第312話 輪廻転生の呪い
「こ、ここは!?」
邪神を殴るまであと一歩というところで俺は、どこかに転移させられたみたいだ。
周りは真っ暗でなにも見えず、ここがどこだかわからない。
それに──
「マジか……転移魔法が、使えない」
転移の魔法陣を、描くことができなかった。
それどころか、魔力の放出すらできない。
どうなってるんだ?
「──くそっ」
気がせいた。
直感が止まれと言っていたのに、それを無視したせいだ。
ティナたちは、無事だろうか?
できる限りの備えはしてきたから、俺がいなくなっても屋敷まで帰還はできるはず。屋敷まで帰れば海神がいるので、邪神はティナたちに手を出せなくなるはずだ。
もし俺になにかあったら、迷わず逃げろって言ってある。ちゃんと逃げてくれてるといいけど……。
彼女たちが無事に逃げられたとして、きっと俺のことを心配してるだろうから、できるだけ早く戻らなきゃいけない。
まずは、状況を把握しよう。
おかしいのは、魔力を放出できないってことだけじゃない。
なんとなく俺は、どこかに立っているというのが感覚でわかるのだけど──
なんか俺の身体が、ゴツゴツしてる気がするんだ。
ありえないけど、その……。
まるで俺が、竜にでもなったかのような──
「我は、お前の誕生を祝おう」
突然、どこかから声が響いた。
誕生って、なんのこと?
それにこの声は、どこから聞こえるんだ?
なんだか、どこかで聞いたことのある声のような気がする。
「どうした。目は、見えるはずだ」
そう言われても、なにも見えないぞ。
「それはお前が、周りを見たいと思わないからだ。強く願えば、お前にはそれができる」
強く願う……。それだけいいのか?
よくわからないけど、どうしようもないので声に従う。
周りが見たい、見たい見たい見たい。
──おぉ!! ぼんやりと周りが見えてきた。
俺の目の前に巨大な龍、祖龍がいた。
「改めて。我は、お前の誕生を祝う」
「そ、祖龍様?」
「あぁ、そうだ──ん? なんだお前、転生者か」
確かに俺は転生者だけど……なんか以前あった時と、祖龍の態度が違う。
「あの! 俺はいったい、どうなったんですか?」
たぶん俺は、邪神の呪いを踏んだ。
その呪いの効果で、ここまで転移させられたのかと思っていた。
でも……そうじゃなかった。
「自分の状況がわかっておらぬようだな」
そう言って祖龍が俺に、顔を近づけてきた。
その巨大な瞳に、俺の姿が映る。
そこにいたのは俺ではなく、真っ青な竜だった。
俺が右手を上げると、祖龍の瞳に移った青竜も手を挙げる。
どうやらこの竜が、今の俺の姿らしい。
「……え」
な、なんで!!?
「転生者よ、混乱しておるようだの。まぁ、むりもない。いきなり竜になったのだからな。我で良ければ、できる限り質問に答えよう」
祖龍が、優しく話しかけてくれた。
でも、なんでだろう。以前あった時と、俺への接し方が違うのが気になる。
「祖龍様。俺、あなたにお会いするのは、二度目ですよね?」
カタラの雫を作るために、祖龍様の爪をもらいに来たことがある。
そんなに時間が経っていないのに、忘れられてしまったのだろうか?
