たことがあるな。


「この世界に六道はないが、その話を聞いて面白く思った邪神が、なんとなく真似て作ったのが『輪廻転生の呪い』だ」


 六道は、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上っていうの六つの『迷いの世界』のことらしい。


 本当の輪廻転生は六道を巡りながら、輪廻から抜けることを目指すという。ちなみに輪廻から抜けられるのは、人間道の時だけ。


「お前がかけられた呪いは、自殺をせずに六回死ねばもとの場所、もとの時間、もとの肉体に戻ることができるものだ。ここまではよいか?」


「はい。大丈夫です! ちなみに、誰かに殺してくれって頼むのは……」


「それはたぶん問題ない。あくまで自分ひとりの動作が直接の原因で死ぬのが、カウントされないだけだ」


「そうですか。あっ、残り何回死ねばいいかは、どうやって確認すればいいんでしょうか?」


 問題なく死ねたのかは都度、確認しなければならない。


 無駄に何回も死ぬのは、さすがにキツい。


「残りの回数は、ステータスボードを見れば載っておる」


 載ってるの!?


「ス、ステータスオープン!!」


 ステータスボードを見る。



 状態:呪い(輪廻転生:残り六回)



「……マジか」


 ほんとに載ってた。


 ちなみに『状態』以外の項目は、全て文字化けしていて読むことができなかった。


「今、お前の意識が入っている青竜の肉体は、呪いによって無理やり生み出されたものだ」


 本来は、存在しない個体なのだという。


 だからステータスボードもほとんどの項目が、おかしなことになってしまうらしい。


「数千年ぶりに色竜が生まれたと思い、我も気分が高揚しておったのだが……」


 一万年前のこの頃はまだ、竜の個体数がとても少なかったようだ。


 なんか、申し訳ない気持ちになる。


「あぁ。別にお前を責めておるわけではない。悪いのは全て、邪神だからな」


「そう言っていただけると、助かります」


「なに、お前も被害者なのだ。何度も死を体験するのは、人族には辛いことだと思う」


 そうなんだよな。

 一回でもトラウマなのに。


 六回も死ななきゃいけないとか……。


 もとの肉体に戻れたら、七回の威力を込めて、邪神を殴ってもいいのではないだろうか?



 よし、そうしよう。


 決心ができた。


「祖龍様。いろいろ教えてくださり、ありがとうございました」


「なに、このくらい構わぬ。お前は未来で、我が子孫を──っと、これは言うとまずいな」


 えっと、子孫がなんでしょうか?

 すごく気になるのですが……。


「まぁ、我にはお前に協力したい気持ちがあるということだ。遠慮なく、我を頼るが良い」


 助けてくれる理由が気になるが、全てを把握している祖龍様を頼りにできるのは心強い。


「何度目かの転生で、お前が我の魔力を必要とする時がくるはずだ。我のもとに来たければ大地に手をつき、我を呼べ」


 そうすれば祖龍様が、ここ魔界まで転移させてくれるという。


 ちなみにその時に貸してもらう魔力が、前回俺が祖龍様に会った時に奪われた魔力になる。


「わかりました。その時は、よろしくお願いします」


「うむ」


「それから、大変申し訳ないのですが──」


 こんなことを、頼みたくはないのだけど。


「あぁ。わかっておる」


 呪いで無理やり生み出された身体とはいえ、今の俺は、この世界最強の色竜のうちの一体だ。


 毒などは効かず、病気もしない。

 寿命は1000年を超える。


 そんな俺が死ぬためには、祖龍様に協力していただくしかないんだ。


「それでは、一思いにやるぞ?」


「……はい」


 祖龍様が、巨大な爪を俺の頭上に構える。



 怖い……。


 ステータス〘固定〙になってから、ダメージを受けることがなかった。


 久しぶりに感じる、死の恐怖。



「頑張れよ、ハルト」


 祖龍様の爪が、振り下ろされた。

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