「なに? しかし我には、そんな記憶……いや。もしや、お前は──」
巨大な瞳で見つめられる。
俺のすべてを、見透かされる感じがした。
「ハルト……そうか。お前は、ハルトというのか」
「は、はい! そうです、ハルトです!!」
ようやく俺のことを、思い出してくれたようだ。
──と、思ったが違った。
「邪神の呪いで、一万年も先の未来から来たのか」
「……え?」
祖龍が言っていることの、意味がわからない。
「我は、お前に会うのはこれが初めてだ」
「はい?」
「お前が会ったことのある我は、今から一万年先の時を生きる我だな」
「ど、どういうことでしょうか?」
「お前はこの世界の邪神に、呪いをかけられた。それで一万年の時を遡り、ここに来たということだ。我がそれを知ることができるのは、未来を見る力があるからだ」
祖龍が未来視の能力を持つというのは、なにかの文献で読んだことがある。
それはいい。
問題は、俺がかけられたという呪いの方だ。
「意味がわかりません。いったい、どんな呪いなんですか!?」
そもそも、俺のステータスは〘固定〙されているはず。
ステータス固定の呪いは、カタラの雫でも解除できなかったんだ。
それなのに俺はこうして姿を竜に変え、一万年も前に飛ばされている。
つまり俺が踏んだ呪いが、ステータス固定の呪いを上書きできるくらい強力な呪いということだろうか?
竜になってるのも、一万年も前に来たのも、意味がわからない。
「お前がかけられたのは、『輪廻転生の呪い』だ」
「り、輪廻転生?」
「そうだ。この呪いは、ちと特殊でな。ヒトの意識だけを飛ばす呪いなのだ」
「意識を……ってことは今、俺の意識だけがこの竜に入ってるってことですか?」
「そういうことだな。普通、意識と魂は離れることはない。しかしお前がかけられたのは、とある条件を付けることで、強引に意識と魂を分離させてしまう呪いだ」
この世界のヒトは、『肉体』と『魂』と『意識』で構成されている。
魂に肉体の形状が記憶されているから、肉体が消滅してもリザレクションで蘇生してもらうことができる。
肉体がなくなっても、魂さえ無事ならなんとでもなるんだ。しかし逆に、魂が傷ついてしまうと最悪の場合は死に至る。
そして魂と肉体を操作して動かすのが『意識』だと、祖龍が教えてくれた。
「ハルト。お前は邪神に、ステータス固定の呪いをかけられたのだな?」
「はい、その通りです」
「それはとても強い呪いだ。西条 遥人であったお前が転生する際、邪神がお前の魂にかけたのだろう。それは魂に〘固定〙された呪いだから、お前の魂が消えない限り、この呪いが解除されることはない」
ちなみに魂自体も〘固定〙されてるので、俺の魂が消滅することはないらしい。
「そうなると尚更、俺が今ここにいる理由がわかりません」
「輪廻転生の呪いは、肉体にも魂にも一切干渉しないからだ」
んと、つまりどういうこと?
「魂に干渉しないのだから、『ステータス固定の呪い』が『輪廻転生の呪い』を打ち消すことはない」
俺の意識だけここに飛ばされ、転生とも少し違う感じになっているんだという。
ということは意識が消えた俺の肉体が、邪神の目の前で倒れてるってことか!
周囲の空間ごと転移させられたって推測してたのだけど、状況はよりまずいかもしれない。
邪神の目の前に、無防備な俺の肉体が転がってるわけなのだから。
……ん?
待てよ。
「意識だけここに来たってことは、肉体と魂はセットで、邪神の前に残されてるってことですよね?」
「恐らく、そうだろうな」
──ってことは、その肉体はステータスが〘固定〙の状態だから、邪神であってもなにかしたりはできないってことだろう。
「邪神がお前の肉体を、どこかに転移させていなければだがな……」
まぁ、それは大丈夫だろう。
同じ世界にいるのであれば俺は、どこであっても転移で移動できるのだから。
少し安心できた。
あとはなんとか、自分の肉体の許に帰ればいいんだ。
「祖龍様。俺はどうすれば、もとの肉体に戻れるのでしょうか?」
祖龍は、この世界の森羅万象を把握している。
未来のことだってわかるくらいだ。
きっと輪廻転生の呪いの解呪方法も、知っていると思った。
そしてその考えは、正しかったのだが──
「それは簡単だ。
「え……?」
一回だけでも、死ぬのは怖かった。
わずか一回でも、その死の原因をつくった神様を殴ろうとしてたくらいなのに……。
俺はもとの身体に戻るため、六回も死ななくちゃいけないらしい。
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